プロローグ
加筆修正しました。全話いじるつもりです。
……ああ、また死ぬのか。
視界に広がる街を燃やす赤い炎と、徐々に冷たくなっていく自分の体を感じながら俺はそう思った。
その日、俺は珍しく寄り道をしていた。地元にある大学。
ただ実家からそれほど離れてなくて、なおかつあまり勉強しなくても入れるという理由だけで選んだ、そのまったく無名の大学からの帰り道。
いつもなら、ゲーム三昧の半引きこもりのような生活のために家に直帰するのだが、ふとした、本当にふとした気まぐれで俺は駅前の本屋に行った。
それが悪かったのだろうか。
本屋の前にある信号機、赤だったため止まって待っていたら、右側から何かを擦り付けるような凄まじい音がした。
反射的にそちらを向いた俺の目に映ったのは、ガードレールに車体を擦り付けながらこっちに向かってくるトラックの姿だった。
「え?」
俺の疑問を置いてきぼりにしたまま、先ほどから凄まじい音を出していたガードレールはついに耐えかねてトラックの進路の邪魔をしなくなる。
シンプルに言うと、トラックがこっちに向かって突っ込んできた。
あまりに非日常的なその光景に俺の脳は理解を拒み、結果として、何の行動も起こせないまま俺はトラックに撥ね飛ばされた。
俺の身体は、トラックと一緒に後ろにあったコンビニに突っ込む。
「ぐっ……ぐぁぁぁぁ!!、 ぐッ!」
バキッ、ポキッ。
そんな音が聴こえてくるほどにあっさりと、俺の両足と左腕は、脳を焼くような痛みと共に折れていた。
あまりの痛みに、俺は恥も外聞も投げ捨てて叫ぶ。
しかし、その叫びすら身体の内側の激痛によって中断させられた。
「ごぷっ……ぐぇ……」
喉の奥から何か熱いものが込み上げてきて、思わず吐き出す。
俺はその正体を、口の中に広がる鉄の味と、視界に広がる真っ赤な色によって理解する。
遠くから、今更ながらに甲高い悲鳴が聞こえてきた。
そして騒然となる。歩いてる人皆が止まり、聞こえてきたのはカシャカシャというたくさんのカメラの音と、人々の話す声。
「うわっ、これマジやばくない?コンビニぶっ壊れてんじゃん」
「えぐっ、あれもうダメだろ。ガチで死ぬじゃん」
「すっげ、血ってあんな出んだな」
「おい、誰か通報しろよ。119に」
「お前がしろよ。俺このあとすぐ仕事あるし」
は?
その瞬間、俺を満たしたのは痛みでも悲しみでも嘆きでもなく、ただただ純粋な怒りだった。
そして、そのまま俺の意識は闇にのまれて行った。
ふと気付くと、俺の目の前には大きな鏡があって、その鏡の中から5歳児くらいの生意気そうなガキが馬鹿みたいな顔でこっちをみていた。
というか俺だった。
俺は、転生していた。
目が覚める。窓から差し込む暖かい光。俺の体は柔らかい布団の中にあった。
まだ少し重い頭を上げて鏡の前に立つ。
そこには相変わらず5歳の子供の小さい体とそれに似合わない死んだ魚のような目をした俺がいた。
「グレイ様、朝食の時間です。」
ドアの向こうから俺を呼ぶメイドの声が聞こえる。
「ああはい、今行きます。」
そう答えて俺は着替え始める。本来ならこの着替えもメイドに手伝わせるのが普通だが、俺が嫌なのでメイド達には手伝わないように言ってある。
俺の名前はグレイ・ハウスダット。
このカルラ王国の公爵、ハウスダット家の長男だ。今1歳の弟と父が妾に産ませた3歳の妹がいる。
俺が転生したのは異世界だった。
そう、少し前に大流行したあの、異世界転生である。
前世の俺はいたって普通の人間だった。
そこそこ何かしらに夢中になり、そこそこの大学へ行き、そして突如として交通事故に巻き込まれて死んでしまった。
俺は悪くない。ちゃんと赤信号で止まっていたのに、急に馬鹿みたいにトラックが突っ込んできたのだ。
死んで異世界に来た以上、いわゆる異世界トラックという奴だったのだろう。
前世の俺には、友達はそこそこいたが親友と呼べるような奴はいなかった。
彼女は中2の時に1度だけ出来た。できたのだが、数回デートをしたあとは連絡を返してくれなくなり、自然消滅。当時の俺は恋愛が良く分かっていなかったので、まぁそんなものかと思っていた。
多分相手も恋に恋をしていたんだろう。
どうしても成りたい将来の夢もなく、恋人と呼べる存在もいない。日々をただ緩慢と怠惰に生きる人生。まだ21歳だったのでもっと色んなことをしてみたかった。
しかし死んでしまった今でも、あの作品も観れば良かったとかそんなことは思うだけで、絶対に死にたくないと思えるような未練は何もない。
せめて童貞くらいは捨てたかったなというくらいだ。
何を生み出すことも、何を残すこともなかった我が人生。
こうして考えてみると、俺の人生に大して意味などなかったのかもしれない。
人生に意味なんて求めることが間違っているのかもしれないが。
そんなこんなで、俺は今、異世界にいる。
最初は恐怖だった。マジで意味不明だったからだ。イカれたトラックに撥ね飛ばされてくそみたいな人間共に写真を撮られながら死んだかと思えば、この有り様である。
本当に意味不明すぎて、俺はちゃんと錯乱していた。
端からみたら完全に頭のおかしい奴だったと思う。
唯一助かったのは、何故か言葉が通じたことだ。
見るからに金髪やら何やら一目で日本人じゃないと分かる人達が、めっちゃ流暢に日本語をしゃべっていたのだ。
