緊迫した情勢
「なんなんだ一体……」
疑問を口にする事で、恐怖を紛らわす。
水深300メートルの海中、遭遇するような脅威などないはずだった。
しかし、現実に某国のこの潜水艦は攻撃を受けている。
多少のきな臭さを常にかもし続けつつも、決定的な戦争にはならない世界。
冷戦と呼ばれるこの状態の中、対立する国は水面下で暗躍していた。
その中でも、文字通りの水面下。
海の中における勢力争いはそれなりに熾烈だった。
定められた領海はあるが、それを監視する術は無い。
事実上の無法地帯として、海は様々な国や勢力が入り乱れていた。
潜水して活動をする潜水艦は、それこそ領海や領域などを超えてあちこちに潜り込んでいる。
決定的な戦闘こそ起こらないものの、それは既に戦争状態と言って良いものだ。
そんな潜水艦の一つ。
原子力で動くそれは、いつも通りに敵領海に忍び込んでいた。
夏でも氷で被われた北極海。
その海中で何かあった時に備えている。
指示があれば、その場で活動を開始し、敵への攻撃を行うために。
しかし、実際に戦争になるような事はほとんどなく。
危険と緊張はあるものの、潜水艦は具体的な脅威にさらされる事もなかった。
この日、この時までは。
最初におそってきたのは衝撃。
船体が大きく揺れた。
いったい何かと思ったが、分かるわけもない。
巨大な海流がいきなり発生したのか。
あるいは、巨大な何かがぶつかったのか。
原因はわからない。
外を見る方法はないのだ。
各種探知機で、魚の群れや周辺の地形などは分かるのだが。
それにひっかかるような反応はなかった。
だが、衝撃を受けたのはその一回だけではない。
続いて何度も潜水艦は船体を揺らした。
探知機は相変わらず何もとらえてないのに。
慌てて潜望鏡を使っていく。
厚い氷の下、しかも水深300メートルでは光も届かない。
目で見て何が分かるというわけもない。
だが、探知機に何もうつらないとなれば、目に頼るしかなかった。
もちろん、何が見えるという事もなかったが。
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