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思考の箱庭、花びらひとつ

作者: 公羽

ページを開いていただき、ありがとうございます。




 どうも皆様。

 わたくしの名は佐倉(さくら) (さくら)


 サクラであります。


 ああ、植物のサクラではないですよ。別に桜の妖精みたいなファンタジー的な存在ではないんです、ちゃんと地に足ついた人間です。

 ええとほら、あのサクラですよ。一般人に紛れて色んな盛り上げを手伝う、客のフリをして商品購買の意識を高める、みたいな。どこの店の何のサクラかは言いませんが、そんな感じです。


 意味がわからなければ、無視して大丈夫です。特に大事なことでもありませんから。



 そんなことよりも皆様にひとつ、これまでの脈絡等を無視してお聞きしたいのですが。


 思ったことはありませんか?

 この世界は創作物で、誰かが楽しむだけに存在しているんだって。そして、わたくし達はただの創作キャラクターなんだって。


 わたくしのこの名前も、それだったら納得できるんですよ。だって私、8月生まれだから桜と一切縁がないんです。桜の木の下で生まれたわけでもなく。

 名字とゴロが良いからって、適当に付けられちゃいました。別に、悪い名前ってわけではないですよ。同姓同名の人を愚弄する気はありません。


 ただ、無邪気で可愛く残酷な小学生からしたら、この名前は良いおもちゃだったんだろうなと、思い出すことはありますけどね。


 でも、この世界が創作物なんだったら、納得はします。してあげます。だってこの名前、創作物の世界だったらありそうじゃないですか。

 なのでこの仮説、人類5分前仮説なんかよりも説得力あると思いません? ほら、人類は実は5分前にできていて、それ以前の記憶は全て作られたものなんだーっていう仮説。これよりは説得力あると思いますよ。


 まあ、特に誰かを説得する気もないので論も何もありゃしませんが。


 ……それこそ論が通っていない?

 そもそも何が言いたいのかわからない?


 あはは、特に理解しなくて大丈夫ですよ。だってこれはただの前置きなので。この世界がどうのこうのとか、わたくしが生きる上では特に必要ないので。


 本題にはまだ一歩しか踏み込んでないので、ご安心を。回りくどくて申し訳ありませんが、悪しからず。


 さて、「話が長い」と後ろから刺されるのも嫌なので、皆様お待ちかねの本題にはいりますが。




 "わたくしの正体"を一緒に考えていただけないでしょうか。




 ……ああ、そんな可哀想な者を見る目でわたくしを見ないでください。それをされて喜ぶ趣味はないんです、本当です。しっかりと回りくどい説明をしますから、とにかく聞いてくださいませ。


 わたくし、近頃自分というものが何かわからないんです。どんな性格で、どんなものが好きで、どんな人間なのか。


 中二病というわけではないと信じたいですけど、それすらもわからず。自分探しの旅に出るほどの勇気と旅費がないことは知っているんですけどね。

 ああ、あと、話が長いことと、適当に取り繕った前置きができる、ということも知っています。


 とりあえず。

 これまでのわたくしの発言から、わたくしの性格を推理して欲しいのです。いわゆる、探偵ごっこというやつでしょうか。


 そして、「君はこういう人間だよ」とわたくしに提示していただきたいのです。人助けに興味がなく、面倒に感じた方には申し訳ありません。もしお優しい方でしたら、どうぞよろしくお願いいたします。


 ……


 …………


 ………………


 ……ああ、もしかすると推理材料が足りないかもしれないので、よろしければ材料となるエピソードを。

 勿論、追加料金等は必要ありません。




 そう、あれは高校2年生になったばかりの、春頃のこと。


 その日は今までで一番、夕焼けが綺麗な日でした。

 わたくしは、夕日を背景に爛々と咲き誇る一本の桜の木に近づくと、その幹を強く抱きしめました。


 そして顔を流れる一筋の涙を拭うと、脳内でその桜の木を燃やしました。

 とてもとても、綺麗でした。


 桜はその日から一週間以内に散ってしまいましたが、今でもわたくしの脳内には、あの紅の中で鮮やかに舞う桜が残っています。




 ……以上が、エピソードです。


 意味がわからない、なんてことはないと思いますが。

 それでも、疑問は抱かれているかもしれません。


・何故1年生の頃にはそうしなかったのか。


・何故夕方にそうしたのか。


・何故桜の木を抱きしめたのか。


・何故泣いていたのか。


・何故桜の木を脳内で燃やしたのか。



 でも、理由なんて案外簡単かもしれませんよ。

 ほら、例えば桜の木が好きだから抱きついたけど、服が汚れてしまったから泣いたとか。その桜の木が憎くて燃やしたかったけれど、燃やしたら問題になるから脳内だけに留めておいたからとか。


