04話 子攫いの大男
感知で探していると、部屋の一番奥にある檻に王女らしき人を見つけることができた。
檻に近づき、中を見た時俺は驚きのあまり石のようにその場に固まった。
「神影君?」
俺を転生前の苗字で檻の中から呼んだのは、髪色だけが変わっていたクラスメイトの坂口さんこと、坂口 秋だった。
坂口さんは陰キャだった俺とは正反対のような存在で、クラス…いや、学校中で人気で美女のだったため、ファンクラブがあったほどだ。
俺とは天と地ぐらいの差だ。
でも、本当に坂口さんが王女なのか?来ている服は高価そうだけど…よし、こういう時の解析だ!
【ソフィア・ラミスタラ】
種族 人族
保有スキル 【氷結】
うん、国と同じ名前があるから坂口さんが王女で間違いないね…
でもまさかクラスメイトが王女だったとは…やはり俺みたいに転生している連中が居るのだろうか?
まぁ取り敢えず、今は坂口さんを助けるのを優先しよう!
考えるのを後にして、俺は魔法の構築を始めた。
「岩石弾!」
魔方陣から岩を砲弾のように打ち出し、檻を壊しそうとしてみたのだが…
檻に当たるや否や岩は砂のように細かくなって消滅していった。
「神影君この檻…どうやら魔法無効が付与されているみたい…だから物理攻撃じゃないと壊せないよ」
「…マジか」
坂口さんから檻について聞いた俺は、ため息交じりに声を出した。
檻に付与されている魔法無効は、魔法で物質を生み出す際に使われる魔力暴走させ、物体の維持ができなくなるようにする付与系魔法の一つ。
魔法無効は大きさにもよるが、付与するとなると時間と魔力を大量に消費するため、一般人が使うことはほぼない魔法なのだが…
「完全に努力する方法を間違えているだろ…」
感知と解析の同時使用で部屋中の檻を見てみると、全ての檻に魔法無効が付与されていていたため、仮面集団の無駄な努力に呆れかえった。
「まぁ、魔法が無効されても壊せるけどね」
かっこつけてクルクルと大鎌を回した後、俺は勢いよく大鎌で檻の柵を切り裂いた。
鉄でできている檻の柵を切り落とすのを見た坂口さんは目を丸くして驚いていた。
「さっ、早く帰りましょう王女様!」
そう言って俺は坂口さんに手を差し伸べ、何故か顔を赤くして坂口さんは俺の手を取った。
俺と手を繋ぐのが恥ずかしいのかな?
そんなことを思っていたら、
「ハァ、ハァハァ……ガキ共…さっさと檻に戻れ…!」
「ユウラ様待ってくだせぇ!」
息を切らした大柄な男がやってきて、その後に三人の男がやって来た。
どうやらあの大柄な男がユウラという仮面集団のボスらしい…
「聞こえなかったのか?さっさと檻に入れって言うってるんだよガキ共!!!!」
ユウラの叫び声で、握っている坂口さんの手が震えるのが分かる。
それだけじゃない、他に捕まっている子らの泣き声が聞こえ始めた。
どれだけ子供達に恐怖を植え付けたんだ…このゴミは…!
押し込めていた怒りが沸々と湧いてくる。
また怒りがこみ上げてきたが、じいちゃんが言っていたことを内心で復唱し落ち着かせる。
「坂口さん、下がっていて…」
ユウラに聞こえないよう小声で坂口さんに伝えたが、坂口さんは震えながら俺の手をしっかり握り、
「だ、ダメだよ…逃げなきゃ…!」
今にも泣きそうな顔をしながら坂口さんは、逃げるように俺に言ってくれるが、俺は坂口さんに優しく、
「大丈夫、油断はしないし…アイツら程度に負けることはない…」
と伝え、それを聞いた坂口さんは渋々後ろの方に下がった。
それを確認した俺はユウラに一つ質問した。
「…一つ聞かせてくれ…何故こんなにも大勢の子供達を誘拐するんだ?」
俺がした質問にユウラは、
「道具に決まってんだろ?馬鹿な親共は大金を払えば子供が帰ってくると思っている…俺らはそれを受け取って子供を奴隷市場に売り飛ばす!子供を一人誘拐して売り飛ばすだけで儲けられる仕事をしない理由なんてないだろ?…特にお前のような魔法が得意で魔力量が多いガキは、戦争兵器として高値で買ってくれる連中が居るからなぁ?」
狂気じみた答えを返して来た。
ユウラの答えを聞いて、俺は決めた。
コイツには容赦はいらないと…
「野郎共、大人を舐めているクソガキを捉えろ!!」
「「「おう!」」」
