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アゼルと試合を行ってからはセレナが脱走しないようにと、常にメイドの一人がそばに控えていた。


「セレナ様、お手が止まっております」


「うぅ、運動したい……」


「旦那様より部屋から一歩も外に出すなと言われております」


セレナはこの世の終わりのような顔をしてテーブルに突っ伏した。そんなセレナを見て、メイドはお茶と菓子を持ってきた。


「あと十日間頑張ればご褒美を旦那様より貰えると聞いております。セレナ様なら出来ると思いますよ」


メイドはニッコリと笑った。




そして十日後、ついにジェラードに与えられた課題を全てこなした。無理矢理知識を詰め込まれた脳は悲鳴をあげている。


「よく出来たね。流石はセレナ嬢だ」


「お褒めに預かり光栄ですわ」


伯爵が満足気にセレナの成果を確認し、合格点を与えた。そしてポンと手を叩いた。


「そう言えばご褒美をあげないとね」


「楽しみにしていますわ」


「多分結構喜んでくれると思うよ。入ってきていいよ」


その声と共に執務室のドアが開き、黄色の風がセレナに抱きついた。


「セレナー!」


「アイリ!? なんでここに!?」


アイリはセレナに頬ずりし、胸に顔を埋めて深呼吸する。


「やっぱセレナはいい香りがするねー。直属メイドに志願して正解だったよ!」


「という訳で、アイリくんを伯爵家のメイドとして雇うことにしたよ」


「えぇ!? 傭兵団はどうしたのよ! まさか抜けてきたの!?」


「うん、抜けた」


あっさりと言うアイリにセレナは目眩がした。


「私とあなたが抜けたらどうなるのよ」


「大丈夫! 女の子二人がいなくなって傾く様なヤワな傭兵団じゃないから! むしろ稼ぎ頭になるチャンスができて喜んでるよ!」


「そう、なのかしら」


「そうに決まってるよ!」


再会を喜ぶ二人に伯爵は笑って言った。


「喜んでもらえてよかったよ。それでこれから入学する学園について話してもいいかな?」


二人に学園のしおりを手渡し、喋り始める。


「もともと十二歳から六年間かけて貴族の子息を教育するんだけど、セレナ嬢は今年で十六になるから途中編入という形で入る。ひとクラスにつき四十人程で授業を受けたり、演習を行ったりするから落ちこぼれないようにね」


「はい、レオン様の婚約者として、エスカドーラ伯爵家令嬢としてふさわしい振る舞いを致しますわ」


その言葉を聞いて伯爵は頷いた。


「アイリくんはセレナのメイドとしてサポートしてあげて欲しい。学園の寮でセレナ嬢の身の回りの事を助けてやりなさい」


「身の回りの事以外も助けるよ」


「セレナ嬢の成長を阻害しない程度なら許可します」


伯爵は椅子から立ち上がりセレナの肩に手を置いた。


「最初に拒絶されたけど、私はセレナ嬢を守ることが姉との約束なんだ。困ったことがあったら遠慮なく家名を出していい。伯爵家令嬢だからって侯爵や公爵家の者に舐められるような姿は見たくないからね」


「わかりました、伯爵様。頼れる時は頼りますね」


「うん、それでいい。私は君が安全で楽しい生活を送れることを祈っているよ」


セレナたちは部屋に戻って行った。その姿を見届けた伯爵は椅子に座り直し、一枚の新聞を取り出した。その新聞には『恐怖! 王都連続吸血事件!』の見出しがデカデカと載っていた。


──────


翌日、セレナは学園行きの馬車に揺られていた。


「おい、なぜ俺がお前と同乗する羽目になっている」


隣に座っているレオンは盛大に顔をしかめていた。隣に座っていると言ってもレオンは端に寄っており、人一人が座れるほどの間隔が空いていた。


「伯爵様のお計らいですわ。ここ数日、わたくしとレオン様はまともに会話すらしていませんもの」


「伯爵め……」


「レオン様はわたくしのことがお嫌いなのですか?」


セレナはスッとレオンに近づく。


「やめろ、近づくな。頼むから近づかないでくれ」


レオンは手を伸ばしセレナを制止する。その様子を見ていた御者のアイリは大きくため息を吐いた。


「レオン様、セレナ様の婚約者なのでしょう? そのような態度はエスカドーラ伯爵の家名に泥を塗ること以外に変わりありません」


「だそうですわ、レオン様」


レオンは盛大に舌打ちをして手を下ろし、腕組みをして目をつぶった。


「頼むから俺に触らないでくれ。あと学園でも俺に構わないでくれ。いいか? 必要事項の伝達以外喋りかけてくるな」


「学園外ならよろしいのですか?」


「俺がいいと言った時以外はダメだ」


その言葉を聞いたアイリは思わずムチで馬を強く引っぱたいてしまい、馬の悲痛な叫びが辺りに響いた。




その頃、学園では小さくない騒動が発生していた。騒動とは光を操る魔法の使い手が王族以外から出現したのだ。その魔法は基本的に王族だけのものであり、間違っても魔法が使えないと言われていた男爵令嬢に遺伝されるということは、ありえないはずだった。

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