過去4
あれは雨が強く降っていた日。
俺はユキヤ様に婚約を断られて、パーティーで噂されたことを夢に見ることがあった。
その日も夢を見ていた。汗をびっしょりかき、呼吸が乱れて視界がかすむ。苦しくて苦しくて胸の前を右手で握りしめた。
「俺は……ぐすっ、好きだったのに……」
涙ぐんだ目を両手でこする。
窓の外から見える空は、今の俺の気持ちを表すようだった。
食欲もわかず、部屋を出て外に行った。雨をよけることはしない。ザーザーと強く降る雨に打たれ、服がぬれていくのを感じる。
冷たくて、体が震える。でも、心も冷たくて生きることがつらい。
庭のベンチに体を丸めて、横になった。
「もう、いいかな……」
目をゆっくり閉じる。歯がガタガタとなり、うるさい。
寒いな……。
「兄上!起きて!風邪をひくから。」
その声を聞き、目を開くと目の前には傘もささずに息を切らしているキサラギがいた。
俺が起きたことに気づくと、俺の体に腕を回し、ぎゅっと力強く抱きつかれる。
「うっ、ぐすっ、キ、サラギ、うっ、うぅ」
指先は冷たくなっていたが、キサラギの触れるところが温かくなっていく。
安心して涙が溢れる。
「兄上。」
そして、体は宙に浮き、家に戻された。
濡れていた俺たちは、一緒にお風呂に入ることになった。
「兄上、どうして傘もささずに外にでたの……、たまたまベンチに寝てる兄上が見えたからよかったけど、気づかなかったら……」
泣きそうな顔で鏡越しに俺を見る。
俺は最低だ。弟を悲しませてるのに、キサラギと触れ合っている肌は熱を持ち、洗われているこの状態に顔が赤く染まる。
その翌日、風邪をひいた。
「げほっ、ごほっ」
気管支が狭まってヒューヒューと音がなる。苦しい、誰か助けて両手を天井に向けて必死に伸ばすと誰かに優しく握られた。
「……げほっ、えっ?」
「兄上。大丈夫?」
心配そうな眼差しで俺を見る。
「俺は、男が好きだから。普通じゃないから。つらい……」
風邪のせいか余計なことを話してしまった。
「……えっ」
そりゃ、驚くよな。なんで言ったんだろう。
涙が溢れてくる。最近は泣いてばかりだな。
顔を隠そうとキサラギに握られていた手をぬこうとするが、上手く力が入らない。それどころか、ぎゅっと強く握られた。
ドキッ。
小さく胸がときめいた。
昨日からなんか変だ。キサラギを見る度に……
ドキッ。
どうしちゃったんだ俺。
「兄上。私は兄上が大好きです。」
ドキドキドキドキ
キサラギは俺を兄として好きなんだろう。
でも俺は、兄弟でかわいい弟としか思ってなかったのに好きになってしまった。




