12話
防戦一方だったわたしは攻勢へ転じます。
「怒らないでくださいよ。行きます」
気持ちのこもっていない言葉を投げてからそれを再開の合図とし、落ちていた小石も一緒に蹴りつけてプレゼントしました。
「目眩し?! 小癪な!」
「結果が全てなのでしょう? 文句を言わない」
イエローが羽虫を払う感覚で小石を弾いている隙に懐へ。手足のリーチでは負けていますが、懐へ深く潜り込んでしまえばそのリーチが仇となります。その手足の長さではわたし以上に小刻みな動きはできないでしょう。
「──っは!」
鋭い呼気と共に分厚い胸板の中央、人間の弱点である鳩尾目掛けて渾身の掌底を打ち込みます。柔拳は内臓にダメージを与える攻撃。どう足掻いたところで内臓を鍛えることはできませんから、確実なダメージが期待できます。
──と、今までは思っていたのですが、衝撃が分厚い筋肉の壁を突き抜けなければ意味はありません。
「軽いな」
「硬すぎ……痛い」
齧った程度ではこれが限界ですか。グーだったらもっと自分にダメージが返ってきていたかもしれません。これは少し戦いかたを変える必要がありそうですね。
「魔法を使う気になったか?」
「いいえ。まだまだこれからです」
試しに同じ個所に何度も掌底を打ち込みますが、石の壁に張り手をしている感覚です。イエローも打ってこいとばかりに全く微動だにせず、わたしを見下しています。
これ以上打ち込んでも無意味なのは身に染みたので作戦変更。失礼は承知の上で、たまたま路上にあった荷車から売り物であろう木製の椅子を拝借します。
この椅子をどうするのか、ですか? 当然こうします。
脳天目掛けて振り下ろすんですよ。
──バギャ!!
けたたましい音を立てて椅子が粉砕しました。どうしてこの人の頭はこれで粉砕されないんですか。頭に鋼鉄仕込んでるんですか。
涼しい顔をしてイエローは今一度言いました。
「魔法を使う気になったか?」
「いいえ、まだまだこれからです。ではこれならどうですか?」
今度は同じ荷車から金属の棒を引っ張り出しました。これをなににどう使うのかは知りませんが、椅子はちょっと手加減し過ぎました。
──ガゴィンッ!!!
当然鍛えようがないはずの頭を狙いましたが、金属の棒が半ばから折れ曲がりました。イエローは平然としています。手が痺れる。
この人本当に人間ですか。実は魔人なんじゃないですか。そうとしか思えません。
そしてイエローは言うのです。
「魔法を使う気になったか?」
と。
仕方ありません。ちょっとだけですからね。




