第97話
「はい、みなさんこんにちは。シャドです。あーほんとごめんなさい。いきなり生配信しちゃって。やっぱり張り込みをしているとスマホの充電ができないから、どうしてもこうなっちゃうんですよ」
謝るときだけ急に声を高くするみたいにして頭を下げているシャドはその時だけ画面に顔を見せている一方で、外の後はスマホのインカメラに自身の様子を映しているようで、それのせいでその顔はもちろんのことその上にできている天然パーマで無造作に盛り上がっている髪の毛の様子も一切見えなくなっていた。
一方でその様子はほとんど太陽の光から影になっている様子しか見えていないようになっている物の、そのわずかな隙間から青空の様子が見えているのか、顔のすぐそばに自身の手を目元へと当てるようにして少しまぶしいと小さくつぶやいていた。
流那や星田が暮らす施設のすぐそばにある、廃屋と木が生い茂っている空き地の中でもごみの袋と雑草にまみれているところで、ただ1人しゃがんだままでいるシャドの周りでは今もわずかに濡れている葉が揺れ続けている。さらに、その足元ではムカデがはい回っている上に、近くでは蜘蛛が飛んでいた蛾を捕食しているのが見えていた。
「えっとですね、今日は、川辺で花笠心愛を追い詰めた時に来た女性のインスタから特定班が住所を割り出してくれましたからね。特定班の人が教えてくれた住所に張り込みしてたのですよ。そしたらですね、さっき木月流那が出て行ったのを見たのと、その後尾行して電車に乗ったのを見たので。これから侵入していこうと思います。見てろよあのうんこ野郎、絶対復讐してやる」
囁くように小さくスマホに乾燥して白くなっている唇をくっつけそうなほどに近づけているシャドのせいで、配信の画面にはもうそこしか映っていない上に、わずかなへこみやそのしわの形まで見えてしまいそうなほどにアップになってしまっていた。
それにかまわずそのまま進んでいっているのか画面が揺れその服や空気がこすれる音が入ってくるタイミングで、それをかき消すほどの音をスマホが拾っていて配信にも入り込んでいる。そして、それに対してコメント欄では犯罪であることや警察へ通報することを呼びかけている物が次から次へと流れ続けていて、1つ1つを追うのはほぼほぼ不可能なほどになってしまっていた。
「何を言うのですか、犯罪だっていうなら、あいつらがしていることだって十分犯罪じゃないですか。みなさん自分がされたことを思い出してみてくださいよ。もう何年も経ってるのにいまだに思い出しますからね。本当に、犯罪だっていうならあいつらがしてることも十分犯罪ですよもう」
その言葉を語尾ごとに強くするようにしている物の、声は未だに潜めるみたいにしているシャドは、それと一緒に地面に落っことしている葉っぱがこすれる音を鳴らしている。それに対して彼女がいる場所の背中側に数十メートル離れた場所にある大通りでは車が行きかっている様子を見せ続けていた。
シャドはもう一度コメントを確認するみたいに視線をスマホへと落っことすと、同時にもう一度半開きになっている口から黄色い歯が見えている上に、荒れ続けてシミまみれになっている上に赤くなってしまっている顔の肌の様子を見せている。
「余計な事いうやつらは、こうしてやる、ほら、死ね! よし、どうだ、ざまぁみろってんだ、よし、みなさん、アンチはすぐにこうやってユーザーブロックしてやればすぐ消えます。安心してください。アンチをちゃんと消しましたから。では、アンチを消した次にすることはと、よし見てください。あれが木月流那たちが暮らしている施設です」
もう一度改めて目の前にあった葉っぱがついたままになっている幹をどかすみたいにしてからスマホのカメラをひっくり返してインカメ側を外へと向けるシャドは、両方の指だけを使ってそれを支えたまま、わずかに体を前のめりにするみたいにしている。
一方でそっちに立っている施設からは灯りが出ることもなければ何か音がするわけでもない。しかし、シャドが向けているスマホについているバックライトもそこへと届くこともなかった。曇った空から太陽の光が降り注ぐこともなくただ灰色の空気の中に包まれたままになっている。そんな様子へと少しずつ近づいていくシャドはそれによって草木をあさるような音を立てて続けていた。
何度もそれを払いながら進んでいってから足元に置いてあったプライヤーを手に取ると、そこについていたラベルとを外してからポケットにしまう動きを歩きながらしているが、それが上手くいかなかったようで、途中で車道の真ん中で足を止めながら力を強く籠めて引っ張り始めていた。
その間スマホは脇に抱えるようになっているせいで、配信者がわずかな声を出すみたいにしているそれを聞く間に布がこすれる音もし続ける。コメント欄では流那への悪口とともにシャドを応援する言葉が次から次へと流れていた。それを当の本人が見ることになるのは、一度ため息をつきながら膝の上に手を置いた時だった。
「おーみなさんありがとうございます。いまから、これで入り口をこじ開けて。中に入っていきますからね。ここで木月流那に報復してあげますから。いやね、これも正義のためにしていることです。これが許されないなら間違ってるのはシャドさんじゃなくて法律の方ですよ、その通りです。よく言ってくれました。えぇ、ももさんありがとうございます。絶対ね、いじめをしてくる奴は根が腐ったってますから、私が成敗します」
