自殺願望
火に包まれて死んだ俺は、やはり5歳に戻っていた。
そのことを認識した瞬間、思わず口から言葉がこぼれてしまった。
「死にたい。」
死にたい。ああ、俺は死にたい。ずっと、何度も何度も何度も思っていた。今までの人生のなかでも何度死を願ったか分からない。
しかし、それでも俺は今まではっきりと言葉にしたことはなかった。
理由は簡単。この言葉は呪いのようなものだからだ。発してしまったら最後、俺はもう立ち直れないことがわかっていたからだ。
この、原因も原理も一切不明、誰が何の目的をもってやっているのかも分からないこの死のループ。
俺が「死にたい。」とそう言うことは、つまりこのループとそれをした犯人に対する敗北を意味する。俺はそう思う。
今までは何とか耐えれた。本当に苦しかったしきつかったが、卒業したら終わりだと思っていたし、この理不尽な現状に対する怒りが原動力になっていた部分もあった。
けど、今回は話が違う。俺はちゃんと卒業したのだ。頑張った。頑張って頑張って頑張った果てに俺はちゃんと卒業しきったのだ。
それがなんだ。謎の黒いもやみたいな奴によって王都ごと破壊されたのだ。
意味がわからん。おかしいだろう。ここまで頑張ってきたのだ。何かしらの報酬はあっても、意味不明な黒いもやによって全て台無しになるなどゴミすぎる。
この時点で、俺の心は折れてしまった。今まで何とか必死に支えてきた心が、もはやあっさりとポキッと折れてしまったのだ。
もう無理だ。もう嫌なんだ。何度も何度も自分の不甲斐なさを見せつけられ、才能のなさを痛感させられ、お前に何一つとして誇るものなど、誇れるものなどありはしないのだと理解させられる。俺は所詮この程度なのだと。
死ぬたびに絶望し、もはや自分に対して諦めることに慣れてしまった。
もう無理だ。
俺はずっとずっと死にたかった。
しかし、俺は知っている。というか感覚で分かる。おそらく俺が自殺してもこのループは終わらないだろう。
まぁ、それでも一度は試してみるのだが。
というわけで。自殺するなら何がいいかなのコーナーだ。といっても、今現在5歳である俺に出来る自殺という範囲設定はあるが。
個人的には、痛くないのが一番大事だと思っている。俺は別にマゾでも何でもないのだ、痛くないほうがいい。
あとはやっぱり確実性。ちゃんとしっかり確実に死ぬことが出来るという点。
そして最後に、お手軽さ。そんな準備が大変な自殺は求めていない。理由は簡単、めんどくさいから。
自分が死にたいっていうことをちゃんと認識し、実際に自殺方法考えていると何か無気力っぽくなる。
結局何してもこの後どうせ死ぬから何も変わんねぇやっていう世紀末理論が適用されるからだろうか。まぁ、どうでもいいか。
取り敢えず、痛み、確実性、お手軽さのこの3点を評価基準として始めよう。
自殺するなら何がいいかなのコーナー!パチパチパチパチ!
いやぁ、生きるのを諦めると途端に人生が楽しくなるね!どんな嫌なこともどうせこれで最後だと思うと何でも許せる気になる。
今の俺なら聖人君子になれそう。
……うわぁ、我ながら情緒不安定すぎてきも。
気を取り直して、
エントリーNo.1、首吊り。
自殺といえば首吊りだろう。ドラマでよく観るみたいに、部屋を開けたら死体で空中でぷらぷらしながらこんにちわできる。
用意するのも紐ならなんでもいいので、やろうと思えばこのベットのシーツを使って今すぐ出来る。確実に死ねる点もいい。
ただ、問題があるとするなら、苦しいことだろう。首吊り。つまり窒息死。なんか首吊り自殺の死体は首吊ったあとで少しでも楽になろうともがいて首と紐の間に隙間をつくろうと首筋を引っ掻いた痕とか残るらしい。
やっぱり死ぬなら一瞬で死にたいよね。そしたら痛みを感じる間もないもの。ちな前世での体験談です。
あと、5歳の身体で高いところに紐を吊るすのが結構面倒っていうのもある。
結論、却下。
エントリーNo.2、服毒っ!
自殺といえばの代表例その2。これの最もいい点は、痛みがなくてすむというところだ。
安楽死できりゅ。やっぱり痛みを感じずに死ねるってのはでかい。
しかも、確実に死ねる。ただ問題が一つ、いくら公爵家の長男だと言ってもただの5歳児がそんな薬品手に入れられるわけない。
自分で調合するっていう手もあるが、そもそも俺に薬品も、その原料も触らせてくれないだろう。公爵家の大事な跡取りから目を離すこともないだろうしな。調合するのに必要な機材もないし。
この方法で死のうと思ったら、あと最低7年、12歳まではかかると思われる。
したがって、却下っ!
