魔法と剣術
公爵家の長男である俺には5歳の時点で家庭教師がいる。
毎日合計で3時間ほどだが色々と勉強するのだ。
家庭教師は午前中は座学を2時間ほど。午後に一緒に運動をする。
……もちろんかわいい女の子だったり、超有名なすごい人だったりはしない。
子供に優しいおじいちゃんである。おそらく年齢は60代だ。
そんなおじいちゃんだからこそ、午後の運動の時間など、俺が1人で走り回って遊んでいるのをニコニコ眺めるかんじである。
昨日は急に記憶を思い出して混乱したので、メイドに言って1日休みにしてもらっていた。
そのおかげで、自分の現状について結構まとめることができたのだ。
つまり、今日からは普通に授業がある。
異世界転生でテンションが上がった俺はガチである。朝は7時に起き、そしてバカみたいに広いうちの庭でランニングだ。身体作りの基本である。
ランニングのあとはシャワーを浴びて朝ご飯だ。うちの優秀なシェフによって日本で食べた物の数倍旨いのが出てくる。
飯が旨いというのはシンプルに嬉しい。この身体に生まれ変わって良かったなと思える数少ないことのひとつだ。
ちなみにこの世界は元が日本のゲームだからか、時間間隔は日本と同じである。1日が24時間で1年間で365日だ。分かりやすくてとても助かる。
朝飯を食べ終わったら8時。9時から授業が始まるのでそれまでは筋トレをしたりしている。この世界には剣も魔法もあるというか、そちらが主流なので出来れば剣や魔法の練習をしたい。しかし、していないのにはちゃんと理由がある。
まず剣のほうだが、遊んではお菓子食ってた俺のこの身体では、うちにある1番小さい木剣でも満足に振れなかったのだ。
この身体の貧弱さに愕然としたね。
親に言って新しい木剣を買ってもらってもいいのだが、どちらにしろ身体作りはしないといけないので、こちらを今は優先している。
そして、異世界といったらの魔法のほうだが、シンプルに失敗したときが怖いのだ。この身体になって2日目。記憶を探っても記憶が戻る以前の俺が魔法を使った記憶がない。
つまり、俺は生まれて初めて魔法を使うことになるのだ。失敗しない訳がない。
なので、魔法に関してはこの後の授業でおじいちゃん先生から教えて貰ってから使う気だ。
この世界おける魔法は6つの属性がある。
火、水、風、土、闇、光だ。ほぼお約束だよね。魔法で氷を作ったり、爆発を起こしたりもできるが、氷は水属性魔法の派生、爆発は火と風の複合魔法だ。基本的にはこの6つの属性魔法しかない。
そしてこの魔法、才能がほぼ全ての世界である。
まず6つの属性で、使うことができる属性は生まれた時には決まっている。
例えば俺は闇と水が使える。
逆に言うと俺は闇と水以外の属性魔法を使うことが出来ない。
自分に適正のある属性の魔法しか使えないのだ。
悲しいことに、これはいくら努力しても変わらない。ゲーム的裏技とかないのだ。
そして、魔法には初級、中級、上級、最上級の4つの区分があり、適正があっても才能がないと上級以上の魔法は使えない。
努力次第で中級魔法の威力を上げることはできるが、上級魔法には全然及ばないという、努力は裏切るという典型例だ。
これが魔法は才能の世界と呼ばれる理由である。生まれた時点でその人物の魔法のほぼ限界が分かってしまうのだから、残酷というほかない。
ちなみに、この魔法の適正だがやはり貴族のほうが適正が多い。平民は適正があっても1つか2つ。まったく魔法の適正がない者も珍しくない。
それが貴族になると、2つや3つは適正がある。
貴族の中でも魔法の大家であるラティライド家の現当主は4つも魔法の適正があり、その内2つは最上級魔法まで使えるという化け物っぷりだ。
それで言うと公爵家なのに適正が2つしかない俺はどちらかというと魔法の部類では落ちこぼれである。
そして我らが主人公は更にやばい。
あいつは、闇を除く全属性に適正があり、最大まで鍛えれば最上級魔法まで使える怪物である。
もはや本当に人かどうか疑わしいくらいだ。
……多分主人公がこの国と喧嘩したら1人でこの国を半壊させることができる。
そんなこんなで俺にとっては初授業。優しいおじいちゃん先生に聞いて、一緒に魔法を使ってみた。
初の魔法チャレンジ、選ばれたのは"水球"でした!その名の通り、空中にただの水の塊を作る魔法だ。もちろん失敗して全身びちょぬれになった。
俺が初めて魔法を使った(失敗してる)後でおじいちゃん先生は俺に優しく教えてくれた。
「うん。グレイ様には魔法の才能はないですね」
俺は泣いた。
気を取り直して午後。
本来はいつものおじいちゃん先生と遊ぶのだが、昨日のうちに父に頼んで剣術を教えてくれる人を呼んでもらった。
今までのグレイの記憶と昨日の会話で思ったことがある。この父は俺にあまり興味をもっていないようだ。
だが一応お願いは聞いてくれたようで、午後に庭に出るとうちの家の騎士が1人待っていた。
この人が剣術を教えてくれるようだ。
しかし俺のにらんだ通り、この身体は全然出来上がっていないので、最初は走り込みと筋トレからだと丁寧に説明された。
俺は武道に関してド素人なので今後もこの人の指示を素直に聞くつもりだ。
朝起きて走り込みして飯食って勉強して飯食って剣術の練習(大半は走り込みと筋トレ)して飯食って寝る。
そんな超健康的な生活を送って10年。
俺はアドミラ学園に入学する年である15歳になっていた。
年齢が上がるごとに座学の時間が増え、気付いたら毎日7時間ほどになっていた。
7歳の時からは、本格的に剣術の練習が始まった。特別才能があるとは言えないが、ちゃんと練習していけばそこそこのところまではいけるとのこと。
魔法より将来が明るいので頑張った。
ラノアとの関係も謝罪してから結構良くなった。ワンチャン俺のことを好きになってくれてたりするかもしれない。マジで期待してる。
目標であった善人アピールもそこそこできている。誰にでも優しく、平等にあつかった。
他所の貴族の家に親の仕事の関係で行った時には、そこの家でいじめられている子がいたので、いじめていたメイド達に注意し、2度といじめないと約束させたり、色々した。
現状、結構いい感じじゃないだろうか!
少なくとも俺が殺される理由はない。
しかも、10年!10年も剣術を頑張ったのだ!
この世界でとは言わないが、同年代のなかでは強いほうだと思う。
そして今、俺はアドミラ学園の校門に立っている。ここから、ここからが俺の真の戦いだ!
絶対生き残ってやる!!
俺は心の中でそう誓った。
この後、たった3年も生きることは出来ないと知らずに。