05話 褒美と陰謀
「本当に我が娘を助け、更に子攫いの大男、ユウラまで倒した黒の魔物狩りよ…ミスタラ王国を代表として心から感謝する」
ユウラをボッコボッコに打倒した翌日、俺は城に呼ばれて玉座に座っている国王から礼を言われていた。
坂口さんは国王の隣に用意された椅子に、静かに座っていた。
王女としての風格がしっかりと分かる。
「では、先ずは一つ目の依頼の報酬じゃ」
国王がそう言うと、兵士達が大きな箱を俺の目の前に運んできた。
箱を開けて中を見てみると、そこには日本円で一枚一万もする金貨が、箱パンパンに入っていた。
開いた口が塞がらない…
貰おうとは思っていたが、この量を当たり前に用意するとは思ってもいなかった。
ま、まぁ旅の資金にしさせてもらおうか。
でも、これだけの金貨…国が傾くんじゃないか?
そう思って俺は恐る恐る質問してみた。
「あ、あの…これ程の金貨、どうやって用意したのです…か?」
「それは我の貯金から出した…娘を助けてくれた礼としては少ないと思うが…せめての足しにしてくれ」
国王の自腹ならいいのだが、それ以前にこの量を少ないと思う国王も国王よ…娘思いを通し越してこれは親バカだよな…
内心国王の親バカっぷりに呆れていたが、貰えるものは貰っておこう精神で、大量の金貨を貰うことにした。
流石にこの量を運ぶのはめんどくさいので、空間魔法でじいちゃんと過ごした家の地下倉庫に転送することにした。
あの家の周りは魔物の集落がいつかできてあるし、魔物が自分達をフルボッコにした人間が居た家を襲うことはないから、家の地下に転送して、必要になったらチマチマと使うことにしよう。
「さて、願いことは無いか?できる範囲なら叶えるぞ」
大金で依頼料は十分だな~っと思っていたら、まさか俺の願い事を叶えてくれるとは…太っ腹だなここの国王は、叶えてくれるのなら、折角だし叶えて貰おうか。
「それじゃあ…今までの魔物の情報を含め、今後魔物の情報を提供してくれませんか?なんせ俺は魔物狩りなので」
俺は国王に魔物の情報を提供するように求めた。
普通に調べたらある程度の魔物の情報は分かるのだが、偶に国の都合で魔物の情報を隠蔽されたすることがあるとじいちゃんから聞いた。それにここは俺が住んでいた魔物が多い大森林と接している王国、魔物の研究に長けているはずだ。その研究結果を見れたら魔物の対策がもっと楽になるだろうしな。
国王の返事を待っていると、驚きの返事が返って来た。
「……そんなことで良いのか?…別に娘との結婚でもいいぞ?」
「「ブフッ!」」
国王の爆弾発言に、俺と坂口さんは思いっきり吹き出し、護衛で居る者達も驚いている様子だった。
「い、いやいやいや!!お父様!?いきなり何を言っているんですか!?」
「いや~…黒の魔物狩りならば、ソフィアを任せられると思ってのう…!」
「け、結婚なんてまだ早いです!……でも、神影君となら~ゴニョゴニョ」
呑気に言っている国王と、何故か湯気が上がるほど真っ赤になっている坂口さんと、話に置いて行かれている俺。
「さて、結婚の件は後日に改めることにして…本当にそれで良いのだな?」
気になることを言いながら、国王は願いがそれでいいのかと俺に確認を取って来た。
俺は笑みを浮かべ、
「はい、それだけで十分です」
と答えた。
「…分かった、数日後に今までの魔物の情報をまとめた本を渡すことにしよう」
国王は少し残念そうな顔をしながら、魔物の情報を提供してくれると約束してくれた。
「ありがとうございます…」
国王に深々と頭を下げなら俺は礼を言い、今後の予定を立てる為にも宿泊している宿に戻ることにした。
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宿に戻った俺は、国王からの報酬で貰った金貨で、昨日滅茶苦茶にしてしまった部屋を弁償しようとした。
本当は解決後に弁償代を払いたかったのだが、ユウラの身柄引き渡しや子供達の救出などで帰れなかったのだ。
宿のオーナーに、数十枚の金貨を弁償代として払おうとすると、
「お金は結構です、黒の魔物狩り様…!」
オーナーは金貨の受け取りを拒否した。
「いやいや!結構滅茶苦茶にしたはずだよ!?」
「いいのですあれぐらい…私達の子供を救っていただいたのですから」
オーナーが手招きすると、店の奥から見覚えのある男の子が出て来た。
「この子が家の子です…数日前に攫われて、酷い暴力を受けたそうなんです…もし、黒の魔物狩り様が助けてくれなかったら、この子は今頃…」
オーナーの説明を聞いて思い出した、確か兵士達と子供達を檻から出していた時、一番状態が酷かった子だ。
余りにも酷かったから、応急処置として俺が回復魔法を施したんだった…まさかここの宿の子だったとは…
「誠にありがとうございます。他と比べたら貧相かもしれませんが、是非家で一番高い部屋にお泊りください…勿論お代入りません…!」
「う~ん…それじゃあ泊まらせて貰おうか。明日か明後日には別の所に行くつもりだし、ゆっくり休ませてもらうよ」
「こちらが部屋の鍵です」
お礼としてここの宿で一番高い部屋の鍵を貰った俺は、前の部屋に置いたままにしていた荷物だけ持って、一番高い部屋に向かった。
「おっ、シャワーあるじゃん…浴びとくか!」
部屋に入った時、俺の目にシャワーが止まったため、俺は汗とかを流すために最初に入りに行った。
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ラムロ大森林、遥か昔にあった大戦で活躍し、初代勇者と呼ばれるようになった ラムロ・ベムラートの名にちなんでつけられた大森林で、ラムロ大森林には様々な魔物や人々が生きている。魔物はある程度の生息域が決まっており、それにかぶらないよう人々は村や小さな国を作ったりしているため、種族間による全面戦争が起こることは滅多にない。
そしてラムトが居るラミスタラ王国は、ラムロ大森林に唯一接触している国で、稀に繁殖なので気が荒くなった魔物が襲ってくることがあるが、ラミスタラ王国の兵士達のお陰で大きな被害が出たことはない。
そんなラミスタラ王国の国境付近にて…
「命令通り、戦力になりそうな魔物を大量に集めといたぜ」
水晶玉を持ちながら、水晶玉に話しかけているタキシード姿の少年が居た。
そしてその少年の後ろには、様々な魔物達が目を光らせて今か今かと待機している。
『ご苦労さん…ちゃんと切り札になりそうな魔物は居るよな?』
「勿論、そのためにわざわざ魔力を消費して、名前をつけたんだ…あとで褒美を寄越せよ…?」
『嗚呼、成功してもしなくてもちゃんとやるよ…んじゃあ、そっちのタイミングで始めてくれ、山中』
ブツッっと、電話を切るような音が聞こえ、その音と共に水晶玉の光が消えて水晶玉は真っ黒になった。
黒くなった水晶玉を少し見つめた後、山中と呼ばれた少年は後ろを振り向き、
「…ピンチの時はよろしくな、フレイラ…」
真紅色の龍の頭を撫でながらそう言った。