20話
レッドの瞳は綺麗な紅蓮の色をしていました。大玉のルビーのように煌めいています。
「てっきり鉢巻きの下は陥没しているのかと思っていましたよ。よかった」
グロい光景を見せられるんじゃないかと少しヒヤヒヤしてしまいました。
「わたくしの千里眼は常時発動してしまう困った魔法ですので、自分の視界は塞いでおかないと大変なんです」
「さぞ訓練でもされたのでしょう。難儀でしたね」
「それはもう。胃の中が空っぽになりましたわ」
自分の姿を俯瞰で見ながら体を動かすなんて芸当はそうそうできるものじゃありません。訓練で嘔吐しまくるレッドの姿を想像して、ちょっと鼻で笑いたくなりました。ガラじゃないので。
「先程の続きですが、そもそもわたしの召集からして嘘ですよね。虹天集ではなく、あなた自身の独断だった。グリーンにまで嘘をついて協力させた。他人を自分勝手な嘘に巻き込むのは感心しませんね」
体重を乗せた両手での掌底を打ち込んで吹き飛ばしますが、腰から抜かれた鞘で防がれてしまいました。カタナで防がれなくてよかった。
「貴女の名前を出したら喜んで協力してくれましたよ。喜んでくれたのならば、悪いことではないでしょう?」
「だったら墓場までその嘘は持っていくべきでしたね。あの子を怒らせると怖いですよ」
どういうわけかグリーンはわたしに懐いています。そんなわたしを実は殺そうとしていたわけですから、まず間違いなく反感を買うでしょう。
最悪、殺されるのは自分自身だった、なんてつまらないオチが待っているかもしれません。
「で、鉢巻き取るとどうなるんです? 秘められた力が覚醒でもするんですか?」
「当たらずとも遠からず、ですわ。端的に言ってしまえば命中率が上がるだけですけど、それだけでも脅威なはずです」
「それは確かに」
レッドのカタナはあの切れ味ですから、それが当たりやすくなると言うのなら危険度はグッと上がります。
「ホワイトさんなら簡単に避けてしまうのでしょうけど」
「思ってもないことを。絶対に当てる自信があるように聞こえますよ」
念のため、保険はかけておきましょう。難しいんですよねこれ。
「参ります」
腰だめに構えたカタナを振り抜くレッド。間合いから離脱するように飛び退いて躱して把握しました。なるほど、これは避けるの難しそうですね。
──今まで一直線だった剣筋が、わたしの動きに合わせて曲がりくねったのだから。




