11話
──ジャンケン。
それは『グー・チョキ・パー』と呼ばれる三種類の手の形で三すくみを表し、同時に出して勝ち、負け、同じならもう一度行う、という子どもがよくやる遊び。
イエローが言ったように、この遊びはレッドが生まれた国が発祥のようで、全国的に広まっていて知らない人はいません。
「すでに勝っているだと? 戯言を抜かす」
「剛拳は拳で殴り、相手の身体を破壊する。柔拳は手の平で打ち、内部を破壊する。剛拳が拳、柔拳が手の平なので、わたしの勝ちです」
どや。
ちなみにチョキは目潰しなどの局部破壊。弱点を指で突くものになります。
イエローはイライラを眉間の皺に刻みながら、鼻で笑い捨てました。
「ふん、なにかと思えばくだらん。実力で掴み取った勝利が全てだ!」
実力主義なイエローらしい考えかたですね。わたしも同意見です。残念ながらこれも挑発としてはあまり効果はなかったようです。
冷静さを保ちながらも、闘気だけがみるみる膨れ上がっていくのだから。
「貴様がどれだけの実力者であろうと、我はさらに上を行く実力で殺してやろう! 葬儀屋としてな!」
葬儀屋として殺す、ですか。
わたしを睨みつける瞳には自分を信じて疑わない正義の光が宿っています。言葉の通り、葬儀屋としてわたしを弔おうとしてくれているのでしょう。それが正義だと。
彼にとって、魔法使いも魔人も死人も、変わらないのかもしれません。
ですが──
「そう簡単には殺されてあげませんよ。無駄です」
「ほざけ!!」
開幕するは殺戮の武闘演舞。
横凪の拳、ナタ落とし、脳天割り、鎖骨砕き、回転蹴り。
繰り出される技の数々に申し分ない練度の高さ。それらを紙一重で躱し、受け流し、猛攻を凌ぎます。腕は矢のように鋭く、脚は大砲のように猛ります。一発でも貰ったら終わりでしょう。万事休す。
「──っとっと?」
しばしの猛攻ののち、唐突に攻撃の嵐が止みました。はて、油断を誘う作戦でしょうか。筋肉バカにしか見えませんが、そんな頭を使えるとは。冗談です。
「貴様……なぜ手を抜く!」
「手を抜く? まさか」
攻撃を捌くので文字通り手一杯ですよ。抜ける手なんかないです。嘘じゃありません。
「ならなぜ魔法を使わない。貴様は魔法使いであろう」
「魔法を使ったら死んじゃいますから。あっさりと」
レッドからは殺すように指示されましたが、依然従うつもりはありません。
どうしても、殺さず捕らえたほうがいいのではないか、と思ってしまうのです。
「本気で来い。悔いが残らぬようにな!」
「あなたは死んでも良いと言うのですか?」
どうしてもわたしに魔法を使って欲しいようですね。魔法使いとしてのわたしを殺したいからでしょう。
「初めて魔法使いを殺したときから、すでに覚悟はできている」
「……そうですか。ではわたしもその覚悟に免じ、礼を尽くしましょう」
魔法を使うかは別ですが、遊びの気持ちは捨てましょう。
コッペパンも食べ終わって両手が空いたところですし、これからが本番です。美味しかった。




