第63話
倉敷さんに何度も体をゆすられ続けてたのに、それに対して何も出来ない私は、ただ両方の腕を膝の下にしまいながら、そこで苦しくないために一応通っているのだろうけれども、口からも鼻からも呼吸を感じられずにいた。眼の裏では、ただただひたすらに、小さな白で縁取られた青色の円が広がるようにしているのを見ているだけ。その間、耳からも、聞こえて来るのは空調の音だけだった。
そう思った矢先に、ある瞬間で、背筋がいきなり押されて猫背になってたそこが元に戻るような気がするけど、息を繰り返している間、それに対して、記憶の中では触れられたような感覚なんか何もせずにいた。
しかし、それに対して、繰り返し口から息を何度も吐き出し続けてたのに、一度強く吐いたら、それもなくなって正面で砂が数メートル先になる壁までずっと転がり続けている様子をただただ見つめることに。でも、それに気づいた瞬間、さっき目を開けてた時には一切動いてなかった影が、体の向きを変えながら前に進んでいるのに気付いて、そっちを瞼を開けた状態で見ようとするも、しゃっくりが起こるみたいに喉が一気にきつく吸い込まれた。
でも、そっち側の動きは数秒間で止まってて、それと一緒に周囲からまた砂利が擦れる音が聞こえて来る。それから、ハリーが息を吸い込む音が聞こえて、また心臓の辺りが急に軽くなるのを感じてしまい、気づけば目を開けながら左側の腕を使って体を一気に起こすようにしていた。
「姉御……辞めてくださいよ……」
そっちでは、口元を歯を噛み締めるように動かしている世古島が顔を下に向けることでハリーの方を見ていて。見られている側は眉を落とした状態のままに私とは反対側に目線を反らそうとしていると思いきや、顔は動かさないでこっちを見て来る。さっき倉敷さんの方を見てた時はほんの数秒間だったのに、その後じっとしばらくの間見ている。
それに気づいた途端。私は口を開けて素早く足を上げて立ち上がる。でも、ハリーはただ両方の手を握りしめるようにしているだけ。こっちの動作が終わったタイミングですぐに口を動かそうとした私だけど、そっからはちゃんとした言葉は出てこなくて。それからすぐに向こうから視線をそらしそうになるけど、でも、すぐにそっちへと戻した。
「ハリー……!」
肩で息をしつつ震えながらだんだんと消えるようだけど出来るだけ鋭くした私の声に対して、ハリーは何も変化しない。それのせいで、マナやコアラがこっちに向けてわずかに足を近づけてくる音がするも、それが消えた後は、2人が視線を向けた世古島は何もしないせいで、周囲からは何も音がしなくなる。
それから、倉敷さんが私たちの方から視線を逸らすようにしてきたのに気付いた途端に、私はもう一度ハリーの方へと視線を戻す。こっちに対して90度それるように顔と体を向けて、視線を下に持っててる向こうが歯を見せているのに気付いたら、こっちは息を飲みそうになるも、その後すぐに頭を下に向けて手を顔の前に出そうとした。
「私、やる……やるから……」
歯をほんの少しだけ離すようにすることで、喉が開く音がした途端に、熱くなりそうな目元に力を入れながら、何とかそこから声を溢れ出させるようにする。しかし、ハリーはより奥歯側を大きく見せるようにしながら、自分の肘を背中より後ろに持って行きながら拳を前に持って行こうとする。さらに、そのままおでこを前へと持っていくようにしてた。
その一方で、私は自分の顔に両方の手の平を当てて、そのどちらにもできているしわを味わう。そして、それは手の方を滑らせわずか隙間を作っても変らない。それからまた目を閉じていると、またしても同じように円を見ることになった。
そう思った矢先、目の前から床を強く叩きつける音がしたのに気付いて目を開けた次の瞬間に、ジャンヌオルタのドレスの首元が一気に引っ張られて、体がエビぞりになったのに気付いたのは、息が一気に押し込まれてそこが苦しくなった瞬間だった。
「うるせぇ! そんなこと言って、また負けるんだろ! お前は!」
唾を飛ばすような勢いで、大声を発して来たハリーは、私が顎をそっちに向けるようにしてしまっているのに真正面から向かって、引っ張った手の肘を私の体に押し込んでくる。そして、そこに一切手を抜かないままに体を前後に動かしながら言葉を発し続けてた。
それに押し出されるように、私の眼の中でずっと溜まり続けてた涙が次々と溢れ出して、それに対して喉を押し込み続けることしかできない。それのせいでこっちも体が上下に動き続けるけど、ハリーのそれと比べると全然小さいまま。言葉を一旦話し終えたそっちは、目の中で天井のわずかな光で反射し続けているようだった。
「わかる! わかるよ! だってあたしらも、お前らも、あいつらエリートからすりゃ全部一緒だから!」
語尾ごとにどんどん言葉を持ち上げるようにして勢いよく発し続けるハリーを見てたら、私の心臓が今度は一気に重くなるような気がして、その途端に鼻を一度すする。それから、体の中に籠ってた空気を口から吐き出すようにした。
その後、ハリーが床へと投げ捨てるように私の体を放すと、それと共に私は足を曲げながら尻もちをつく。それと共に、こっちは視線を下に向けるしかなかった。
そのまま、私の前に自分の手を突くと、向こうは肩で息をしながら上を僅かに見るようにして何度も呼吸を繰り返している。それから、倉敷さんがいる後ろへと一瞬だけ振り返ると、それから歯を食いしばるように動かして、それと共に目も強く瞑ってしまっていた。そして、そこにたくさんのしわを限界まで作るようにしている。