エントリーNo.3っ! 飛び降り自殺。
主に生きることに疲れた社畜がせめてもの会社への反抗に、自分の会社の屋上から飛び降りるやつ。
個人的には、これを採用したいと思っている。
まず一つ、何の準備もいらないこと。とにかく高いところにさえ行けば後は何の道具もいらなく、とてもお手軽である。
その2、痛みが一瞬で済む。命綱なしのスカイダイビングの後に一瞬痛むだけで終わるのでそこも評価できる。
ただ、死ぬことの確実性でいえば微妙である。高いところから飛び降りればほぼ確実に死ねるのだが、そこに邪魔が入れば死ねるかどうかは分からなくなるからだ。
そこで助けられたあとに、うざったい偽善者に命の大事さとか説かれたらもう最悪である。
そいつを間違いなく殺す自信がある。
今更命は大切なものだとか言われても何も響かねぇんだよクソが。
自殺方法は他にもいっぱいあるが、俺はこの飛び降り自殺をしようとおもう。
焼死、凍死、溺死、窒息死、まぁ色々あるし、刃物で自分の首を切るなんて方法もあるが、飛び降りより絶対痛いし、準備とか大変そうだし、自分で自分の首を切る度胸とかない。俺はチキンなのだ。
今までの俺は、“生きる“ということに囚われていた。俺の行動の全ては、“生きる“ということに縛られていた。
しかし、今の俺は自由だ。だって死ぬのだから。自分で自分の死に方を選べるなんて贅沢なことなのだ。そんな贅沢を、俺は精一杯味わって死のう。
俺は考えた。5歳児でも行ける高いところ。5歳なので、家の敷地からはそう簡単には出してくれないだろう。
けど、せっかく死ぬなら妥協はしたくない。
理想の自殺をやってやろう。
そして数日後。俺は王城に来ていた。
馬鹿みたいにでかい。立派。それこそ本当に映画で見るような城である。
取り敢えず今の俺は父の馬車に乗っているので門は顔パスで通り抜ける。
何故、父の馬車に乗っているかというと、公爵家とはいえまだ5歳。かってに1人で王城に入ることなどできないのだ。なので今回は父の仕事に付いていって、王城で遊ぶという名目で王城にきている。
王城で遊ぶという名目で王城に入っていいのかだと?大丈夫である。
というか、それが貴族の子供の義務の1部であるといえる。
王城にも子供はいる。いくつかの貴族が、小さい頃から他の貴族と親しくさせようと連れてくるのだ。
そこで、他の貴族の子供と遊ぶのだ。
子供の頃に顔合わせをさせたほうが、まだ仲良くなりやすいだろうという考えである。
俺が今回あっさり王城に来れたのも、父が暗に他の貴族の子供と交流してほしいからだろう。
子供同士が仲良くなると、どうしても親同士に接点が生まれる。つまりコネクション作りである。
コネなんてあればあるほどいいからな。
いくら公爵家ったって、別に敵がいないわけじゃないし。
どちらかと言うと、普通の貴族より敵は多いだろう。まぁ、こちらがその敵より圧倒的に多くの味方を手に入れているのだが。
そういうわけで、俺は今回王城に来れているのだ。
まぁ、そんな大人の思惑は今の俺には関係ない。
取り敢えず、王城に入ってすぐ父に遊びに行くといって別れる。
適当に中庭だったり、それこそ王城の託児所みたいなところに行けば子供はいるが、俺は出来る限り子供に会わないように行動を開始する。
俺は今回、この王城に自殺するために来たのだ。
王城の一番上から飛び降り自殺する気である。
俺は、死ぬ前に王城からの景色を見たかった。
王城は、この王都で一番高い建物である。
つまり、この王城の一番上からは、王都を一望出来るのだ。
きっと綺麗だろう。
俺は、最後にその景色を見たかった。
王城の上の方には玉座の間がある。
したがって、公爵家の子供といえど基本的に上の階は立ち入り禁止なのだ。子供だから見つかっても許されると思うが、おそらくめっちゃ怒られて、次に王城に来れるのもいつになるかはわからないだろう。
巡回している兵士や、仕事をしているはずの文官達に見つからないようにこっそりこっそり、足音を立てないように移動する。
時には、5歳児の身体の小ささを活かして隠れる。
全力で空気になる。大丈夫、空気みたいな存在感になるのはお手のものだ。
だって日本では陰キャだったのだから。
空気になるスキルも、気がついたら居なくなってるスキルも陰キャにはパッシブでついている。今回はただそれを思い出し、意識的にするだけだ。
