出会い
5歳に戻った俺は、邪神を殺すための準備を始めた。
ゲームではくそがつくほど強かったが、あの宰相の日記によるとアドミラ学園の卒業パーティーまでは制御が出来ているはずだ。
となると、あそこまでの強さはないと思う。思いたい。というか制御された状態でもゲーム通りの強さだと俺に勝ち目が全くない。
とりあえず俺がすることは強くなること、そして邪神の情報を更に集める必要がある。
制御といっても、何かがどこまでどのくらい、どのように制御しているのか全然あやふやなのだから。
最低限邪神の現在の強さを知り、それに勝てるくらいの強さを手に入れるか策を立てなければならない。
といっても、俺が強くなることに関しては今までの人生でだいたいの限界が分かってるんだよなぁ。
魔法は上級を使用できる才能なし。剣術にしても一般人と大差ない程度の才能しかない。
仲間を集める?無茶言うな。こんなガキの戯言を誰が信じる。というか俺が相手を信用できない。
友情・努力・勝利とかそんな少年○ャンプみたいに上手くいかねぇんだよ。
まぁ結局、できる限りの準備をして後は当たって砕けろの精神でやるしかないか。
その後の俺は懸命に努力した。魔法より才能のある剣術を主軸に、魔法をサブとした魔法剣士モドキとして訓練した。
これが何故モドキかというと、本物の魔法剣士は剣術も魔法も高い水準で修めた超エリートだからだ。
俺のは、はっきり言えば剣術も魔法も中途半端な器用貧乏なスタイルである。
ただ、出来る限り早く強くなるならどっちか1本に絞るよりいいと思ったのだ。どんなものも、ある一定以上修めたらその先からは成長率が悪くなる。
才能のある奴ならば一つに絞るべきだが、俺の場合はこれでいい。
あと苦労したのは、邪神の居場所である。
王城の地下ということは分かっているが、王城の地下は広い。それに、おそらく王国側によって何らかのセキュリティがかけられているはずだ。
それをもはや遥か昔である、ゲームをプレイしたときの記憶をなんとか思い出しながら邪神もしくはその研究者共を探すのは大変だった。
最終的に王城の地下を探し始めてから見つけるまでに5年くらい掛かったので、見つけたときは感動で泣きそうになってしまった。おもわず神に感謝を捧げるくらいに。
俺はこれから邪とはいえ神を殺すというのに。
そして、邪神討伐決行の日がやってきた。俺が準備を始めてから約13年、アドミラ学園三年生の2月である。
ちょうどこの頃は、ターライト率いる英雄パーティーと王国の闇側が大きな戦いをする時期なのだ。ゲーム通りなら、今が一番邪神の警備が薄いはずだ。
というわけで、俺は王城へ突撃した。
やはり推測通りに何時も以上に人は少ない。
それでも、万が一にも誰かに見付からないように慎重に慎重を重ねながら進んでいった。
そして俺は、邪神と出会った。
王城の地下の最奥、かつてゲームで見た荘厳な扉を開ける。
それだけで人を殺せるんじゃないかと思うほど濃密な魔力。ただの空気さえまるでタールのように体に纏わりつく気がして、腕の1本を動かすのにも強い意志が必要だった。
視界に飛び込んで来たのは正方形の広い部屋。その壁、地面、天井、一部の隙間もなく呪文が刻まれている。
その意味こそ分からないものの、一目で尋常ではない魔力と熱意が込められていることが見てとれた。
そんなおぞましくもどこか惹かれる部屋の真ん中には、まるで棺のような長方形の物体とその上に座る少女が居た。
年齢でいえば11,2歳ぐらいだろうか。
俺の胸にも届かない小柄な体躯と、吸い込まれるような美しさの黒く艶やかな髪、そしてまるで血のように紅い瞳からは一切の感情を読み取れない。
小柄な体躯を覆う黒のワンピースから見える、恐ろしいほど真っ白できめ細やかな肌は触れることすら躊躇われるほど美しかった。
そんなこの世のものとは思えないような、恐怖すら感じる美しさ、意味不明なその美貌に、どんな言い訳も出来やしない。
俺はその少女から目が離せなかった。
だが俺が目を離せなかったのは理由は、その人形のような美しさだけでない、どこか、いや何か言い表せないような感情を覚えて、
「………あ」
その、声に。彼女の口から溢れ落ちたその声に、俺は一気に現実に引き戻され、そして全てを思い出した。
俺はこの少女を、この邪神を知っている。
ゲームの話ではない。俺はこの少女と、これまでの長い人生で会ったことがあるのだ。
いや、会ったことがあるなんてものではない。俺はこの少女に…
紛れもなく救われたのだ。
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