正体
いろいろあって遅くなりました。
俺がハウスダット家に着いた翌日、ウッドストック家に急報が届いた。
その内容は、俺が知っている通り「謎の黒いもやによる王都壊滅」だった。
王都の外から確認したところ、王城は完全に崩壊。王城を中心に円を描くように広がっていた貴族街もほぼ壊滅。
さらにその外に広がる平民も住んでいる街も6割ほど瓦礫の山と化していたらしい。
王都にいた国王及びその親族の消息は掴めず、生き残った人々も恐怖によって混乱を極め正確な死傷者の数は不明。
唯一の幸運は、隣国へ留学に行っていた第1王子と第4王女は安全が確認されていることらしかった。
そうして、たった一夜にしてこのカルラ王国は驚愕と不安、悲しみに包まれた。
そのあとの展開は急だった。日付が変わる前に第1王子はこの国に帰ってきた。
そしてラノアの実家のシュライン公爵家が治めるカルラ王国で王都の次に大きい都市“マルテア“を仮の拠点とし、一時的に国王としてこの国の玉座についた。
そして彼、カルロス・カルラ・ヘンドリックは王都から逃げ出した難民の受け入れとともに、数十日の内に王都奪還のためシュライン公爵家の私兵を中心とした各貴族と傭兵を集めた軍を組織。
そのまま王都へ出発した。
これには強い反発があった。王都を壊滅させる力を持っているというだけで詳しいことはなにも分かっていない黒いもやに何の策もなく戦いを仕掛けるのは無謀だという声がそこら中からあがったのだ。
しかし、あの黒いもやを放置することによる民の不安と諸外国からの不信、治安の悪化、最悪の場合こんな状態で他国から喧嘩をふっかけられる可能性もあり、また難民の受け入れも一時的なものに過ぎず将来行き詰まるのは目に見えていることなどから、一刻も早い解決を優先したらしい。
そして、決め手となったのはカルラ王国が誇る英雄パーティーもこの戦いに助力することだっだ。
そう、言うまでもない。ターライト率いる主人公パーティーである。
ターライトは恐ろしいことに一番難易度の高いハーレムルートをしていた。
奴らは学園の卒業式の前から、他国の邪龍討伐任務に就いていたらしい。
………俺の第1回目の人生で卒業パーティーで嵌められたときに主人公達が助けてくれなかった理由がわかった。そもそもあの場にいないならそりゃ無理だろうな。
ちなみに、この王都奪還軍がシュライン公爵家を中心にしている理由は、カレンの実家のアスファイア家率いるカルラ王国騎士団はすでになくなっているからだ。
四大公爵家はそれぞれ馬鹿でかい領地を持っており、だいたいは自分の領地に住んでいるが“カルラ王家の盾“とも称されるアスファイア家は王家に住んでいたので、あの黒いもやによって王都ごと壊滅してしまった。
したがって今は、カレンがアスファイア家の当主である。
王都奪還軍と黒いもやの戦いは凄まじかった。実は俺もこの軍に参加しているので生で戦いを見ることが出来たのだ。といっても後方支援部隊に配属だが。
俺も、1度ちゃんとこの黒いもやを見て、その戦いを見ることで少しでも多くの情報を手に入れたかったのだ。
………王都に住む人々のほとんどを見捨て、見殺しにしてまで手にした情報なのだ。少しでも多く次の人生へ受け継がなければならない。
しかし本当に凄まじい。 様々な攻撃が黒いもやに飛んでいるがどれもあんまり効いている感じがしない。
黒いもやは、俺が最後に見たときと違って腕だけじゃなくなっていた。
ちゃんと上半身があった。というか上半身しかなかった。下の方はどうなっているのか人に遮られて分からないが腰っぽいものすらここからは見えないので、多分上半身しかないのだろう。アラジンに出てくるランプの魔神がランプから上半身しか出さないように。
そんな黒いもやに向けてカラフルな魔法が飛んでいく。いろんな属性で攻撃しているようだが、どれもあんまり効いている感じはない。
というか、やっぱりあの黒いもやをどこかで見たことある気がする。前回の人生よりももっと前に。
そんなとき、黒いもやに向けて白い光でできた馬鹿でかい剣が振りかざされ、そのままあいつの右腕を切り飛ばした。
あれは、ターライトの必殺技の極光剣だろう。くそ威力高いうえに全体攻撃という、敵からしたら理不尽極まりない攻撃だ。
ゲームでもちょくちょく使っていたが、溜めが結構長いので微妙に使いづらかったのを覚えている。まぁ、そんなの関係ないくらいには強かったんだが。
ちなみに、俺は結構爵位が上だからこんなのんきに後ろのほうで観戦などしてられるわけだが実際の戦場は凄まじかった。何人もの人間が黒いもやの腕の一振で呆気なく死んでいく。
ゲーム通りならばラノアか誰かが結界を張って守っているのだろうが、そんなもの関係ないとばかりに人が飛ばされていく。
ほら今も。片腕になった黒いもやの攻撃で飛ばされた騎士が俺の横に落ちてきた。
兜はどっかにいっており、明らかに致命傷だと分かるほどへこんだ鎧と折れた手足、そして充血し見開かれた目が、光を失ってこちらを見ていた。
「……ハハハ」
その目はまるで、お前が原因だと言っているようで。あまりの被害妄想と確かに俺の選択によってこの状況になった事実に、思わず自嘲してしまった。
未だに俺は、誰かに詰られ、責められることでこの体を押し潰しそうな罪悪感から逃れたいと思っているのだろう。
そんなこと、許されるはずがないというのに。
そうこうしているうちに、どうやら決着がついたようだ。俺も後方支援部隊の一員として、魔法を打ったり、負傷者を運んだりそこそこ真面目に働いていたので疲れきっていた。
ふと見ると、黒いもやはまるで塵になって風に飛ばされるように消えていっていた。
そう、まるでストラブのラスボスである邪神が消えるときのように。
「…えっ」
自分でも、変な声だなと思った。
半ば呆然としながらも考える。あれが邪神?
でも確かに邪神なら王都くらい壊せるだろうし、何より卒業後のターライトが苦戦するレベルの存在は邪神くらいしか……
いやでも邪神はターライトが卒業パーティー前に倒してるはずで……
………分かってる。本当は分かっているのだ。俺はターライトが邪神を倒すところを直に見たわけでも聞いたわけでもない。
邪神の居た場所が王城の地下だったのも覚えている。
でも、それは俺の知っているシナリオと変わっているということで、それはつまり、今までの俺が生きたいがためにした行動が原因だということになる。
それはつまり、俺のせいで邪神が生きているのに邪神がいるから仕方ないと被害者面して、最終的に全部助けるためだと嘯いて王都を見捨てたということで。
つまるところ、最初から最後までこの王都の数千万の命と、王都奪還軍の3割の命は俺のせいで亡くなったということで。
そこまで思考が追い付いたとき、俺は思わず吐いていた。
これを書かないと要らないと思われるらしいので
評価や感想をできればくれると嬉しいです。