卒業パーティー
遅くなってすみません。
俺は今、牢屋の中にいる。
こうなった原因は、一昨日あった学園の卒業を記念したパーティーだ。
その時のことを思い返す。
「ここに、本来は居てはいけない人物がいる!その者の名前は………お前だ!グレイ・ハウスダット!」
何とか無事に3年間をおえ、パーティーの美味しい料理を楽しんでいた俺の耳にそんな声が聞こえた。
「は?」
あまりに突然すぎて、何がなんだか分からない。いったいどういうことだろう。俺がこの場に居てはいけない?なんでだ?
混乱して何も言えないでいる俺を見て調子に乗ったそいつは、俺が正義だと言わんばかりに声を張り上げ胸を張り、俺を指差しながら糾弾した。
「はっ!本当のことを言われて声も出せないようだな!皆さん!こいつは、裏で立場の弱い生徒を脅していじめを起こし、自らそれを助けることで恩を売り付け、自分に都合の悪いことは全て他人にその罪を押し付けていたんです!」
は?こいつは何を言っているんだ?
「ここにその証人もたくさんいます!さぁ皆!自分にされてきたことを言ってやれ!」
会場のあちこちから声が上がる。
「俺はあいつに脅されてしたくもないいじめをさせられたんだ!」
「あいつのせいで僕の人生はめちゃくちゃになった!」
「あの人、次期公爵だからって私に無理矢理迫ってきたの!」
そこかしこから声が上がる。しかし一切身に覚えがない。
何が起きているのか分からない。ただ分かるのは俺は誰かに嵌められたということと、このままでは不味いということだ。
「違うっ!俺は何もやっていない!全部デタラメだっ!」
「こいつ!こんなにも沢山の証人がいるのにまだ言い逃れするつもりか!もういいっ!衛兵、そいつを牢に連れていけ!」
いつの間にか俺の側に衛兵が2人来ていた。そいつらは俺の腕をつかんで取り押さえると、俺を牢屋に引きずっていった。
「違うっ!本当に違う!俺は何もやっていないっ!誰か、誰か信じてくれ!」
俺の叫びに同調するものはおらず、会場にいる人は俺を冷たい目で見ていた。
最後の抵抗として、一番最初に俺を糾弾した奴を睨む。そいつは楽しそうに目を歪ませていた。
「くそっ!くそぉぉぉぉぉ!!!」
そして今にいたる。
捕まったのが一昨日、そして昨日は俺の婚約者のラノアと両親が来た。そして俺は何でこんなことになったかを聞かされた。
どうやら俺は結構恨まれていたらしい。
アドミラ学園での3年間、俺は何度も誰かがいじめを受けている現場に遭遇し、その全てを止めてきた。
いじめを止めることで、もしも俺に何かあったときに味方になってくれるだろうし、そうでなくともいじめを止めて俺の評判を上げるためだ。
また、主人公であるターライトには極力絡まないようにした。そのかいあって、この3年間で奴と会話したのは業務連絡が数回だけ。
俺は俺の建てた目標の通りに上手くいっているとおもっていた。
まぁ結果はこのざまだが。
ラノアとの会話で、俺は自分がどう思われていたのかを知った。
どうやら俺は、パーティーで言われたように、いじめを起こさせて、解決することで恩を売るマッチポンプ野郎と思われていたらしい。
その原因は、俺がいじめにあったとき、いじめを根本的に解決するのではなく、ただの注意しかしてないことにあったらしい。
確かに少し考えれば分かることだ。俺としては"いじめを止めた"という実績が欲しかっただけだったのだが、いじめられている側にとっては最悪だったらしい。
なぜなら、俺が中途半端に注意しかしなかったせいで、俺が見ていないところでのいじめがより激しくなったらしい。
また俺がいじめを止めて、いじめられている奴に感謝されたときに、どうしてもこの恩を返したいというので、「じゃあ、俺が困ったときに助けてくれよ。」と言ったのも原因の一端らしい。
まず、俺がいじめを止める。注意する。そこまではいい。ただ、その数があまりにも多かったらしい。何処からか、「あれってもしかして、ハウスダットがいじめを起こして恩を売り付けてるのでは?」という噂が流れたらしい。
ちなみに俺はこんな噂が流れていたことは知らなかった。俺にめっちゃ親しい、親友みたいなのはいなかったし(俺の家柄に目をつけた太鼓持ちばっかりだった。)さすがに本人を前にそんな噂話はしなかったようだ。
