13話
手の平を正面に構え、魔力を高めます。それらを手の平に集中。
そのまま鳩尾に全力で打ち込みます。もちろんこの掌底が通用するはずもありません。
「何度やっても──っ?!」
すぐさま異変を感じたイエローは一瞬で飛び退きました。たった一歩で随分な距離を稼ぎますね。
ひとまず微動だにせず涼しい顔を浮かべ続けるイエローに一泡吹かせることはできたので良しとします。
「……これが噂に聞く、手で触れたものを燃やす魔法か。流石の我も肝を冷やしたぞ」
魔法の詳細を誰かに喋ったことはないのですが、同業者ともなればそれくらいの情報は仕入れていますか。正確ではないようですが。
「その冷えた肝、温めて差し上げますよ? 筋肉が凝っているようです。マッサージでもいかがですか?」
「ふん……やってみろ」
魔法が発動しかけて嬉しいのが顔に出ていますよイエロー。
まるで犯罪者のような凶悪な笑みを浮かべるイエローが構えると、さながら立ち上がった熊と対面しているかのような命の危機を感じさせます。
わたしならばそんな感覚どこ吹く風ですが。指をクイクイっとやって挑発だってしちゃいます。
まだこれ以上の魔法を使ってあげるつもりはありませんよ。
イエローは僅かに身を屈めると、一瞬で深く踏み込んで体を捻り、片足を後方へ振り上げました。
うーん、これはヤバそう。
「どりゃぁ!!!!」
横っ飛びで逃げると、気迫と共に解放された脚は遠心力をフルに生かして荷車を粉砕し、大地さえも易々と抉り取りました。
胸板と膝がくっ付くほど芸術的に振り上げられた脚は竜の爪すらも砕くでしょう。か弱い乙女であるわたしがこんな攻撃に当たったらひとたまりもありません。冗談抜きで体が真っ二つになってしまうかもしれません。
相も変わらず一撃が重い。危ない危ない。
「でたらめな威力ですね」
「その身で味わってみろ。飛ぶぞ」
顔面を狙った右ストレートを受け流すと、背後にあったレンガの壁を粉々に粉砕してしまいました。さっきから周囲の被害が甚大なんですけど。
「確かに飛びそうですね。頭が」
こんな威力の攻撃は、防御=直撃となんら変わりありませんので、躱すか受け流すしかありません。その度に都市の一部がどんどん破壊されていきます。
大地は削れ、壁を穿ち、物は原形を残さない。
葬儀屋はとんでもない人物を抱え込んだものです。
「掃除屋に転職されてはいかがですか? あなたにぴったりだと思います」
これほどの強さがあれば大歓迎されること請け合いです。そちらでも間違いなくトップに君臨することでしょう。
「ふん、あんな血に汚れて穢れた集団と一緒にするな、我はもっと崇高な理念で行動している!」
「生きていた証を立てるために殺す、でしたか。これは失敬」
掃除屋は見ようによってはただの殺戮集団ですからね、イエローの志向とは反しているのでしょう。
なのでわたしは言いました。
「寝言は寝て言え」




