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二日間にわたる馬車の旅が終わった。レオンとは寮の場所が違うため、途中で別れた。


「思っていたよりもずっと広いですわね」


夕方に女子寮に到着したセレナは割り当てられた自室に入った。傭兵時代に使っていた宿とは大違いで、ひと目で高いとわかる装飾品や五人で入っても余裕がありそうな湯船など内装は目を見張るものがあった。


「貴族様の子息が住むところだからね、それなりに良い作りじゃないと親が文句言いそう」


アイリが馬車から持ってきた荷物を部屋の中に入れる。セレナも手伝おうとしたが、令嬢がやることでは無いとやんわりと断られる。暇になったセレナは馬車による長旅のせいか、ベッドで横になるとすぐに眠りについた。




「セレナー、起きてー。来客だよー」


一時間ほど寝ていただろうか、アイリに揺すられセレナは瞼を開けた。もそりと起き上がり軽く衣服を整え、玄関に向かう。


「ごきげんよう、エスカドーラ伯爵令嬢様」


玄関にはエプロンを着た恰幅のいいおば様が立っていた。


「ごきげんよう、えーと」


「マイラよ。この寮を管理している寮母を任されているわ。これからよろしくお願いしますね」


「よろしくお願いしますわ、マイラさん」


お辞儀したマイラに釣られ、セレナもお辞儀をする。それを見たマイラは少し笑った。


「私は平民出身ですからそんなに畏まらなくてよろしいのですよ。あ、そうそう。初日ですし食事がまだだと思って作ったわよ。迷惑でなければ召し上がってくださいね」


マイラは料理の乗った台車を取り出した。まだ湯気が出ているそれらは夕食を摂っていないセレナの食欲をそそった。


「ありがとうございます、マイラさん。ちょうど空腹でしたわ」


「どういたしまして。食べ終わったら食堂に持ってきてください。それではナルザ王立学園での生活を楽しんでくださいね」


そう言ってマイラは立ち去る。アイリがテーブルに料理を並べていき、少し遅い夕食を摂った。アイリは形式通りに毒味をと思ったが、少し迷ってしないことに決めた。


─────


翌日、セレナがいつも通り日の出前の薄暗い時間に起きると、隣ではアイリが幸せそうにすやすや眠っていた。起こすのも忍びなく、そっとベットから降り、自分で動きやすい服を着替える。そしてこっそり持ってきた木剣を腰に下げ、部屋から出た。日課の訓練は学園に来ても続けるつもりだった。


寮の裏手の人目につかない場所で素振りをしていると、男子寮の方から草を踏み締める音が聞こえた。

警戒しながら音の発生源に近づくとレオンがそろりそろりと歩いていた。


「あら、レオン様! どうしてここに……」


「シーッ! 静かにしろ」


口に人差し指を当て、セレナに静かにするように言う。そして暫く躊躇した後に口を開いた。


「ものすごく、本当に不本意だが、お前の部屋に俺を匿ってくれ。夕べから部屋に女子どもが押しかけて、まともに眠れん」


思わぬ申し出にセレナは目を丸くすると同時に喜んだ。


───


レオンがやってくるという異常事態にアイリは多少驚いた。しかしすぐに予備で仕舞っていた布団を取り出してレオンにそこで寝るよう言った。元々寝るつもりは無かったレオンだが、長旅に加え女子からの猛アピールでクタクタになっていた。不承不承そこに寝転んだレオンはすぐに目を閉じ、寝息を立てながら眠った。


「レオン様も大変ですね」


目の下の隈を見てアイリが小声でセレナに囁いた。しかしその言葉がセレナに届くことは無かった。


「あぁ、レオン様……! 寝ている姿も美しい……! まるで完成された彫刻みたいです……! やはり完璧……ッ! 私の婚約者はなんと素晴らしいのでしょう……ッ!」


寝顔を見てハァハァ言うセレナにアイリは少し引いた。そして少しイタズラを思いつき、セレナに耳打ちした。次の瞬間、セレナの顔は耳から湯気が出そうなほど真っ赤になった。


「レオン様はお疲れなのよ! そんな……そんな恥らしいこと出来るわけないじゃない! あなたはもう少し乙女の恥じらいというものを……モゴモゴ」


「シーッ! シーッ! レオン様が起きちゃいますよ!」


自分で始めたことだが思いの外、大きく反応されてしまいアイリは慌ててセレナの口を抑える。もがー! もがー! と暴れるセレナを抱え、寝室の外に出る。


レオンは耳打ちする前ぐらいから起きていた。ひっそりと魔法を放つ準備をしていたのだが、使わなくて済んだことに安堵し、小さく呟いた。


「襲われたらどうしてやろうかと考えていたが……今は情熱派に見えて、意外とまともな思考回路に感謝してやろう」


そう言って再び目を閉じ、朝日が昇るまで仮眠を取った。


レオンが男子寮に戻って行き、朝ごはんを食べるために二人が食堂に向かうと、マイラから「若いっていいわねぇ」と言われ、セレナは弁明に励むこととなった。

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