力強い掛け声を上げたシャドはわずかな声を上げるとともに、金属を噛ませたプライヤーの両方の持ち手に力を籠める。さらに、息を止めて喉にも同じようにしているその姿を見ていたら、その後それを引っかけているカーゲートにも足をまっすぐに引っかけるみたいにしながら後ろに体重をかけるみたいに、背中を後反りにしだす。
それも十数秒した後、プライヤーの先端同士がぶつかり合う高い音が聞こえて、それと同じタイミングで上へとそれが飛んで行くとともに、大きな声を上げながら真後ろへと落っこちるシャドだが、その瞬間後ろから来た車が後ろ側の車輪を滑らせて車体を斜めにしながら大きなクラクションを鳴らしていて。引かれかけた本人は、そっちへと目を大きく開くながら自分の胸元に押し込んで息も強く吸い込んでいる。
それに対して頭も取り付けられたスマホのカメラもそっちを同じ方向へと向いている物の、いまだその画面にはインカメの方を映しているせいでそこには髪の毛しか映っていない。それはシャド自身から転がるみたいにしてすぐに歩道へと戻っていっていたら、そのままそこでうつぶせになるみたいにしたタイミングで、両方の手を地面へと腕を垂直に立てるみたいにしていて。それから顔をわずかなため息と一緒に起こすと共に車が発進しているのを聞いているようだった。
それから施設の中へと侵入したシャドは、流那と初めて遭遇した時に来ていた病衣をそのままに両方の手を胸の少し前くらいに出すようにしたまま数歩ずつ進んでいっているままに膝を曲げながら持ち上げた足をゆっくりと床に落っことす。そして、そのたびにわずかな音を立てるみたいにしている。そのままスマホのライトを部屋の前にある名簿へと当てると、本人の顔もそのアクリルに映りこむものの、顔の部分はライトに隠れてしまっていて見えないままになっていた。
それと共に、またゆっくりと足を進めだすものの、それは先ほどの名簿を見る前の時よりもほんの少しだけ早くなっていて。それに対して周囲では何も起きないようであった。そんな中でシャド自身は足を動かすたびに肩を前後に動かし続けている上に、それと合わせるみたいに両方の腕を持ち上げたり戻したりを繰り返していた。
「今のところは誰もいないみたいですね。ここは……いや、違う。木月流那じゃない。じゃあ次は……これも違う。もう、なんなんだこれは。偽物だらけじゃないか。こざかしい。死ねほんと」
最後の言葉だけわずかに吐き捨てるような早口で言うシャドの言葉だが、その一方で他の場所は息を吐くような声と合わせるみたいで、スマホを片手に視線と一緒に口もそっちへと向けたままにずっと話していた。
一方でコメントの方では一番奥から探すように指示をしているようなコメントやナイフを調理室から護身用に持てくるように提案しているようなものなどさまざまであったが、それに対してシャドは自分から懐からナイフを取り出して配信画面にも映るように見せる。その後ではそっちでもほめるものと恐れるものと警察沙汰だと言っている物でチャットが分断され始めていた。
「ここですね、いました。それに……鍵は開いてるみたいですね。ピッキング用に細い針金も用意したのですが、無駄になってしまいましたよ。ようし、それでは、このまま部屋の中に入っていきましょう。よしえっと、あいつの弱点をここで探しますよ」
小さく息と一緒につぶやくみたいにしていた声を出したままに数歩下がっていくシャドはドアノブをわずかに引くとともにその部屋の中へと入っていくと、いまだこの前の雨水が奥の地面のところに残っているようで、その中はわずかにそこを反射してくる光によって水色になっている。そのせいか、入った瞬間シャドも自分の体を擦るようにしながら左手の二の腕を掴みつつ肩を持ち上げるみたいにしている。
それから少し上を見るみたいに首を上にしていたせいか、急にシャドは体を前に倒すみたいにして、それと共に今まではずっと抑えていたはずの声を一気に大きく出しながらそのまま目を大きくするみたいにしていて。それと一緒に両方の腕を正面へと回すみたいにしている物の、それも無意味になってしまったようでそのまま体を床へとうつぶせになって倒れてた。
それから腕を横へと向けるみたいにして一度ため息をつくシャドは、両方の肘を反対側の腕で持つみたいにしながら少しだけ背中を曲げる。数秒間の間そのまま膝を曲げてお尻を上へと向けたようなポーズのままいたが、その後片方の手でおでこをさすりながら膝を曲げた状態でいて、もう一度ため息をつきながら肩を落っことして体の向かうままに正面を向けている。
「痛い……」
その途中を上げるみたいにしている声を出すと一緒に首だけを使って後ろへと振り向くと、それと共にシャドは息を強く吸い込んでいる。それから、そっちへと本人が一度だけ片手を床へとついてからその勢いで立ち上がるけれど、しかし、その勢いはすぐになくなっていた。
ゆっくりと足を進めた後、唇を閉じてから歯を見せるみたいに強く食いしばると、それから足を一気に後ろへと持っていった後にそれを蹴飛ばすと、壁へと向けて床の上をちょっとだけスライドして開いたままになっていた口の中から流那の教科書とノートが数冊出てきてしまう。それに対してシャドはまっすぐとそこを見ながら何度も激しい息を繰り返していた。
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