3話
奥の部屋の中央には大きな円卓がどっかりと据えられていて存在感があり、ぐるりと囲むように七つの椅子が等間隔で並べられています。主に会議室として使っている部屋ですね。
そこにはわたしを含めてたったの三人しかいませんでした。虹天集の名において命令されたのに全員揃っていないとはこれいかに。
「さあどうぞ遠慮なさらずに。よく来てくださいました」
円卓の奥に腰かけているのは、赤い鉢巻きで目隠しをした黒髪の美しい女性。彼女がレッドで、虹天集のリーダー的存在です。この人が千里眼の魔法を使います。
織物という鮮やかな服装と腰に差した細長い曲刀が特徴的で、こういうのは『ワフー』と言うそうです。東の果ての風習だそうで、いつか行ってみたいですね。
「────」
他の虹天集がどこかに隠れているんじゃないかと人影を探してみますが、どこにも見当たりません。
「てっきり勢揃いかと思っていたのですが。他は?」
「まあ。冗談がお上手ですね、ふふふ」
「それはどうも。恐縮です」
手で口元を隠し、優美な笑みを浮かべるレッド。皮肉が通じる話し相手は気が楽でいいですね。
──そう。
どういうわけか虹天集のメンバーはここにいる二人を除き、自分勝手な人が多くて招集をかけても集まらないそうなのです。椅子が全て埋まったことなんて一度も無いかもしれません。
「先輩やーっと来てくれたー! 会いたかったですよー!」
とか元気に言いながらわたしに抱き着こうとしてきたこの少女はグリーン。おでこを押さえつけてガードしました。
頭に色鮮やかな飾り羽を着けていて、緑を基調とした身軽な格好をしています。こういう人たちは『インディアン』と言うそうです。旅を続けていたらいずれ出会うこともあるかもしれませんね。
ちなみにこの子が鳥操という鳥を操る魔法の使い手です。
「確かにわたしはあなたの先輩に当たるかもしれませんが、上下関係に興味はありません。わたしのことはホワイトと」
「そういう実力主義な先輩だからこそしゅきなんですよー! んまっ! んーまっ!」
「壁に唇縫い付けますよ」
「いーけーじゅー」
グリーンは唇を尖らせて、なおもわたしに抱き着こうとしています。身体が小さいから力も弱く、これくらいなら非力なわたしでも防げます。
「旧交を深めるのもいいですが、早速本題に入ってもよろしいでしょうか? ほらグリーン、ホワイトさんが困っていますよ。離れてあげなさい」
「はぁーい……」
レッドに窘められ、グリーンは渋々といった様子で離れて、そのままとてとて、と小走りにレッドの隣の席に腰かけました。
「ホワイトさんも適当に座ってください」
「いえ、わたしの席ではないのでこのままで構いません」
わたしはこの席に座る資格がありません。例えリーダー格のレッドからの言葉だとしてもです。
「そうですか? では時間も惜しいので続けさせて頂きます。貴女にわざわざ来てもらったのは他でもありません」
他ってなんでしょう。それはさておき。
「──貴女にはイエローに引導を渡してほしいのです」
……はて、わたしの聞き間違いでしょうか。
「引導──殺せ、と?」
「はい」
レッドは疑いようもないくらいに、しっかりと頷きました。
イエローってそれ──わたしたちと同じ同業者で、虹天集のメンバーじゃないですか。