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19話

 レッドの深めの踏み込み。そこからヒュ、という小さな風切り音だけを鳴らし、命を刈り取る銀閃が雨を散らしました。

 横凪の一刀を屈んで躱し、下半身のバネを使って下から顎を打ち抜く掌底をおみまいしますが、顎を引かれて前髪を持ち上げるだけでした。

 間髪入れず唐竹割りに振り下ろしてくるカタナを独楽のように回転して横に回り込んでやり過ごし、そのまま遠心力に乗せた回転蹴りを放ちます。

 今度はレッドが屈んで躱し、振り下ろしたカタナでそのまま大地を切り裂きながら凶刃が下から襲い掛かってきました。


「おお」


 まさかそんな無理やり攻撃してくるとは思っていなかったので声が出てしまいました。

 体を横に構えて剣線から軸をずらし、体のギリギリを通過していきました。相変わらずほぼ無音の剣筋に背筋が凍りそうです。


「って、峰打ちはどうしたんですか。峰打ちは」


 宣言通り峰打ちしてきたのは最初の一刀だけでした。なぜ。


「ちゃんと峰打ちはしましたし、斬らないとは言っていませんよ?」


 ああ、そういうことですか。やっぱり嘘つきです。この女嫌い。

 ……いえ、でも確かに嘘はついていませんね。『峰打ちする』としか言っていませんから。一度峰打ちしてしまえばあとは普通に斬っても言ったことは守っています。


「せっかくです、レッドの嘘をもっと暴いてあげましょうか。戦いながら」

「そんなことができるのですか? それは怖い」


 言いながらもレッドはカタナを四方八方から振り、火花を散らしながら壁も地面も切り裂いていきます。ギリギリですが躱せないことはありません。

 カタナとかいう曲刀はとても切れ味の良い刃物のようですが、折れたり刃こぼれしたりしないのでしょうか。するはずです。気にしないのでしょうか。気にしてないのでしょうね。


「あなたの本当の目的はイエローではなくわたしを殺すことだった。違いますか?」


 レッドはこう言っていました。『多少思惑とは違う点もありましたが、お陰様で(おおむ)ね予定通りに事は進みました』と。

 狙い通りイエローは死んだはずなのに結果は少しズレていたわけです。

 つまりレッドの本当の目的はわたしにイエローを殺させることではなく、イエローにわたしを殺させることだった。あわよくば同士討ちしてくれるのがベスト、とでも考えていたのでしょう。


「面白い意見ですわ。でもイエローはともかくどうしてホワイトさんを殺す必要があるのでしょう? 優秀な葬儀屋なのに」

「そのまま優秀だから、でしょう。あなたは今の地位を守りたかった。だからそれを脅かすわたしという不穏分子は取り除きたかった。そんなときにイエローが魔法使いを殺し始めたので利用した。そんなところでしょう」

「……やはり、排除すべき人ですね」


 レッドが──鉢巻きを取りました。

 開かれる瞼の奥には、紅蓮の瞳が輝いていました。

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