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17話

 瞬きすら許さぬ一瞬の閃光が夜空を彩り、轟く雷鳴より早く、レッドの右手は左腰の曲刀へ。抜刀され、剣線が煌めく前に柄尻を押さえ込みます。たったそれだけの動作に衝撃が生まれ、雨が散りました。

 抜刀したいレッド。それをさせないわたし。力比べは拮抗していました。

 押さえるのは片手で充分。その隙に鳩尾へ掌打を──打ち込もうとして肘鉄に割り込まれ、相殺されてしまいました。

 ならば、と膝で腹部を突き上げようとしますが、これも同じ膝で相殺。おまけに上げた膝を下ろして足を踏んでこようとしたので脚を絡めて流れを逸らします。

 レッドはすぐさま上体を後方へ軽く逸らしました。わたしの顔面へレッドの額が迫ってきたのでわたしは後方へ転がり、レッドを放り投げました。巴投げと言うそうです。

 綺麗に受け身を取られてしまったので、ダメージは無さそうですが。

 うっすら微笑んで、レッドはゆっくりと抜刀しました。美しく波打つ刃紋が街灯に照らされ、伝う雨粒が光を反射する様は見るものの目を奪います。


「密着したままのほうがよろしかったのではありませんか?」

「頭突きは食らいたくなかったので。痛いし」

「刀を抜かれるほうがリスクあると思いますが……」


 レッドが珍しく困惑したような声を出しました。

 普通に考えれば、武器を手に取られるくらいなら頭突きを食らうほうがいいかもしれませんね。

 ですがわたしにはそもそも攻撃を食らいたくないという絶対的なこだわりのようなものがあります。それを優先したまで。カタナとやらを抜かれても、当たらなければどうということはありません。


「そうだ、気になっていたことがあるんです。質問」

「はいホワイトさん。わたくしでも答えられる質問をよろしくお願いしますよ」


 決闘という時間でありながら暢気に質問をするわたしもわたしですが、それに平然と受け答えするレッドも相当肝が据わっていると思います。

 せっかく許可も下りたことですし、普通に聞いてみましょう。


「千里眼とはどのように視えているのですか? 想像できません」

「そうですね……空を飛んだり、壁などをすり抜けられるもう一人の自分の視点を共有している、といった感じでしょうか」


 つまり〝幽体離脱〟とかいうものに近そうですね。視点を共有(﹅﹅)しているということは、鉢巻きで目隠しをしているのは二つの視界がダブってしまうからでしょう。

 視覚からの情報はかなりの割合を占めていますから、それが増えるのは明らかに脳へ多大な負荷をかけることになります。


「ではこれは視えるんですか? ヒントはジャンケンの手です」


 体の陰でパーの手を作ってみました。

 わたしには見えませんが千里眼で後ろから覗き込んでいるはずです。


「わかりました、パーですね」

「ハズレです。残念」

「──?!」


 パーから握り拳(グー)を作り、背後の領域を魔法で圧縮。ある程度の広範囲で。

 次の瞬間、レッドが明らかに動揺するのが見て取れたのでした。

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