16話
わたしの申し出を祝福するかのように、どんよりとした低い空からポツポツと雨粒が降り始め、勢力を増した雨はイエローの血痕すら洗い流してしまいました。
やはり雨は心地良い。火照った体を包み込み、血が登った頭を冷やしてくれる。いつでも雨は、わたしの味方。
イエロー。あなたとの闘い、不謹慎かもしれませんがとても楽しかったですよ。でもお互いに満足できていないでしょう?
この申し出は、あなたの分も含めた延長戦です。
「決闘……ですか? それは面白くない冗談ですよホワイトさん」
「『面白くない冗談』ですか。それは面白くない冗談ですね、レッド」
わたしはそんなつまらない冗談は言いません。わたしの冗談はいつでもどこでも面白いのです。面白くない冗談だと思ってくれたのならば、わたしのお誘いが本気であると伝わったはずです。
「あなたは『人を殺せば悪。悪を殺せば正義』と言いました。ついさっき」
「ええ。それがなにか? 間違っているとでも?」
「いいえ、肯定してあげます。だからイエローを殺したあなたはわたしにとって悪です。わたしに殺されても文句はありませんね?」
「なるほどそういうことでしたか。これは一本取られてしまいましたね」
糸で釣っていたかのように上がり続けていたレッドの口角が真一文字に引き結ばれました。
「〝真っ赤〟な嘘に塗り固められたあなたの仮面、叩き割ってあげましょう。粉々に」
「……わたくし、ホワイトさんとは戦いたくないのですが」
「嘘ばっかり。魔力が昂っていますよ」
風に靡く程度の魔力が、レッドの周囲では嵐に揉まれるように荒れ狂っています。
わたしの魔力とレッドの魔力がせめぎ合い、一触即発の突風が雨に痛みを持たせます。
そんな二人の間に、空気を読めない真っ白な鳩が割って入りました。
──白い鳩は平和の象徴。
「わかっていますよグリーン。『殺されても文句はありませんね』とは言いましたが、本当に殺しはしません。嘘つきとは違います」
うっかり殺してしまうかもわかりませんが。
「ホワイトさんはご自分に正直過ぎます。貴女ならもっと上手く生きていけるのに」
「わたしは今の生きかたに満足しています。余計なお世話」
お互いの額と額をゴッツンコ、胸と胸をむにんむにんとさせてから、稲光を合図にこの場で決闘は始まりました。




