引きニート
引きこもりになることを決めてから数日、俺は大きな問題に気付いた。
暇だ。
やることが何もなく、とても暇なのだ。
最初の数日は突如として引きこもりになった俺に対して、両親やメイド達が声をかけて俺を部屋から引きずりだそうと色々していたので、その対応でドアが外側から開かないように細工したり、引きこもるという意思を伝えることで忙しく退屈や暇など感じることはなかった。
しかし俺の意思が固く簡単には部屋から引きずりだせないと理解した両親は、無理矢理引きずりだすよりとりあえず気がすむまでやらせるように方針を変えたようで、ご飯をドアの前に置くだけになった。
そうして手にした念願の引きこもり生活。俺はすることが無いことに気付いた。
公爵家の長男と言えどもまだ5歳。部屋が多少広いだけで勉強机と絵本、今までの俺が集めていたガラクタ以外何にもない。
最初は体を鍛えようと思い筋トレをしてみたが
5歳児の体では長時間するのは色々厳しく、怪我をする危険も高いため、あと筋トレが嫌になったために諦めた。
というか、筋トレだけで1日を潰せるわけがない。
そこで俺は、この家の書庫から本を取ってくることを決意した。
我が家は公爵家なだけあってそこそこ広い書庫がある。大半は意味の分からん資料だろうが、とりあえず暇を潰せるならどんな本でもいい。ただ、出来ることなら魔法関連の本が欲しかった。
前回の人生では才能のなさから鍛えることを諦めた魔法だが、やはり元日本人としては興味は尽きない。それに、奥が深いだろうからいい暇潰しになると思ったのだ。
そしてその日の夜、皆が寝静まった午前3時頃にそっとドアを開ける。
ミッション開始だ。
……何の問題もなく書庫まで付いてしまった。
実は隠れて警備の人やらメイドやらが見張っているのかも知れないが、邪魔されないなら居ないのと一緒だ。無視して作業を進める。
書庫から本を2冊だけ取って部屋に戻る。本来ならもっと欲しかったのだが、5歳児の体では本2冊が無理せずに持ち運べる限界だった。
読み終わったらちゃんと返そう。
そう思って俺は寝た。
子供が夜更けまで起きるもんじゃないな、眠気がやばかった。
そうして書庫から勝手に本を借りて読む生活をすること数年。公爵家ゆえの大きな書庫だったが、ついに俺は全てを読みきった。もちろん専門的な意味分からん物も何個かあったが、有り余る時間とエネルギーに任せて討伐に成功した。
書庫の中には、魔法関連の本ももちろんあった。
魔法とは、人の体の中にある魔力を何かに変換して使用することらしい。魔力の量は個人差が大きく、ピンからキリまであるそうだ。
多分ターライトとかはバカみたいな魔力量あるんだろうな。
ちなみに俺の魔力量は中の下くらい。つまり平均以下です!
