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Lunatic  作者: コンテナ店子
第二部前編
90/216

第89話

 一番下の踊り場から伸びた階段の下のところで、自転車同士の隙間に座っているシャドがスマホを自身の体の上へと向けて、顔も限界まで首を伸ばすようにして上へと向けていた。一方で、周囲では雨が降っている音が何度も建物の外へと当たり続けているのが聞こえている上に、そのびしょぬれになっている髪から何度も水滴を落としている上に、重そうに頭へと張り付いたままになっていた。


 しかし、当の本人は顔を何度も傾けているのをやめてから一度伸ばしてた腕も下ろした上に顔もそれに合わせて下へと向けると、youtubeのウィンドウを一度消してからわずかな独り言を数回出した後にもう一度配信をつけなおしていた。それから同じ体制になると、何度も首を傾げながら腕の位置を変え続けながら高い音を立てて息を吸い込んでいる。


 シャドが体を動かすたび、左右にある錆が散見している上に紺色に近い色の塗装がされてる自転車に揺れ続けているために小さな音を立てていたが、倒れるほどにはなっていない。そして、それらがある奥側は白い塗装が塗られていない灰色のままのコンクリートを見せているも、この階段の中を照らしている踊り場に着けられた白い電気が届いていないせいでほとんどその姿は見えなくなっていた。


 しかし、その後シャドは口から大きな声を出しながら体を制止させてて一切他の場所を動かさないままに目を大きく開く。それから何度もそこへと向けて意味のないただの音を喉から長く出し続けてて。その音も階段全体にずっと広がり続けていて、一度出した音を何度も聞くことになるよう。しかし、それに対してもシャド自身はずっと同じ姿勢のままただただ腕をまっすぐに向けて中腰のまま膝をプルプルと震わせているだけ。


 そして、その姿のすぐそばにある自転車の籠にはたくさんのジュースの空き缶やコンビニの袋などのごみが捨てられたままになっていて、それらもたくさんの染みを作っている一方で、それらが動くのは2つの間にある体がそれと触れ合うタイミング以外では一切動こうとしない。


「配信出来てますか? 聞こえてますか?」


 何度も補備を伸ばし続けるその音に対して、シャドが手にしているスマホの下側には数秒に1度ずつコメントが表示されては消えてを繰り返している。それを見た配信者自身もカメラへと向けて何度も手を振りながらまた小刻みに意味のない声を出し続けていた。


 それから少しずつ自分から腰を落としていこうとしていた持ち主の体に対応するようにスマホを下がっていくと、数秒後に映像がかくつき始め、次々と画面の中で動いている個所が少なくなり始めてモザイクのような四角の方が配信の中で多くなってきた。


 そのタイミングで、すぐにシャドが自分から体を持ち上げて立ち上がっていると、今度はさっきよりも全然早いペースで腕を左右に動かし続け、それを数回繰り返した末に安心するような言葉を繰り返した後に自転車の荷台へと座り込んでいた。


「バレなきゃいいってわけじゃないけど、今日はちょっと漫喫入るお金がないので。ちょっとここのアパートに住んでるおばあさんの家のWi-Fiがね、パスワードついてないんで。借りさせてもらってます。だから配信見切れてたらごめんなさい」


 口を横へと広げたままに濡れた髪の毛へと右手の指を触れさせて髪の毛を何度も同じ場所で動かし続けている一方で、左手はスマホを持ったままにまっすぐ伸ばしている。しかし、そのせいか配信の画面にはシャドの目がギリギリ入ったり入らなかったりを繰り返している場所しか映らない。


 しかし、当の本人はそれでもわずかに小さくした声を出した後に、少しだけそれを大きくしながら話していくけれど、それは先ほどマイクのテストをしている時よりも小さなものであった。ただ、言葉でも謝っているタイミングではそれに合わせるように頭を下げていて。それによって髪の毛でぬれた頭が光を反射してしまっていた。


「これですか? これはですね、カレーです。近所の公園でやってた炊き出しでもらってきたものです。団体の人が働いてるテントしか屋根があるところがなかったから配信しながら食べようと思ってたんだけど……」


 そういいながら一度シャドは自身のインカメを上に向けたままにスマホをしゃがんだ肘の上に乗っけているも、それに対して画面はいくつもの箇所が四角くかたどられるように配信が止まり始める。それから何度も動いては止まって、動いては止まってをそこが繰り返している上にコメントも止まったと思ったら一気に流れていくつもの文章が一瞬にして外へと出ていくと、配信が止まったことを示す短文だけで埋め尽くされていた。


 その一方でしばらく床の上に置いてあったカレーへと手を向けていてそれを一口だけ食べた後に視線をスマホへと向けたシャドはすぐに「やばいやばい」と声を出しながらそれを両手でつかんでから、上へと掲げるみたいにしてて、腕を限界まで上げながら数秒間に一度ほど左右に動かし続けている。それから数秒後、中腰に行かない程度に体を持ち上げた状態でいると、それから何度もゆっくりと伸ばした状態で声をまた出し続けていた。


