第71話
息と一緒に肩を何度も繰り返し動かし続けている間、一度強く目を瞑ってから、今の私にできる範囲で目を限界まで開いてそっちを見ると、東雲は体を伏せたまま片方の腕だけで前に進みつつ、もう片方の手に黒い塊を握りしめて手を上にあげていた。それを見た途端、私のすぐに肩を使って距離を取ろうとするも、そっちにはもう培養ポッドしかなくて。そっちに体を縮こまらせるように寄せることしか出来ない。心臓から喉の中が何もなくなるような感覚すらも味合うし、その上、ただただ同じ音が呼吸と同じように溢れ続ける。
しかし、東雲がこっちに迫って来るのは止まらなくて。私は目を瞑りながら頭を肩で隠すようにしている間、それによって喉が隠れて。その上に、周囲からは私の声によって何も聞こえなくなってしまう。しかし、その間も、空気の感覚で東雲が少しずつこっちにやって来る音は一切止まろうとしない。
「お前が、どうであっても、それで全世界を敵に回していい理由にはならないであります」
そのいつも通りの抑揚がない声が聞こえて来たのに続くように、私の頭に自分の体の寒気とは全く異なる冷たい感覚が迫って来る。しかし、それに対してこっちは口の中が完全に乾ききってしまっている感覚と、足の痛み、そしてそこからいつまでも溢れ続けている血が私の手の隙間から次々と溢れてしまっていた。
その上、咳も止まらなくて、何度も頭が銃口で押され続けるのに合わせて、髪の毛が揺れ続けてしまっていた。
その間に、だんだんと手からも目からも力を抜いて、わずかに息を1回だけ吐いてから、体の震えもだんだんと消えていく。しかし、それに対して、周囲では何も音がしない。それから、壁と床に体を預けるようにしながら、細い目で地面の方を見つめた。それに対して、スマホが入ってたポケットにまだ動く左手を重ねて、杏の事を思い出す。私の髪を整えてくれた杏、黒魔術ごっこを一緒に付き合ってくれた杏、一緒に他の仲間を助けようと提案してくれた杏。自分の左手におでこを近づけるようにしながら、涙を一滴落っことした。
「あなたの負けです東雲アニタ。木月流那さんを殺しても、あなたの地位はもう失われる」
その倉敷さんの早口な声が聞こえた途端、東雲が体を勢いよく起こすようにしたのを感じたけど、それに対してそっちは息を吸い込むようにしている物の、それに対して私の頭は突かれている。しかし、それでもこっちに近づいている音がどんどん大きくなっていくのは間違いなく聞こえていた。それに対して、私は何も出来ないけれど、そう思った次のタイミングでは、体がゆすられ始め、それによって私の頭が前後に揺れ始める。そう思った次の瞬間には、頭が支えられたと思ったけど、それが一瞬だけだったと思いや、その直後に床の上に寝かせられた。
それと共に、目を開けたいけど、やっぱり視界は虚ろなままで、頭のずっと鐘が鳴り続けているのを感じ取る。でも、その間から、ハリーやマナの声、そして倉敷さんの部下の女性の声が聞こえて来てた。そっちに体を向けようとするけど、その瞬間に私の体に一気に重みがかかるような気がして咳き込む。その上、お腹のえぐれている場所で血が動くような音までしてきてしまい、体からまた体温が抜け落ちるような感覚がしてしまう。その瞬間に、またハリーの大きな声が聞こえて来た。
「腰抜け! ……よく、やったな」
最初は早口だったけどその後しばらく間を置いて出てきたその声の主は、私の体が慎重に運ばれ出したタイミングでわずかに体を傾けるようにしている時にようやく視界が安定してきたおかげで見ることが出来た。担架に担がれている私の体のすぐ横で端に手を当てながら歩いているハリーと、私の前後をマナとコアラが持って運んでいる。視線をそっちに向けると、親指を出すポーズを持ったままに見せて来ているのと、一度振り返ってウィンクしているのが見えていた。
それから、逆側を見ると、そっちでは床に転がっている東雲に対して見降ろしている世古島とその姿を見ながら片側の手だけを腰に乗っけている倉敷さんの姿があった。
「東雲アニタの処理はこっちに任せてください。それから、大森杏さんのことも、ちゃんと私の部下が責任をもって木月流那さんの元へと送り届けます」
両方の手を組んだままその話を聞いている世古島の顔はそのままに視線だけを動かして倉敷さんの方を見つめるようにする。それから、いつも通りのトーンで話を進めるそっち側に対して一度うなずくと、それからその横を通ったと思いきや、私のすぐ横まで小走りでやって来ると共に、反対側にいたハリーが姉御の事を呼んでいた。そして、それと共に暗かった部屋の中にずっといたせいか、外の廊下との間に差しかかったせいで目が一瞬だけ閉じそうになるけど、でも、それも数回だけで終わって。そのタイミングで私の体からだんだんと息が抜けていくような感じがした。それから、次はもう一度息をゆっくりと吐いて、それから瞼を下ろす。
「腰抜け、後はあたしらとあのおっさんに任せろ」
その声を聞いてから私は、息を吸い込むようにすることで胸元を膨らませるように。でも、その間も、私の瞼の後ろ側に映っている物は私自身以外には何もなかった。ずっとただただその場所を見つめ続ける。その一方で、私の下にある担架はわずかに上下に揺れるのを繰り返していたし、足音と周囲の空気の流れで、ずっとハリーが横にいるのも感じ取れたと思った次のタイミングで、私の左手の甲側にその手が乗っけられているのを感じて、その瞬間に私は吸い込んでいた息を少しだけ吐き出しそうになって、それと共に、お腹の辺りの痛みがまた余計に強くなるのを感じた。
でも、それでも、体勢はそのままにしている一方で、お腹にもう一度力を籠めるようにしてから、喉も動かす。それと共にまた声が喉から零れ落ちるのを感じてさらには私の手に重ねられてた手にも力が籠りそうになるのを感じるけど、その直後に目いっぱい息を吐くことでまた大きな声が出そうになるのを防ごうとした。
「ありがとう……」
なんとか息の間で出せたその声に対して、ハリーの何も意味のない声が一瞬聞こえたし、コアラがこっちに振り返るようにしているのに気付くと、私はわずかに視線を逸らすようにするけど、またすぐにどこにも向かわなくなった。それから瞼をゆっくりとおろしていると、すぐにまたハリーの手に籠っていた力が軽くなって私の手にそれで出来上がったわずかな湿気がほてりになって私のそこに残る。そして、それはそこから力を抜きながらも手首と指先の所で支えるようにすることで、そこに空気が通れる隙間を作るようにした。
そうするとそれでずっと進み続けることで流れる空気が気持ちよくて、そのまま居続けようとする。でも、その間も私の体を運び続けるペースが衰えることは一切なくて。かといって早くなるわけでもなく、ただただ私の体は運ばれ続けているだけだった。
「何言ってんだ、水臭いだろ」
ちょっとだけ声を早口にするようにしながらもその語尾を上げようとしたけれど、その後に続いている声はだんだんと下がっていくようにしている。そのハリーの声を聞いたあと、かすれる視界の中でただただ天井を見続けて、ただただ同じ正方形のタイルがずっと張られ続けているのが見えているだけ。でも、私はそんな姿をずっと見てるようにしてた。
「杏……」
小さく声を出すようにしている間も、周囲から聞こえて来るのはハリーたちが足を動かしているのだけがずっと聞こえて来るけど、私はずっと体をそのままにしてた。
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