そして、この噂を聞いて喜んだのがいじめっ子どもである。あいつらはこの噂を利用して、さもあいつらの背後には俺がいるかのように振る舞ったらしい。
俺の前では俺に媚びを売り、裏では俺の名前を使って色々やっていたようだ。
俺としては、今までいじめをしていた連中が急に礼儀正しくなったので、「人は変わるんだなぁ…」と感慨深く思っていた。
この一連の流れをうけて、1番怒ったのがいじめを受けていた連中である。彼らからしたら、自分がいじめられている原因は俺だし、そんな俺に恩という使い方しだいで幾らでも自分達を良いように使える言質をとられたのである。
ただでさえ俺のせいで、いじめが悪化した彼らは当然俺に対してぶちぎれるし、俺を恐ろしくおもっていた。
そして、俺に俺の名前を勝手に使っていじめをしていたことがばれるのを恐れたいじめっ子どもと、俺を憎んでいるいじめられっ子連中が手を組んで、今回の騒動を起こしたのだ。
人が仲良くなるには共通の敵を作ることだとはよく聞くが、どうやらいじめっ子といじめられっ子でも仲良くなれるらしい。
こういうことは本来なら、事実関係を確認した上で牢屋だ何だに入れられるのだが、今回は証言者の人数が多いのと、俺の実家が一切俺を擁護しなかったため、事実だと判断されこのようなことになっている。
そして、ラノアも、ラノアの実家であるシュライン家も俺を助けてはくれなかった。
その理由をラノアに聞いたら答えてくれた。
いわく、
「私はグレイ様よりターライト様のほうが好きなのです。そのため、あなたの婚約者という立場は私にとってマイナスでしかありません。あなたが居なくなれば婚約破棄も当然で、後腐れなくターライト様と一緒にいられます」
「お父様も、私の気持ちを尊重してくれますし、こんな簡単に他人に嵌められるあなたと結婚するより、必ず将来は大物になり、1部の地域ではすでに英雄と呼ばれているターライト様と結婚したほうがシュライン家の利益につながると判断されました。あなた、貴族向いてないですよ」
俺はこれを聞いてラノアに一つ質問した。
「何で、何で俺よりターライトのほうが好きなんだ?」
「私、実は他人が今どんな感情をいだいているのかうっすらと分かるんです」
「あなたがターライト様に向ける感情は、ほぼ全てを恐怖が占めていました。まるで化け物でも見たかのように、ずっと怖がっていましたね。他のクラスメイトは時間が経つとともに普通に接していたというのに。しょうもない。私に対しては、頭お花畑のようなふわっふわとした好意、あとは自己保身が大半でしたよ。本当に気持ち悪かった」
自分で自分を抱き締めるかのように腕を組んだラノアは、心底軽蔑しきった目を俺に向けてきた。
「そんなことはっ………」
ある。ないとはいえない。実際、俺はターライトがドラゴンと戦ったあのときからターライトが怖かった。あいつが本気を出せば、俺程度など一瞬で殺せるのだ。
「俺は、俺はっ……!」
何も言えないでいる俺に、これまで見たこともないような冷たい目を向けてラノアは去っていった。
1人になってどこか現実逃避したぼんやりとした頭でラノアのことを考える。
そういえば、ストラブの設定資料集にも「ラノア・シュラインは生まれつき特殊な力を持っており、その能力によって、他者とコミュニケーションをとるのが非常に上手い」って書かれていたな。
当時は、ラノアルートに入ると他の貴族からの妨害が少なかったのでちょっと便利だなくらいにしか思っていなかったが。
しかし、"他人の感情がうっすらと分かる"って凄くないか?うっすらがどの程度なのかは分からないが、権謀術数溢れる貴族の社交界において、この能力は絶大なアドバンテージになるだろう。
今回でいえば、その能力で俺の考えていることが筒抜けだったわけだ。
なるほど、そりゃあ俺なんて見切りをつけられるだろうな。
俺は自嘲しながら陰鬱な気分になっていた。
ラノアが去っていったあと、今度は父親がきた。俺は父が助けに来てくれたと思い、喜んでいたが、そんな俺に父が向けた眼差しには、嫌悪と安堵が入り交じっていた。
そんなことに気付かなかった俺に父は言った。
「今日で、お前を勘当する。ハウスダット家はお前と縁を切る。二度とうちの敷居を跨ぐな」
「え、あ、は?え、どういう、どういうことですか父上。俺を、勘当…?何で…?」
