伝えること
「アイラ?」
部屋に行くために角を曲がると、前ナミキさんがから来る。泣いているところを見られたくなくて、顔を合わせないよう下を向き、横を通り抜けようとした。
すれ違う瞬間。視界が大きく揺れた。ナミキさんは俺の肩を掴み、向かい合うように無理やり合わせられたからだ。
向かい合っても下がった頭は上がらないまま。だけど、顎から落ちる雫が止まらない。
「どうして泣いているんだ」
優しい声で言われると、キサラギさんのことを思い出す。
「俺は、……最低です。」
涙を流すのってこんなに辛くて苦しくて、きついものなんですね。
「……ぐすっ、ごめんなさい。」
「本当にどうしたんだ。」
俺は耐え切れず、その場に膝から崩れ落ちた。
「アイラっ!」
座り込んでしまった俺のことを支え、背中を優しくなででくれる。
「っ、すみません。……ありがとうございます。」
目頭を押さえて涙をこらえる。
「何でもないです。」
そう言い残し、フラフラしながらもナミキさんの前を去ろうとした。
「……待て」
言葉を無視して歩く。
「待て!」
今度は腕をつかまれる。
「……離してください。」
手を振り払おうとするが力強く握られ離してくれない。
「キサラギと何かあったんだろ。」
図星をつかれた。
振り払おうとした手の動きを止めてしまう。
「キサラギの部屋の前を通ったら、声が聞こえたんだ。聞こうとはしていない。ただ、アイラの謝る声が聞こえた。ごめんな聞いたことは謝る。」
「謝らないでください。もとは俺のせいなので……」
「どちらにせよ謝ったならいいんじゃないか。でも、アイラが俺にしてくれたようにキサラギも何か話したいけど話せないことがあるかもしれない。昔から見てるからわかるんだ。」
「ナミキさんが聞かないんですか……」
「俺は聞けないよ……」
「なんで……」
「あいつが辛いときに励ませなかったんだ。逆に、暗い顔をさせてしまった。俺じゃ駄目だったんだ。」
泣きそうな顔で言われると、何ていえばいいのかわからない。
「俺だってあなたを励ませないです。なんて声をかければいいのか。」
「アイラはできる。キサラギを頼む。」
きれいな礼に俺もあわててお辞儀をする。
顔を上げると、優しいナミキさんの顔が見えた。
「ナミキさんは言葉が強いけど端々から優しさを感じます。誰かのことを思えたり、心配したり……自信を持ってください。ありがとうございます。」
もう一度、お辞儀をすると俺は深呼吸をして、キサラギさんの部屋に向かう。
「ったく、言葉が強いとか余計なこと言うなよ。ほめるならしっかり褒めろよバカ。……がんばれ、アイラ。」




