2回目
遅れてごめん
「……は?」
理解の及ばない現状を目の当たりにして俺は呆然とする。
俺は全身傷だらけで死ぬまで秒読みの段階だったはずだ。おかしい。異常だ。意味がわからない。
……ひどく頭痛がする。痛い、痛い、あまりに痛い。本当に頭が破裂しそうだ。
思わず俺は頭に手をやり、うずくまった。
遠くから誰かの声がする。そう思いながら俺は意識を失った。
気付いたら俺は自分のベッドにいた。看病をしてくれていたのであろう、ベッドの側に立っていたメイドに説明を求める。
どうやら、中庭で遊んでいた俺は急に倒れうずくまり、気絶をしたらしい。
すぐに近くにいたメイドが気付き、ベッドまで連れて来て今から医者を呼ぼうとしていたところのようだ。
俺はとりあえず医者はいらないと伝え、とにかく部屋から出て誰も入れないようにきつくメイドに伝える。
メイドは心配そうにしていたが、俺も一切譲らなかったので渋々だが従ってくれた。
今はとにかく1人になりたかった。
1人になって、落ち着いて現状を認識したかった。
どうやら、というかやはり、俺は5歳のグレイ・ハウスダットに戻っているようだった。
おそらく死んだことをキーとして、5歳に戻ったのだろう。
死んだ瞬間のことを思いだそうとするとひどい頭痛がおきるが、それでも俺に何が起こったのか一つ一つ整理していく。
前世?と言っていいのか分からないが、俺が過ごしたグレイ・ハウスダットとしての13年は夢や幻覚とは思えない。
学校や家族の記憶、ターライトへの恐怖心、皆にはめられ裏切られたときの絶望、そして全身を貫くような痛みと命が体からこぼれでるようなあの感覚。夢というにはあまりに長く、リアリティーがありすぎる。
実際、今ですら死んでいくあの感覚で体の震えが止まらないのだ。
怖い。少し前まで仲間だと思っていた人間が笑顔で裏切る。そして俺は死んでいくあの恐怖。怖くて怖くてたまらない。
日本で死んだ時はまだマシだった。気付いたらトラックにはねられ、神経が麻痺でもしたのか痛みも、死んでいく実感も薄かった。
何よりただの事故で、あんなふうに裏切られ、嘲笑されながらの死ではなかった。
日本で読んだラノベにも、主人公が何度も死んで強くなっていくものはあったが、あいつらは全員気が狂ってるとしか思えない。あの時想像していた数十倍、いや数百倍は痛く、悲しく、そして怖い。
人間という生き物が怖い。
さっきのメイドを無理やり部屋から追い出したのも、1人になって考えたいといえ気持ちもあったがそれ以上に近くに人がいるという状況が怖かったのだ。
俺は体の震えをごまかすように、真っ暗な部屋で布団にくるまった。
そして俺は前回の人生でどうすれば良かったのかを考え始めた。
もう、死にたくない。
そして俺は今、絶賛引きこもりである。
俺は布団にくるまったまま、どうすれば良かったのかを考え続けた。
前回の人生の反省点は分かっている。牢屋にいるときに、親やラノアがしっかりと教えてくれていた。
俺の反省点とはつまり
5歳のときに急に人が変わったようになり、両親から気味が悪い子扱いをされたこと、
ターライトを怖がり、びびりまくったこと、
そして自分の保身だけを考え、いじめという問題に適当に首を突っ込んで問題を悪化させたことの3点である。
ここから導きだされる結論は簡単だ。
1つ、親には普通の子供のように思わせる演技をする。
2つ、ターライトを怖がらず、出来れば友達関係程度にはなること。
3つ、いじめには首を突っ込まないこと。
この3つである。
一見そこまで難易度は高くないように思えるだろう。
だがよく考えてみて欲しい。前回の人生とは明確に違う点がある。
そう、俺が人間恐怖症になったことだ。
人間恐怖症といっても、そこらの人やメイドに対しては気合いを入れて目を合わせないようにすればまだ普通の対応はできる。
問題は俺を裏切り、嘲笑った奴らだ。あいつらと会ったとき俺は自分で自分が何をするか分からない。一目散に逃げ出す可能性もあれば、その場で激昂して襲いかかる可能性もある。
少なくとも他の人と同じような対応は絶対に取れない。俺は今回の人生で学校にまた行ったら発狂する自信がある。
この問題がでかい。めっちゃでかい。この問題によって、さっき出した反省点の一つ目と二つ目はほぼ達成不可能になるのだ。
俺はこの難問を前にどうすればいいのか必死に考えた。もう死にたくないのだ。あんな苦しい思いをするのは二度とごめんだ。
そして俺はひらめいた。発想の転換とも言うべきか。俺はこの問題を解く必要などないのだ。
俺には絶対にターライトと会ったり、親と会ったりする義務はないのだ。"ストラブ"のシナリオがとか、邪神がとか関係ないのだ。
主人公であるターライトなら俺なんかと出会わなくても邪神をどうにかしてくれるだろうし。
そして俺は思った。
そもそも誰かと会わなければ殺されることもなくね?と。
そうして、俺は引きこもりになることを決意したのだった。
そうして引きこもりを初めて10年。俺は今、死にかけていた。
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