ユウラの命令に、後ろで待機していた男達が一斉に俺に襲い掛かって来た。
男達が襲い掛かってくる中、俺は大鎌を構えながら風魔法で刃に風を纏わせた。
「風圧斬」
「「「うあぁぁぁーーー!!!」」」
男達が目の前まで来た時、俺は怒りを込め大鎌を振り、振るった際に出た風圧で男達を吹き飛ばした。
「クソガキが!恐怖を与えよ!暗黒地帯!!」
ユウラが俺の放った中級の闇魔法により視界が真っ黒になったが、感知により俺はユウラの場所を把握できている。
俺の視界を奪えていると思っているユウラは、俺の腹を殴ろうとしてきたが、俺は余裕でジャンプで交わし、そのままユウラの肩を蹴り軽く吹き飛ばし地面に着地した。
「このガキ!!」
次は頭を掴まれそうになるが、今度は体勢を低くしユウラの弁慶の泣き所を思いっきり蹴った。
「いてっ!」
ユウラが跪いた瞬間、草魔法で根っこを地面から生やして腕と足に絡めて動けないようにした。
「な、何しやがる…!」
根っこによる拘束をユウラは必死に解こうとするが、根っこはビクともしない。
念のため拘束する力を強めた後、俺はユウラの頭を掴んでこっちに顔を向けさせた。
「お前のようなクズに言いことを教えてやる…子供はお前の金稼ぎの道具じゃないってことをな!」
俺に恐怖を感じたのか、ユウラは汗を出して生唾を呑んだ。
だが、俺の怒りはこれ程度じゃ収まらない…
ユウラに追い打ちをかけるようために、とある魔法をかけることにした。
「無詠唱で使用できるが…特別に言ってやるよ…っ!…あらゆる者をその深き闇で飲み込み、我が敵に絶望と言う名の地獄の苦しみを与えよ…」
「お、おい!それはまさか!!やめろ!!やめてくれぇ!!!」
俺とユウラの下に魔方陣が現れ、俺が何の魔法を使おうとしているのか分かったユウラは、震えながら必死にやめるよう頼んできたが、もう遅い…
「お前はやり過ぎたんだ…せめての償いとして藻掻き苦しめ!」
振るえているユウラに、俺は声を上げて怒鳴りつけ、魔法を発動させた。
「深淵魔法!地獄時間!!」
深淵魔法 地獄時間
効果は触れている対象者に地獄のような様々な痛みを数時間与え続けさせる深淵魔法の一つ。
しかし、深淵魔法の大半に代償があり、地獄時間の代償は使用者の激痛を数分間与え続け、苦痛耐性がない者には気絶する場合がある。
「ギィアアァァーーーー!!」
地獄時間の効果で、地獄のような痛みをユウラを苦しめ、部屋中にユウラの叫び声が響き渡る。
そして程なくして俺にも代償の激痛が来た。
苦痛耐性のおかげで少しはマシになっているが、物凄く痛い…
痛みのあまり動けなくなっていると、
「神影君大丈夫!?」
坂口さんが駆けつけて来てくれた。
「う、うん…地獄時間の代償で激痛が来てるけど心配ないよ…あっ、坂口さん、悪いんだけど兵士達呼んできてくれない?俺、今動けないから…」
「わ、分かった!待っててね!」
そう言い坂口さんは俺が来た道で、兵士を呼びに行ってくれた。
感知を発動して見ても敵のような奴らはもう居ない。
安心した俺は、ユウラの悲鳴が響き渡る中、痛みに耐えながら床に寝転んだ。
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「ユウラがやられた?」
ワインが入ったワイングラスを持っている男が、窓越しで空に浮かぶ大きな月を見ながら報告に来た者に聞き直す。
報告に来た者は明らか人間では無く、頭には狐の耳のようなものがついており、九つの尻尾が生えている。
「嗚呼、16前後のガキにな…しかも、俺らとの取引が始まる数十分前にだ…もしかしたらお前が血眼で探している転生者かもな?」
そう言い報告に来た者はワイングラスを持っている人物に向かって手を向ける。
「うん?どうしたんだい?」
「はぁ…分かってんだよどうせユウラを倒したガキについて調べて欲しいんだろ?だったら前金としてさっさとアレを寄越せ」
「ふふふ、君にはお見通しか」
そう言いワイングラスを持っている人物は、報告に来た者に何かが入った小袋を投げ渡す。
「んじゃあ行ってくる…」
そう言い報告に来た者は暗闇へと消えて行った。
「期待してますよ、君には特に…ね」
ワイングラスを持っている人物は、グラス越しに月を見た後、ワインを一口飲んだ。