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その日、セレナは恋に落ちた。盲信的で甘い恋心はセレナから冷静さを奪った。


「セレナ嬢」


セレナの前に立っているちょび髭オヤジが呼びかけても一向に返事をしない。ただ風になびく黒髪を目で追い、その一挙一動を目に刻み付けようと限界まで見つめる。


「エスカドーラ伯爵、誰だその女は」


男はセレナを見ると、眉間に皺を寄せて後ずさる。


「あぁ、これは申し訳ない。こちらは今噂の傭兵団『アルカバラン』に所属するセレナ嬢だ。そしてひとつ付け加えるなら、私の姉の娘だ」


─────────


「おっさけーおっさけー」


「ちょっと、アイリ! お酒飲むのはいいけど飲みすぎないようにして!」


アイリと呼ばれた黄髪の女性がビールを片手に肉を貪る。その様子を見た赤髪の女性が腰に手を当て、注意する。


「うるさいなー。セレナも飲め。飲んで飲んで小言が言えないようにヘロヘロになろう!」


アイリはセレナにジョッキを押し付け、席に座るよう要求する。


「宴会だからって下手に酔い潰れたら男どもが何をするかわからないじゃない!」


「おいおい、俺たちは野獣じゃねぇぞー! 少なくとも俺たちより強いメスゴリラに手を出そうなんてありえねーから!」


「違いねぇ! 白銀と緑黄なんざに手出した日にゃ息子と永遠のお別れだぜ!」


「「「わっはっはっはっ」」」


セレナの言葉を聞いた一人の男が大声で叫ぶ。それに釣られて周りも大声で笑い出す。セレナは顔を顰めビールを一口飲んだ。


「よお、祝勝会は楽しんでるか?」


熊のような男がセレナに話しかける。彼は傭兵団『アルカバラン』のリーダーを務めているジェイだ。


「ええ、下品な野郎のせいでちょっと滅入ったわ」


「そうかそうか。いつも通りだな。っと世間話しに来たんじゃなかった。ほれ、お前の分け前だ」


ジェイはドンとテーブルに札束を置いた。パッと見五千枚は下らないその厚さにセレナは驚いた。その様子を見たアイリはニヤニヤする。


「さすが白銀。人殺しがお上手」


「アイリの分はこっちな」


ジェイはアイリの目の前にセレナの二倍近い札束を置いた。


「アイリのほうが上手よ」


「私は雑兵蹴散らしたから多めで、セレナは大将一人でその量よ。どっちがお上手かしら?」


二人の間に火花が飛び散る。その様子を見たジェイは遠い目をしながら過去の光景を思い返す。


「何度見ても面白すぎるんだよな。黄色の旋風が敵陣を暴れ回り、白銀の炎が総大将を焼き尽くす。まるで吟遊詩人の歌みたいだな」


ジェイがおどけて肩をすくめる。そして別のテーブルに移動した。


「正直歯ごたえがなくて虚しいのよね。魔法一発でビビり散らかしたところをスパって切るだけなの。どっかに骨のある男はいないのかしら」


ふぅと息を吐き、まだ見ぬ強敵を切望する。何も知らない人が見たら、その姿は深窓の令嬢そのものであった。


「戦闘狂ね。魔法なんて見せつけられたら普通ビビるわよ」


「魔法みたいな動きしてる人がよく言うわね」


「あたしのは純粋な身体能力ですー。そんな貴族の特権みたいな魔法と一緒にしないでくださいー」


そう言ってビールを一気に飲み干す。


「貴族……貴族なら強い男は居るのかしら」


「変な考えはよしてよ。貴族とか選民思想の塊じゃない。例え白銀の二つ名を出してもそうそう会えないでしょ」


「その事についてなんだがな」


ズドンとジェイが椅子に座る。


「依頼主だったエスカドーラ伯爵が二人に礼を言いたいってよ。だから明後日に城に招かれる」


セレナは思いもよらぬ提案に目を丸くする。


「普通、礼って言ってもお使いの者とかでしょ? なんでわざわざ招くのかしら?」


「さあ? 俺も真意は計りかねん。まぁお貴族様の提案を跳ね除けることは出来ねぇからな」


アイリは質問をするために手を上げる。


「城に行くってことはそれなりの衣装は必要でしょ?私たち持ってないんだけど」


「マジかよ。いや、まぁ確かに買わせてない俺も悪かったな。二人とも今年で十六か? 衣装と化粧はこちらで用意してやるよ」


「随分気が利くじゃない。どういう風の吹き回し?」


「いや、ただ可愛い子に綺麗な衣装を着せたい親心さ」


そう言ってジェイは二枚の羊皮紙を取りだした。その紙には簡易な地図と日時、そして伯爵家の印が押されていた。



─────



二日後、二人はドレスを着た状態で馬車に乗っていた。アイリは慣れないヒラヒラした布を着て、落ち着かなさそうにキョロキョロしていた。


「セレナー、このドレス軽いよォ……。防御力低そうだよォ……」


「ドレスですから低いのは当たり前でしょう? まぁ、ナイフを隠し持てる場所が少ないのは頂けないですが」


御者していたジェイがギョッとして振り向く。セレナは右裾を少し捲り、鈍く光る刃を見せた。


「おい、待て。マジでナイフ持って来てんのかよ。外せ外せ」


「これが無いと不安なのよ」


「アイリ、外してやれ」


「アイアイサー」


数分後、アイリによって暴かれた隠しナイフ十本を見たジェイは頭を抱えた。




「これから城に入る。頼むから厄介事は起こさないでくれ。いやほんと。貴族に目つけられると仕事にも支障が出るんだって」


再三念押しをしたジェイに連れられて二人は大きな扉をくぐる。すると両側にズラリと使用人が並んだカーペットが目に飛び込んだ。そのカーペットの上にはちょび髭のオヤジが立っていた。


「ようこそ、アルカバラン団長ジェイと白銀に緑黄だね。私はここの城主、エスカドーラ伯爵だ」


「これは伯爵様、お出迎えありがとうございます」


「いやいや、外敵を完膚なきまでに叩き潰してくれた君たちにはいくら感謝しても感謝し足りないよ。さ、奥でパーティの準備は出来ている。楽しんでくれたまえ」


伯爵にせっつかれるまま、三人はホールに入り、パーティを楽しんだ。そこそこ飲み食いしたところで、セレナは伯爵に呼ばれ、控え室に入った。


「伯爵様、なにか御用でしょうか?」


伯爵は先程までのにこやかな表情とは打って変わって、何やら神妙な顔つきになる。そしてゆっくりと口を開いた。


「君は本当によく似ているよ。私の姉に。白銀の炎を扱う点も私の姉と共通している」


「伯爵様? どういう意味でしょうか?」


伯爵は息を少し吸い、セレナの目を見た。


「白銀、いやセレナ嬢。君は私の縁者だ。断言させてもらおう。君は私の姉の、その娘だ」

頑張って投稿します。

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