そうしてかつての物悲しいスキルでもって王城の一番上の部屋にたどり着く。
ちなみに、王城の一番上の部屋はなんになっているかというと、ただの物置である。
地上から離れすぎているうえ、王城はエレベーターもなんもない階段オンリーの建物なので、この部屋は非常に不便なのだ。
誰も使いたがらない。ほんと、王城の景観のために高く建てたはいいが、建ててみるとこの部屋のように実用性皆無な部分がいくつかあったのだ。まぁ、王城とか見た目が一番大事なので建築方針としては間違ってないのだが。
さてと。ここからだ。確かにこの部屋が一番高いが、まだである。
俺の理想は最も上だ。つまり、屋根の上である。
というわけで、窓から出て屋根の上に乗る。
「うわっ、まじやべぇ!」
超高いし、超寒いし、超風強い。マジ無理怖すぎである。怖すぎてちょっとテンション上がってきた。けど、ちょっとしたら慣れた。
場所を少しかえて、風が当たらない場所に腰かける。今日は晴天。太陽の光があたって寒さが緩和されるととても心地いい。
なんだこの場所最高だな。
そして、俺は楽しみにしていた王都の姿を一望する。
やっぱり綺麗だ。色々な建物が立ち並び、声は聞こえないが活気があるのが伝わってくる。
王都の端は城壁で囲まれており、その向こうで行商人が並んでいるのが見える。
子供達は楽しそうに駆け回り、それを見て大人達も笑っているのがわかる。
かつてゲームで見たあの街が、リアルという最高のグラフィックで再現されているのだ。
…ああ、やっぱりいいな。
そこにはとても美しい世界が広がっていた。これが、これこそが本来在るべき姿なのだ。
決して、瓦礫と火に包まれて、嘆きと悲しみが広がるような姿ではいけないのだ。
俺は、やっぱり死にたいけど、生きようと思えないけど、それでも今こうやって生きている彼らには幸せになって欲しいと思う。
そうやって街を眺めているとき、ふと知ってる顔を発見した。
あいつあれだ、俺が友達と思っていた奴に裏切られたとき笑っていた奴だ。
というか一緒にいる奴あの時裏切った奴じゃね?
そうして見ると、他にも、あの家の奴俺をめちゃくちゃ馬鹿にしてきたなとか、あいつ最初はめっちゃごますってきたのに一瞬で乗り換えていったなとか、あの家の人間に殺されたこともあったなとか色々思い出してしまう。
けど、そんな奴らも楽しそうに家族と話したり、友達と遊んだりしている。
……俺には、ただの1度もあんな顔しなかったのにな。
しかし俺は怒っていない。俺が殺されたことも、裏切られたことも、馬鹿にされたことも、全ては俺の記憶の中のことで、有り得たかもしれないただの可能性で、まだあいつらには何の関係もないことだからだ。
裏切りも、ボコボコにされることも、この世界では起こっていないのだから。
そうして考えると、ふと自分が孤独感を感じていることに気づいた。
……でも、それはそうだろうな。誰にも心を開かず、開けるような存在もなく、家族さえ信用できない。
ガワは家族に望まれて産まれたグレイ・ハウスダットでも、中身はしょうもない生き方と無様な死に方をした■■■■。
本当はいてはいけないものがいるような異物感にずっと苛まれてきた。
挙げ句の果てには、王都全部が壊滅だ。
やっぱり、俺はこの世界にはいらないのだろう。ゲームでのグレイ・ハウスダットと同じように死ぬべきなのだろう。
この世界で俺は邪魔者で、いないほうがいい存在だとちゃんと思えてくる。
俺はそれをもはや、冷静に受け止めた。これが、本音。これが、俺が心の奥に隠していたこと。ずっと見ないふりして逃げていたけども、俺はずっと自分の存在が疑問だった。今まで、自分からすら隠してきたけど、死を受け入れたことでちゃんと向き合えたのだ。
だから、俺は今から自殺する。感覚では、また5歳に戻るだけだと感じているけどね。
そうして、俺は自分の身体を空中に放り出す。
ものすごい速さで落下していくなかで、俺は命綱なしのスカイダイビングを楽しむ。
そして最後に、思う。
俺はもはや自分に見切りをつけた。
だから、次の目標というか俺の夢は。
このループの原因を解き明かし、自ら死に方を選ぶことである。
……あぁ、死にてぇな。
ブクマや評価、感想は本当に待ってますよ…?