「つながったかな? ごめんなさいほんとに。見つからないようにおばあさんの家から少し離れたところにいるんですよ」


 演技がかったような大きく抑揚をつける声。それが本人の周りだけでなく、階層の上部分にまで反響を繰り返しているのを聞こえているも、それに対して周囲ではただただ雨が降り続けている音が聞こえているだけであった。


「そうだ、そうですよサナサナさん、本当に申し訳ないです。今日は昼ごはんの炊き出しに行くために2時間くらい歩いてたのもあってすごく疲れちゃっててですね、奴らに負けてしまいましたよ。でもね、まだ私もこうして生きてますから。やつらのようなサイコパスは撃退しないといけません」


 そういいながら依然としてシャドはスマホのバックライトにだけ体を照らした状態で、雨と川の水でぬれて汚れたままになっている服を落っことしている。


 本人がしゃべっていないタイミングでは、周囲から聞こえてくるのは雨がずっと降り続けている音で反響しているだけであった。


「いや私は正義を執行しているだけですよ。だって、あいつらサイコパスでしょ。同じ人間同士をあんな風にはできませんよ。それに、元はといえばあいつらが先に私たちを排除したりおもちゃにしたりしてきたんですから。ほら、見てくださいこの手帳。ちゃんとね、私も皆さんの仲間だということをこうして証明しています」


 自身の顔の前で懐から取り出した片手で収まりそうな小さいサイズの精神障害者手帳をうちわ代わりにするように振っていて、それへと握り締められている力でわずかにそこがへこむように形が変わっていた。


 一方で、その顔も自身の眉間のところにしわを作るようにしているけれど、配信に映っているのは手帳の上半分が隠れている上に自治体している紋章もそのほとんどが見切れてしまっていてちゃんと映っているのはその指だけ。それでも、シャドはずっと同じポーズと表情をしたままであった。


 それに対してコメント欄でも何度も文字だけで賛同していたり自分も仲間であることを示す言葉が次から次へと流れ続けていて。さらには自分の町にも配信者が来てほしいという文まであった。


 しばらく手帳を前へと出したままにしていたシャドだが、アニメアイコンが次から次へと流れているコメントへと自身の顔を戻し、それから口を半開きのまま目線を左右へと動かしてその様子を見ているけれど、それが配信に映ったと思った途端にはもう顎だけになってしまう。


 その後、すぐにわずかな声を出したシャドはまた早口気味に口を開いて話し始めていた。


「そうだった。サナサナさん、すみません、正義の執行には少し時間がかかってしまいそうなんですよ本当にすみませんどうしても倒さなければなら。ならない敵が諸悪の根源ともいえる基地外もいいところな悪党があの、あのクズだけはあまりにも悪質すぎるので、何としてもつぶさないとです。みなさんがいつ犯罪に巻き込まれるかわかりませんからね……」


 一度はファンのハンドルネームを呼ぶとともに言葉を止めていたその言葉であったが、その後は全く休みを入れないような言葉を話していて、その勢いが限界を迎えようとしていたタイミングで一度止めると一緒に、何度も肩でするような呼吸を繰り返す。


 それに対して周囲ではどこからも音がしないと思った矢先、上の方から足音が聞こえてくると、そっちへと視線を一気に向けるとともに、自分の胸元へとスマホも持ってきていて、それからじっとそっちをただただ口をまた開けたままに見続けている。


 しかし、その音がだんだん大きくなっていくとともに荷台を手に持ちながらそれを自身の胸に当てると、そのまま小走りで何度もマンションの廊下へと足音を大きく立て続け出して、それとともに顔を前へと向けずにずっと下を見たままただただ足を動かし続けていた。


 しかし、それのせいか建物の外へと飛び足した途端に、そこにあった外へとつながる公道の間の数段だけある階段を見逃したせいか、シャドは着地に失敗してそのまま勢いよく体が地面へと叩きつけられて数回体を横向きに転がした後にガードレールへと激突する。


 ガードレールへと背中を向けたまま肩を垂直にするように体全体を立てているシャドは、そのまま前側が向いている方へと腕を伸ばしたまま雨に降られ続けている。しかし、その近くを通った自転車に乗った男が傘をさしたまま一瞬だけその様子を見るも、目を丸くしながら肩の裏側を見せるようにしてそこから体をよけさせていた。


 そして、その後反対側からくる高校生のカップルも、ずっと笑い声をあげて1つの傘の中で肩を寄せ合っているにもかかわらず、床に転がっているその姿を見た瞬間に視線を互いの顔からそっちに移す。それからシャドに背中を見せるあたりまで歩いた後、雨に消えている声がわずかにし続けていた。


 それから、何度も雨水を噴き出すようにせき込んで、体をあおむけにするように空を見ると、その体を車が走っているライトに照らされるタイミングもありながら、ずっとお腹や胸を動かして笑い続け始めていた。

読了ありがとうございます。

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