その後はとりあえず医者呼ばれたり、ベッドに寝かせられたりして、今に至る。
医者によるメンタルケアとメイド達の看病によって一旦は落ち着きを得た俺は、よく分からないまま周囲に流されるように生活していた。
そんな生活の中で、俺はあることに気付いた。
この世界で聞く単語に何処か聞き覚えがあってずっと不思議だったのだが、自分の名前とこの国“カルラ王国“という名前で思い出したのだ。
この世界は、前世で俺がやっていたゲーム、「ラブ&ピース~邪神の覚醒~」というゲームと同じ世界である。
このゲームは平民である主人公が、魔力を持つものなら誰でも入れる学園に通うところからスタートする。
この学園生活の中で様々なヒロインと仲良くなり、共に邪神に立ち向かい倒すという王道RPGだ。
このゲーム、そのふざけた名前とは裏腹に、邪神を倒すのがかなり難しいこと、悪役の死に様がスカッとすることや、ルート分岐の多さで人気となったゲームだ。
俺と同じ学部の友人にこのゲームにどちゃくそはまっている奴がいて、そのあまりの熱意に負けて俺もプレイしたのだ。感想としては、ヒロインがかわいいかった。
そしてこのゲームに出てくる悪役として一番うざいのがこの俺、グレイ・ハウスダットである。ことあるごとに主人公に喧嘩を売り、罪を被せ、暴言吐いては圧力をかけ、お前その情熱ほかに向けろよというくらい主人公の邪魔をする。
……まぁ大体あっさりと対処されて、逆にグレイが嫌われて行くのだが。
ルートによってこいつは邪神の配下の時に殺されたり、その前に今までしていた悪事を主人公達にばらされて処刑されたり、国外追放からの暗殺されたりする。
だが、とりあえずどのルートでも最終的に死ぬ。絶対死ぬ。とてもみっともなく死んでしまう。
そしてそんな悪役令息に俺は生まれ変わってしまった。
自分が悪役令息だと気付いた俺は、実はそこまで心配していなかった。
何故なら、俺は悪役令嬢に転生し系ラノベを読んだことがあるからだ。
あいつらは「私っ!死にたくないっ!」とか言いながら現代知識でチートしたり逆ハーつくったり、「私、こんなつもりじゃなかったのに……」とかのたまいながら好き勝手するのだ。
つまり、今後俺が悪いことをせず、清く正しく皆に優しくしていれば殺されることはない。
もしかしたら、逆に知識チートとかしてゲームのヒロイン達からモテモテになれるかも知れないっ!
俺は今後の人生を思いウハウハになった。
ここで一つ、俺の記憶が訴えかけてきた。
グレイ・ハウスダットの死に様はルート次第で結構変わる。そして、「ラブ&ピース~邪神の覚醒~」通称“ラブピ“において、俺の死に様を決めるヒロインは五人いる。
その内の1人、“ラブピ“の人気投票トップ最多。俺の婚約者にして主人公のメインヒロイン。
ラノア・シュラインと俺は会っていた。それも最悪の形で。
1ヶ月ほど前のこと。
グレイは婚約者であるラノアと初めての顔合わせをした。
婚約者なのだ。5歳にもなったのだから会うのも当然だろう。問題はその初の顔合わせでグレイがやらかしたことである。
……プレゼントしちゃったのだ。初対面のラノアに、虫を。
具体的にはプレゼントと称して虫の死骸をラノアに投げつけていた。
さすがグレイ。ラブピに出てくるなかでもトップクラスのクズ。
奴の精神性はこの頃から発揮されていた。
悲鳴をあげて逃げる我が婚約者様。面白がって虫の死骸を持ったまま追いかける俺。どこからどう見てもクソガキである。
つまり、簡単に言ってめちゃくそに嫌われている。
…………神よォ!! どうしてもう少し早く記憶を取り戻させてくれなかったぁぁぁぁぁ!!!!
そのせいで俺ワンチャン死ぬんだぞ!! 責任取れんのかああん?! これで死んだらマジお前のせいだからなっ! 絶対許さねぇ。
……落ち着こう俺。大丈夫。まだなんとかなる。まだ一回だけだ。大丈夫諦めるな俺。
約2週間後にもう一回ラノアに会う機会がある。その時に謝罪しまくって、エスコートしまくればなんとかなる!…はず!
そのままどうにか上手いこと印象を変えよう。
子供とか甘い菓子あげれば何とかなるだろ。頼むから何とかなってくれ。
この時俺は、溢れ出てくる神への怒りを抑え込みながら神へ祈るという高度な技術を会得した。
まぁ、俺を転生させたのが神なのかすら定かではないんだがな。
取り敢えず目標を立てよう。今後死なないための目標を。
まず一つ目。
善人の振る舞いをする。俺が悪事をしなければ殺される理由もなくなるのだ。全力で善人をアピっていこう。ついでに知識チートできたらいいな。
その関係で一旦ラノアには優しくするが、基本的にはヒロイン共には近づかないようにしよう。何か難癖つけられて殺されたりしたら嫌だし。主人公がいる以上俺がモテたりすることは無いだろうし。
2つ目、強くなろう。
この世界には普通に魔獣もいれば邪神まで出てくる。流石に邪神に勝てるレベルとは言わないが、そんじょそこらの魔獣に殺されないように強くなろう。
強くなれたら、どこかでミスって暗殺されそうになっても返り討ちできるだろうしな。
取り敢えずこの2つを守って頑張ろう。……死なないために!!
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