この平均は、貴族を基準に計算しているので平民の平均よりは多いと思うが、どっちにしろ決して多いとは言えない程度しかない。
この世界の人には、魔力と"門"がある。この"門"は目には見えないもので、体内の魔力をこの門を通して一気に放出することで、魔法として発現する。
この魔力は世界中に満ちており、体内の魔力を使いきっても時間経過で回復する。自分の体内にない魔力(空気中にあるものなど)を使って魔法を使うことはほぼ不可能であり、基本的には一度体内を通して"自分の魔力"にしてからしか利用できない。
一度に体内に貯めることのできる魔力の最大量を、その人の魔力量という。
こっちは人並みにはあったのでまだマシだった。
魔法には、その威力と必要な魔力量に応じて初級、中級、上級、最上級の4つの区分がある。
魔法をどのレベルまで使えるのかは完全に才能で決まっており、ターライトは全属性を最上級まで使えるが、俺は水と闇を中級までしか使えない。
ちなみに大半の貴族は中級か上級まで使える。
ここら辺は以前説明した通りだ。
使える魔法に限度があるのは魔力量と"門"のせいである。
才能の無い、つまり魔力量がない者が上級や最上級の魔法を使おうとするとガス欠で何も起きないのに魔力だけ消えるという事態になるのだ。しかも気絶する。
また、魔力量が足りていても"門"の大きさが小さいと高位の魔法は発動できない。“門“が小さいと一度に使用できる魔力の量も少なくなるためだ。
実際俺を含めた大抵の貴族は、上級魔法を2、3発程度なら打てる魔力量はあるのだ。
だが、俺の場合は“門“が大きくないために、使える魔法は中級までの魔力消費が少ないものだけなのだ。
無理に、上級の魔法を使おうとすると気絶するのは、前回の人生でわかったことである。
魔法を楽しみにしていた俺は、中級までの魔法を使えるようになったあと、講師の止める声も聞かずに一回だけと、上級魔法を使おうとしたのだ。
案の定、完全にガス欠になり俺は気絶し、恥を晒した。俺の黒歴史である。
俺が上級魔法を無理にでもチャレンジしたのには理由がある。闇属性には、中級以下に攻撃魔法が無いのだ。
正確に言うと、魔力に闇属性を攻撃に使おうとすると結構な魔力と門の大きさが必要なのだ。そのため、俺の闇属性の魔法はほぼデバフ系である。
こんなふうに、魔法は俺にとってはあんまり使えないものだが、引きこもりの暇潰しとしては最高だった。中級以下の魔力使用なら気絶することはないので、自由にオリジナルの魔法を考えることも出来たのだ。
まぁ、俺程度が思い付くものはほぼ全て既に使用されいたか、使い物にならないものだったし、俺が考えたのより断然燃費も良かったが。
そう簡単に“ぼくのかんがえたさいきょうのまほう“とか出来るわけねぇだろ魔法なめんな。
そもそも魔法を自分で作るといっても、やはり専門的な知識は必要となる。
そこら辺をうちの書庫にあった本と思い出したくもない黒歴史だらけな学園での記憶だけで理解しないといけなかったので、それだけで結構な月日が経ってしまった。
そんなこんなで、筋トレしたり、魔法で遊んだり、人間恐怖症を治そうとしたりしているうちに、俺は15歳になった。
そう、アドミラ学園入学の年である。
もちろん俺としては苦い記憶しかないアドミラ学園にはターライトと会わないという意味でも通う気は一切ない。
その意思をちゃんと両親にも伝えた。長年の研究の成果で、というか筋トレでムキムキになった体と、鍛え上げた魔法でこいつら程度なら何時でも殺せると自分に言い聞かせ、自分を騙すことで何とか面と向かって対話することができた。
実際には俺の魔法なんてたいしたものではないし、両親を殺せるかどうかなど全然分からない。しかし、そうやって自分を武力という殻で覆うことで、まともに話せるようになったのだ。
まぁ、両親のことなど大嫌いだし、多少話せるようになったからといって引きこもりを辞める気はさらさらないが。
しかし、今回のアドミラ学園入学に関してはあいつらも俺を通わせようと相当粘ってきた。
結局、俺の鋼鉄の意思が揺らぐことなど欠片もなかったが。
……思えば、こんなに必死になっていた時点で違和感を感じるべきだったのだ。
そして俺は今、おそらく食事に混ぜられた毒によって死にかけている。
普通に飯を食ってたら、急に体が痺れて動けなくなった。と思ったら、今度は身体が内側から焼けるように熱く感じる。
この時点で俺は毒を盛られたことに気付いた。
最初は驚き、そしてまた殺すのかとあいつらを憎く思った。
しかし、少し冷静になって考えると俺の方にも非があった。というか、ほぼ俺が悪かった。
あいつらから見れば、俺は10年にも及ぶ引きこもりで、一切公爵家の人間として必要なことも学ばず、何もこちらに還元しないただの穀潰しだ。
俺にも理由があったとはいえ、あいつらが知るよしもない。
今回の人生においては、俺が完全にミスっていたのだろう。
……それでも、実の息子を殺すのはやりすぎではないかと思うが。絶対許さん。
引きニートが生きてもいいだろが。
そうして俺の意識はまた暗い闇の底に沈んでいった。
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