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ショートショート6月〜3回目

思い出の、バイク専門店

作者: たかさば

 大きな通り沿いの、バイク店がつぶれた。


 市内では有名な、バイク専門店だった。


 定番のバイクも、高いバイクも、レアなバイクも、スクーターも、新品も、中古も、たくさん取り扱っていた。


 小さな子供のころ、親父に連れられて、初めてバイクを見た店だった。

 子供のころ、何度もバイクを見に行った店だった。


 何度もバイクに触らせてくれた店だった。

 何度かバイクに跨がせてくれた店だった。


 老舗の、品揃え台数市内ナンバーワンの、バイク好き市民に愛された、すばらしい店だった。

 市内のみならず県内各所からも、県外からも客が来るような、魅力あふれる店だった。


 つぶれるなんて、思いもしなかった。


 いつだって、店には人がたくさんいた。

 いつだって、店にはたくさんバイクが並んでいた。

 いつだって、店には賑やかな声がこだましていた。


 つぶれないで、ほしかった。


 この店は、俺が大好きな店だったから。

 この店は、俺が一番気にいっていた店だったから。

 この店は、俺がはじめて夢中になった店だったから。


 つぶれたのが、残念でならない。


 思い出の店が……また、なくなってしまった。


 バイクの一台もない、広い店内を見て、涙が出た。

 バイクの消え去った、ガラス張りの店舗を見て、唇を噛んだ。

 バイクの気配の失われた、コンクリート製の建物を見て、頭を抱えた。


 俺の中に残る、この店の……切ない、思い出。


 この店で、初めて見たバイクの…かっこよさ。

 この店で、初めて触ったバイクの…硬さ。

 この店で、初めて跨ったバイクの…重たさ。


 この店で、初めて物欲を覚えた。

 この店で、初めて貧困を嘆いた。

 この店で、初めて我慢を強いられた。

 この店で、初めて悔し涙を浮かべた。

 この店で、初めて綿密な計画をたてた。


 この店で、初めて盗んだバイクの…記憶。

 この店で、何度も盗んだバイクの…記憶。

 この店で、最後に盗んだバイクの…記憶。


 ああ……俺は、なんという、ことを。


 あの一番奥にあったハーレー、盗んどけばよかった。

 手前に並んでた新品のスクーター、盗んどけばよかった。

 外に放置されてた高圧洗浄機、盗んどけばよかった。


 悔やんでも悔やみきれないが……いまさら、どうしようも、ない。


 俺は、後悔の気持ちを、胸に。


 市内で二番目にデカいバイク屋に、足を運んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] コルァー! ダメッ!٩(๑`^´๑)۶ [一言] 15の夜がたくさんあったんですね……きっと。
[一言] 一度覚えた味というものはなかなか忘れないものでして、目の前に美味しく盛り付けられた皿がありましたら我慢が出来ずついつい摘まみ食い。次の皿はどんな味かと引っ切りなしに食べ過ぎ、積み上がる皿。し…
[良い点] 声を出して笑いました。 「オメーのせいやんけ」←その通り。
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