6話
「……いま、なんと仰いましたか?」
レッドの笑みは崩れません。しかし彼女を包み込む雰囲気がガラリと変わりました。全身を氷柱で貫かれるような、そんな痛みと冷たさを伴った雰囲気に。
隅で怯えているグリーンはともかく、わたし相手には無意味な威嚇ですが。どや。
「嫌に決まっているじゃないですか。お断りします、と言ったんです」
どうして葬儀屋が人殺しの依頼や命令を引き受けましょうか。どう考えても相手を間違えています。
「そういう話は〝掃除屋〟にするものでは? わたしではなく」
掃除屋とは魔人や魔教徒など、危険人物を討伐するために集められた戦闘のプロフェッショナル集団の通称です。正式名称は……なんでしたっけ? 名前覚えるの苦手なんですよね。
しかしレッドは小さく首を横に振りました。
「あそこは魔狩りを専門にしているので人間であるイエローは対象外になります。もう少し融通を利かせてくれたら、わたくしもそちらに相談するのですけどね……下手なところに依頼しようものなら返り討ちに遭うのが目に見えているので」
鉢巻きであなたの目は見えていませんけどね。どや。
しかしそうですね。レッドの言っていることはわかります。魔法使いを相手にして何人も屠ってきているような実力者ですから。
「そこでホワイトさん、貴女の出番というわけです。イエローを止めることができるのは貴女しかいない。このまま彼を野放しにしていては魔法使いが次々に殺されてしまいます。それでも良いのですか?」
被害が大きくなる前に一人を犠牲にしてでも大勢を救え、ということでしょう。トップとしては正しい選択だと思います。
ですが──
「相手が魔人や魔教徒ならまだしも、人間で同業者ならばやはりわたしにはできません。人殺しなんて」
わたしは頑なな意思で睨み返してやりました。
散々殺しをしてきたわたしが言えたことではありませんが、それは殺さねばならない相手だと認識していたから。
魔人や魔教徒は人の形をしているだけで人間だと思っていません。でもイエローはそうではないのです。
レッドは黙ってなにかを考え、そしてゆっくりと口を開きました。
「残念です。が、気が変わることを期待して宿を手配いたしましょう。長旅でお疲れでしょうから、本日はそちらでゆっくりしていってください」
「お気遣いどうもありがとうございます。では」
手持ちはすでにすっからかん。タダで宿に泊まれるなら願ったり叶ったりです。
わたしは踵を返し、会議室を後にしたのでした。
……ありもしないレッドの視線を感じながら。