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14話

「あなたのその理想、わたしには全く理解できませんね。これっぽっちも」


 わたしは大袈裟に肩を竦めて言いました。

 わたし自身が魔法使いだからという贔屓目(ひいきめ)は多分にあるでしょう。

 ですが──


「魔法使いはれっきとした人間です。それを殺して回るのは殺人鬼以外の何者でもありません。葬儀屋として殺す? 笑わせないでください。(たち)の悪い自作自演ですよそんなもの」


 そして被害をこれ以上広めないためにイエローを殺すのもまた、やはり人殺しでしかないのでわたしにはできません。

 だからこうして魔法を制限して時間を稼ぎ、隙を見て捕らえることができればと思っているのですが、そんな甘い相手ではありませんでした。腐っても虹天集(こうてんしゅう)でしたね。


「ですが、それでもわたしはあなたを殺さない。そして宣言しましょう──あなたに、わたしの白は穢せない」


 しっかりと構え、イエローがどう動いても反応できるように気を引き締めます。


「御託は終わりか? では行くぞ──ふっ!」


 短い息を吐き、瞬く間にイエローは急接近。両手を広げて掴み掛かってこようとする圧迫感は動く岩壁のよう。

 馬跳びの要領で飛び越えて背中を蹴り付け、立ち位置を交代。


「今日はとてもいい天気ですね。星が見えない」


 真っ暗な空には分厚い雲がかかり、地上には僅かな星灯りすら届かない。街灯だけが頼りの、わたしにとってはいい天気。


「この戦いと天気になんの関係がある! 我と戦え、ホワイト!」

「あなたと本気で戦う気はありません。嫌です」


 わたしは天を指差しました。


「それよりイエロー、降ってきそうですよ。そろそろやめませんか?」


 わたしほどの美少女になれば、降ってくるタイミングは手に取るようにわかります。


「雨なんぞで我が戦いを止めるとでも──」


 ──グサ。

 イエローの肩に包丁が突き刺さりました。


「──なに?!」

「ほら、言ったじゃないですか。降ってきそうですよって」


 打撃は通りませんが、流石のイエローの肉体と言えど刃物は通用するようです。それでも半分も刺さっていないのだから本当に強靭な肉体です。


「いつの間にこんな小細工を……?!」

「いえいえわたしはなにも。あなたの自滅です」


 次に親指で背後にある壊された荷車を指しました。わたしが椅子やら金属の棒やらを引っ張り出した荷車です。

 イエローの蹴りで粉砕されて吹き飛ばされた商品の中に、包丁が含まれていたのでしょうね。これは驚きの展開。いやービックリ。


「最初に言った通り、やはりわたしの勝ちですね。諦めてください」


 どや。

 と、どやったところで、この程度イエローにとってはかすり傷でしょう。

 次の瞬間、わたしは咄嗟にこう口にしていました。




やめてください(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)!!」




 突然のわたしの大声にイエローは眉根を潜め、その表情のまま頭が地面に落ちました(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)

 地面に転がるイエローの首。断面から力強い鼓動に合わせてボタボタと溢れ出てくる真っ赤な命の源泉。

 一瞬のうちに絶たれた命でありながら、根が張ったように屹立する姿はまさしく(おとこ)でありました。

 イエローは常に正面から立ち向かってきてくれた。だと言うのに──


「後ろからなんて卑怯だとは思わないのですか。レッド(﹅﹅﹅)!」

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