「王族も入学しているアドミラ学園においてお前がしたことは、うちの評判に関わる。お前のせいで、俺達は迷惑を被ったんだっ!勘当するのは当然だろう!」
「やってません!俺はあんなことやってないんですっ!あんなのあいつらのデタラメなんです!信じてください!」
「馬鹿者っ!真実がどうかなど関係ないっ!公爵家であるお前が、たかだか下級貴族と中級貴族程度に嵌められ、牢屋に捕まったという事実だけで、我が家にとっては大きな醜聞なのだ!お前のせいで、俺は沢山恥をかいた!」
「そもそも、俺はお前が嫌いだ。気味が悪い。5歳になった頃からまるで人が変わったかのように急に体を鍛えだして、理解が早く聞き分けもいい。本当に不気味で、俺はそんなお前が嫌いだった。今回のことはちょうどよかったな。お前を始末する大義名分ができた。」
言うだけいって、満足そうな顔をして父は去っていった。思いがけない告白をされた俺は呆然と、何が悪かったのか考えていた。
何が悪かったのか。知っているゲームに転生したことでテンションが上がり、ラノベでよくあるように小さい頃から鍛えだして、俺TUeeeeeeをしようとしたことか。
それとも、ターライトの実力に完全にビビり、ずっと避けていたのがいけないのか。
自分のことばっかり考えて、いじめに首を突っ込むだけ突っ込んで、根本的な解決は何もしていなかったことか。
おそらく、その全てが駄目だったのだろう。
ハハハ、結局俺はこんなものか。
本当にしょうもない。結局、前世から何一つとして成長してないじゃないか。
看守からの伝言で、俺は3日後に出所することになった。
だが、おそらく出所した瞬間に、ハウスダット家の人間によって殺されるだろう。
父は俺が嫌いだし、勘当したとはいえ、元ハウスダット家の息子がこれ以上何かやらかしたら大問題だしな。
はぁ、せっかくの二度目の人生。最初は未来のことを大まかに知っているからと舐めていたのに、実際はほらこのとおり、死まで一直線だ。
ゲームと対して変わらない。
ああ、嫌だな。死にたくないな。もし、あの時に違う選択をしてたらこの未来は変わったのかな…。
そんなことを考えて、考え続けて2日たった。
俺が死ぬまであと1日。俺は諦めていなかった。覚悟を決め、俺は脱獄した。
具体的には魔法を封じている手錠から、無理矢理指がもげる勢いで手を引き抜き、闇魔法と水魔法で牢の1部に延々とダメージを与えて壊した。
この2日間うなだれて、じっとしている俺が逃げ出すなど考えなかったのだろう、最初は2人いた看守は1人しか居らず、しかも居眠りしていた。
牢を壊す時に少し大きな音が出たので、看守が起きるかもとビビったが、よほど疲れているのか全然起きなかった。
牢屋の外は一切見たことがない場所だった。しかし、おそらく王城の地下牢だろう。王城の地下牢は元貴族の犯罪者御用達なのだ。
俺のほかに捕まっている人間はいなかった。
とりあえずここから離れようと俺は歩き出す。が、捕まってからろくなものを食べていないのと、さっきの手錠から引き抜いたときに親指がちぎれかけ、血が止まらないのでボロボロの満身創痍だった。
俺が抜け出して10分もしない内に、後ろのほうから「脱獄だ!探せ探せ!」という声と多くの人が走る音が聞こえてきた。さっきの看守が起きたのか、それとも新しい看守が来たのか。
どっちでも結果は同じだ。
俺は半ば自棄になりながらも、さっきより急いで逃げた。だが、流石俺というべきか。運の悪いことに曲がり角で看守の1人とばったり出会ってしまった。
俺はすぐに魔法を使おうとしたが、身体が弱りすぎていて何も起こらない。その隙をついて看守が俺に魔法を打ってきた。
そして、俺の脇腹に穴があいた。おそらく土の中級魔法の"石礫"だろう。
俺はわき目もふらずに逃げ出した。
ルートもなにも考えず、ただがむしゃらに走った。
いつの間にか俺は看守をまいていた。だが、脇腹の傷が深すぎる。もし俺に聖属性の適正があったら治すこともできたかもしれないが、俺の適正は闇と水だ。治すことなんかできやしない。
走り回ったすえに辿りついた廊下の壁を背に座り、俺の目の前は徐々に暗くなっていった。
そして、俺は死んでしまった。
気付いたら、俺は5歳のグレイ・ハウスダットに戻っていた。
ブクマや評価待ってます