過去
短めです。
彼女は、カルラ王国の辺境のとある村に産まれた。王国がその存在を知ったのは、彼女が10歳の時だ。
彼女は、その村で現人神として崇められていた。
一番最初に気付いたのは彼女の両親だった。
その年は近年希にみる不作の年で、両親を含め多くの人が飢えていた。
故に彼らは願った。
『食べ物がもっとあったらなぁ、お前を腹いっぱいにしてやれるのに』
冗談混じりに彼女の前で愚痴を言った。本来ならそれだけだった。しかし次の瞬間、彼らの前に大量の食料が現れた。何の前触れもなく。
最初は驚いていた彼らは、しかし何度も実験を重ねることで彼女に願いを叶える力があることに確信を抱いた。
そして彼らは、彼女を神に祭り上げた。
彼女に願ったことは大抵叶った。
食べ物が欲しいと願えば急に食べ物が現れ、雨が降って欲しいと願えば雨が振りだす。
その年から不作の年は無くなり、村は異常なほどに富んでいた。
『何でも叶えてくれる神様がいる』
その噂は、驚くほどの勢いで広まっていった。
もちろん、王都にも。
当時の王、ラスカル2世はその噂を真実だと断じた。何故ならば、実際に異常に富んだ村のことが報告されているのだ。
彼はすぐに兵を差し向け、彼女を王都まで連行した。
そして彼は、その奇跡を目の前で体感する。
王は大いに喜んだ。夢のような力だ。当時大国とは言えなかったカルラ王国にとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。
彼は彼女に、王城の部屋を与え、大事にした。
そして彼は国一番の賢者を呼び寄せ、彼女のことを、その力の源を探らせた。
数ヶ月に及ぶ調査のすえ、賢者は答えを導きだした。
彼女は、化け物のような魔力量と、それと同じくらい常軌を逸した“門“を持っていた。
魔力とは、純粋なエネルギーだ。我々はそれを操り、変換して魔法を使う。その過程で呪文だったり、魔法陣だったり、触媒だったりを使って、より操りやすく、より効率良く魔法にする。
その魔法でもって、火を着けたり、敵を倒したり、作物を育てたり、武器を作ったりする。
しかし彼女は、その余りに大きな魔力量と“門“でもって、中を省き、結論だけを先に用意する。
つまり彼女は、今まで無意識で魔法を使っていただけであり、化け物のような魔法使いということだった。
王は喜んだ。つまりは魔法使い。この国に何人もいる魔法使いの1人でしかない。この国にいる魔法使いは、全員彼女と同じことが出来る可能性があると考えた。
王は賢者に、彼女を更に研究し国全体の魔法の水準を引き上げるよう命じた。願わくば、彼女と同じ存在が何人も出来るようにと。
そして王は考えた。彼女はかつてないほど多くの魔力を扱える。その性能を最大限に活かすにはどうすればよいか。
そして王は、彼女を王城の地下に閉じ込めた。
この城は、この辺り一帯でもっとも地脈が大きく場所に建てられている。
地脈とは、この大地全体に流れる魔力であるなら、彼女を使ってその地脈を利用出来ないか。
王はそう考えた。
その考えは成功する。王城の地下。もっとも魔力の濃い場所で、彼女は地脈の魔力を吸い、その魔力を扱うことができた。
そうして、1000年にも及ぶ彼女の、地脈から魔力を引き出す装置としての生活が始まった。
王はその後、彼女の力を最大限活用しながら周りの国を平らげ、国を大きくしていった。
そしてついに、カルラ王国は最大国家となった。
しかし、王は恐れていた。彼女と同じ存在が他国に現れることを。そして、彼女を親から引き剥がし、地下に閉じ込め、今まで利用し続けてきた天罰が下ることを。彼女が地下から出てきて自分を殺すことを。
故に彼は、彼女を殺す方法も賢者達に探させた。今のままでは彼女は殺せない。全部その魔力でもってどうにかしてしまう。首輪の着いていない番犬ほど、怖いものはないのだから。
彼女が歳を一切とらなかったのも、王の恐怖に拍車をかけていた。
賢者によれば、常人では一生かかっても使い切れないほどの魔力を体内に取り込み、それを扱い続けた影響らしい。
彼女の身体はもう、人のものではなくなっていた。
そうして彼女はあの部屋で生き続け、彼女の力を一部後天的に取り込めるようになったのが30年前。
おそらく、ゲームでのグレイ・ハウスダットも、この力を取り込んでいたのだろう。
俺は、資料を読み終えた。言い表せないような感情が、心の中を動き回っている。
それでも、とにかく一旦彼女の元へ戻ろうと思った時。
グサッと。何かにナイフが刺さるような音と、喉元からせりあがってくる何か熱いもの。
そして、それ以上に熱い背中と、下ろした目線が映す、自分の胸から生えた鉄の一部。
俺は背中からナイフか何かで刺されていた。
今までのも全話改稿したのでよければ見てね