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始業式の夕方、太陽が地平線に沈み始めた頃、アイリはせわしなく時刻を確認しながら、いそいそと外出の準備をしていた。


「アイリ? そんな浮かれ足でどうしたの?」


不思議に思ったセレナが疑問を投げかけると、アイリはセレナの手を掴み、目をうるうるさせて懇願した。


「セレナ! お出かけしよ!」


「えっ、いいけど……」


勢いに呑まれ思わず頷いてしまった。それを見たアイリは飛び跳ねて喜ぶ。


「いいけど、どこに行くのよ」


「コレ見て!」


アイリはパンフレットをセレナに見せた。そこにはカラフルな文字で『夕方限定マカロン特売! 大好評販売中!』と書かれていた。そして色とりどりのマカロンが載っていた。


「マカロン? それぐらいなら全然付き合うわよ」


「それじゃサクッと準備して行こう!」


セレナは制服から動きやすい服装に着替え、マイラに出かける旨と用事を伝えてから出発した。


「マカロン〜♪ マカロン〜♪」


アイリはスキップしながらどんどんと大通りを進んで行く。セレナは場所がわからないためただついて行った。


「……ごめん、道間違えちゃった」


「アイリ……」


セレナは額に手を置き、ため息を吐いた。アイリはパンフレットの地図をひっくり返したり、回したりしながらどうにかルートを探す。


「今度こそ大丈夫なはず!」


セレナは一抹の不安を感じながら、またアイリの後ろをついて行った。


気がつけば二人はマカロンよりも危ない薬が売ってそうな店の前に到着した。そして辺りはスラム街のような雰囲気を醸し出していた。


「……絶対ここじゃないよね」


「あたしもそう思う」


「アイリ……」


セレナとアイリはとりあえず現在地を特定する為に屋根に昇った。


「王城がアッチだから……学園と真反対のところに来ちゃったみたいだね」


「笑い事じゃないわ。どう迷ったらこんな所にたどり着くのよ……」


さっさと帰ろうとするセレナの袖をアイリは掴んだ。足を止めたセレナはアイリの顔から笑みが消えていることに気がついた。


「セレナ、なんか聞こえない?」


言われた通り耳をすませば、風が吹く音の中にグチュグチュという不快な音と啜り泣くような音が聞こえた。


「聞こえたわ」


「絶対普通の音じゃないよね」


「ええ、行ってみましょ」


音がする方向に二人は屋根伝いで進んでいく。段々と音は大きくなるが、それでも注意して聞かなければ分からない程度だった。


「この家から音がするみたい」


簡素な家のドアが半開きだった為、人影に注意しながらゆっくりと中に入って行く。


「酷い……なにこれ」


入ってすぐのリビングには血で塗りたくられていた。木製のテーブルは血で赤く染まり、何かを引き摺ったような跡が残っている。


「やばい事件の匂いだね」


「ええ」


血の跡を辿ると、地下室に続いていると思われる階段が見つかった。グチュグチュ音と啜り泣く声がより一層強くなりセレナは顔を歪ませた。


「木剣かなにかを持ってくるべきだったわね」


「あたしは素手で十分。セレナは魔法で援護して」


「わかったわ。怪我したら承知しないからね」


そろりそろりと階段を降りていく。強烈な血の匂いが鼻を突き、靴が血液で汚れていく。


「この扉の向こうね」


アイリが囁き、息を吸った。そして後ろ蹴りで扉を蹴り壊し中に突入した。


「ゲッ!」


中には男と女の子が居た。男は血化粧のように身体中に血が着いており、ついさっきまで食べていたと思われる肉塊から手を離した。女の子の方は口を布で塞がれ、手足を縄でぐるぐる巻にされていた。


「あんた、吸血鬼?」


アイリが吐き捨てるように言った。男はニタリと笑いアイリに飛びかかった。


「誰が動いていいと言いました?」


セレナが魔法により白銀の炎を生み出し、男の手と足を焼き切った。


「オガァァァアア!」


芋虫のように転がった男は痛みで額に油汗をかきながら床を飛び跳ねる。


「再生しないってことは屍鬼人(グール)ね。付き添いの吸血鬼が居ないのは自然発生かしら?……返事がないわね。さっさと処分しましょう。屍鬼人(グール)に知性的な会話が出来ないことを忘れていたわ」


セレナは再び魔法を使い、今度こそ徹底的に男の体を燃やし尽くした。


「アイリはどう思う?」


「あたしも自然発生説を押したいけど、最近こんな記事が出てるんだよねー」


アイリは懐から新聞を取りだした。あの日伯爵が見ていたのと同じ記事だった。


屍鬼人(グール)が多発している? 」


「そう、この件とも無関係だとは思えないんだよね」


「でも私たちが対処する問題じゃないわ。それこそ王立騎士団のやる事でしょう? 明日、学校に報告して……」


そこまで言ってセレナは凍りついた。


「証拠全部燃やしちゃった。しかもこの状況は不味いわよ。誰かに見られたら私たちが犯人と思われるわ」


「逃げるか」


「でもこの子はどうするの? 見たところ親はそこに転がっている肉塊でしょう?」


セレナとアイリは顔を見合わせて、頷いた。


「「証拠隠滅も兼ねて攫っちゃおう」」


そうしてセレナとアイリは女の子を気絶され、お姫様抱っこの状態で家から運び出した。そしてこっそりと屋根伝いに学園へ戻って行った。このような大胆なことが出来るのは、スラム街の幼い子供は戸籍登録などされておらず、一人二人消えたところで周りも騒がないことが当たり前だからだ。





しかし、寮への帰り道で最悪の人と出会ってしまう。レオンだ。傍からすると血で汚れた服を着た二人が女の子を誘拐しようとしている構図に見えてしまうのだ。


「さて、なぜ君たちが女の子を誘拐したか話してもらおうじゃないか」


寮の部屋に戻ると最悪の空気で会話が始まった。





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