 もしかしたら、「わたくしが桜を嫌っている」という印象をお持ちの方は、異なる理由を思い浮かべるかもしれませんね。


 さて、あまり話を大きく広げても収集がつかないので、ここで皆様の回答をお聞きしたいです。


 わたくしはどのような人間だと思われますか?




(1)

 大学生ぐらいの女性。おそらく黒髪。中二病。回りくどい言い回しをしているようで、中身はない。したがって、あのエピソードにも意味はない。かまって欲しいがために、このような質問をしている。


(2)

 名前にトラウマを持った、20代中頃の女性。黒いスーツがよく似合う。深く悩む癖があり、自分を見失っている。あのエピソードは、桜の木と自分を重ねて葛藤を抱いたものであり、桜の木を燃やしたのは自己の消滅を意味している。




 以上の選択肢に、正解はあると思いますか?

 はたまた、皆様の回答に近い選択肢はありますか?






















 まあ性格云々の前に、わたくしは"男"なので、どちらも違うんですけどね。


 もし(1)、(2)のどちらかをイメージされていた方は、何故そう思われたのでしょうか。


 名前ですか?

 口調ですか?

 桜の木のエピソードですか?

 はたまた、はじめのほうにあったサクラの件ですか?


 どんな理由にせよ、わたくしの性別を異なるものに固定化されたのであれば、少し悲しく思います。


 そして、少しの話から相手のことを理解するのは不可能だと、どれだけの方がそんな当然のことを思われたのでしょうか。

 たった数分でわたくしのことを理解しようとされた名探偵の皆様は、わたくしの性別を正しく理解されていたのでしょうか。

 創作物の中の、創作上のキャラクターとして軽く扱ってはいないでしょうか。


 ……少し変な空気にしてしまいましたかね。


 ということで、わたくしの正体についてのお話はここらで終わりにしましょうか。

 先入観があっては、推理は難しいでしょうから。 


 こちらから聞いておいて、強引に終わらせてしまい申し訳ないです。



 ……そうだ、お騒がせしたお詫びとして。ここまでお付き合いいただいた皆様におひとつ、花びらを差し上げましょう。差し上げるというか、もう差し上げてはいるのですが。


 この花びらは、わたしくしの一部です。創作物のような世界で生きた、創作キャラクターのようなわたくしの構成要素のひとつ。


 ああ、なので花びらは現物ではありませんよ。

 わたくしが生きた人生、その一部を詰め込んだ、この語りがひとつの花びらということで。もう渡し終えてますので、要らないとは言わないでくださいね。


 ……花びらは"ひとつ"ではなく"一枚"ですって?


 わかってますよ、大丈夫です。

 でもそうですね、もしわたくしの語りを聞いてなお、人助けが好きなお優しい方がおられましたら。


 何故わたくしが"ひとつ"と表現したか推理してみてくださいませ。もしかすると大した意味もないかもしれませんけどね。


 そして答え合わせを兼ねて、またわたくしのお話を聞いてくださいね。




 この世界に生きているわたくしが枯れて消えてしまう、その前に。





 完



はじめまして、あるいはお久しぶりです。

作者の公羽と申します。


拙書ではございましたが、

最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回の語り部である桜君は、一癖も二癖もある人でして……言い回しに対してご不快に思われたら申し訳ありません。意味のない話や繫がりのない内容を好むのが彼なんです。しかし本人はああ言っていますが、きっと皆様に感謝していると思います。だって真偽はどうあれ、真摯に向き合ってくれた人を嫌いになる桜君ではありませんから。

ただこれは私への忠告でもあるのですが、先入観や人物像の押しつけには、気をつけたいものです。作者である私が桜君に嫌われるのも、おかしな話ですしね。


さて、長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。もし誤字脱字報告やご意見等がございましたら、いただけますと幸甚です。


また皆様と、次のお話でお会いできることを願って。


20220417

公羽

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