しかし、その一方で私は目を瞑るようにしそうになるけど、息を吸い込んで顎を上へと押し込むようにした。
「諦めんな! お前しかいないんだよ! 東雲倒せんのは!」
最初だけ小さな声で出始めたそれだけれど、そのあとすぐに声が大きくなって、その瞬間に足を一歩前に出しているハリーの勢いで私の体も後ろに下がりそうになるけど、それに対してこっちが出来るのは息を吸い込むくらいで、それと共に目尻を持ちあげるようにしていると、それと一緒に両手をそっちへと持って行こうとするけど、その直後にまたそれを地面へと戻すと、それのせいで体がわずかに前のめりになった。
僅かに震えるようになる声が終わったタイミングで、周囲を見るけど、マナとコアラは自分の両方の手を胸元で押し込むようにして視線を逸らそうとしているし、その一方で世古島は気づけばもうドアの向こう側へ行こうとしていて、私がそれに気づいた途端に爪が引っかかってその音がしていた。
「ハリー……!」
咳き込みそうになる勢いでその声を出したのに対して、ハリーはすぐにこっちを向くようにして来る。最初は首だけをこっちへと向けて来るようにする。しかし、それに対して、私は姿勢は以前同じようにしたままに首だけを使ってわずかに上を向くようにする。しかし、そう思ってただけで、向こうの方は、顔全体が下に向いてて、髪の毛で影を作るようにしている。
しかし、その後ろにある壁が未だ灰色のその様子を見せているのもあって、こっちからだともうハリーの数歩先の背中側にはあるのに影が映っている姿すら一切見えないようになっている。そして、それらも、人工的に作られたと思われる丸い丸が出来上がっている一方で、そこにも白い粉が乗っかているだけで、そこが天井から来る僅かな光を吸い込んでいるのか、その色が陰で変化している箇所はどこにもない。
「あたしでも、そのおっさんでも……」
そんな姿を見ているだけで、私はもう一度ハリーの方へと視線を向けるしかないけど、そっちを見ると共に、視界がかすむのに気付く。それは、私が床についていた両方の手をそこに押し込むようにしても一切変化はない。それのせいで、口元を横へと広げるようにわずかに開きながら、そこから息を吐くようにしている。
それに対して、向こうは最初の言葉が切れるタイミングでは一切伸ばさないで最初だけ言葉を高くしていた一方で、それに続くのはだんだんと消えていくようにしていて。その瞬間に、私は歯を強く噛み締めて体を大きく前へと出す。
さらに、体を思い切り伸ばしながら、特に両手を前へと出して、それのせいで、私がハリーの体へとぶつかったタイミングで、向こうも少しだけ体のバランスを崩すようにしてたけど、でも、それもほんの一瞬だけ。次の瞬間にはまっすぐに体を伸ばしたままになってた。
「もう、辞めてくれよ……!」
私の喉から溢れた言葉は想像以上に高い声になったし、それが出し終わった後には、体を滑らせながら何度も咳き込むのを繰り返す。しかし、その間も顔は下へと向けている一方で、ずっとハリーの膝へと私は両方の腕を回すようにしていた。しかし、そこにはほとんど力が入らなくて、でも、その一方でそっちも足をまっすぐにずっとしたままだった。
咳が止まった後も、私は舌を出しそうになりながら何度も呼吸を繰り返していく。しかし、それに対して、ハリーの体の動きもそれと共に感じさせられて、そこを強く握りしめる。
「ふざけんじゃねぇ!」
それから、聞こえて来たハリーの声は、部屋中に響き渡りそうだったけど、それに対してもう部屋の中でそれが反響することは一度もないし、それに代わって聞こえて来るのはハリーが何度も呼吸を繰り返している音だけだった。でも、そんな様子を私は耳と足元を掴んでいるそこからの感覚だけで感じていると、顎を引くように動かすことしかできない。それに対して、ハリーもずっと同じようにしているだけだった。
それから、ハリーと私の呼吸がずっと部屋の中でこだましている間、周囲からはそれ以外の音は何もしない。しかし、ハリーの素肌におでこを当てるようにしている私は、ただただその間しか視界にはなくて、うさ耳パーカーによって覆われることで影になっている私のジャンヌオルタの衣装と、そこから伸びている膝によってハリーの靴が隠れているのが見えていた。
その様子をじっと見つめてる間に、私の喉から勝手に小刻みに何も意味になっていないただの音が出てたと思ったら、目元に力を一切入れてない状態でわずかに開いていると、呼吸が出来なくて苦しくなって、頭もだんだんと薄くなっていくのを感じている間、でも、目に力を込めて、また下の、地面の方を見ることで、砂埃まみれになっている両方の姿を見ることになった。
「ハリー…違う……違うんだよ……」
声を出そうとするたびに上ずるそれを何度も感じながら、顔を左右へと振っていたが、その間も私は目を閉じる。それでも、私の前には何も見えてくることはない。それもあって、髪の毛の音もしないために私の声が周囲からなくなったタイミングで、また次の言葉を私は続けるようにした。
「私は……魔女、ルナティック……あの頃から、ずっとそう、なんだよ……」
言葉を1つ言い終える度に何度も呼吸を吐き出すのを繰り返すも、それの後に出した言葉は、また小さくなり過ぎてしまいそうで、でも、それに合わせて大きくしていくことも出来ずに、ずっとそのままでいることにしていた。
読了ありがとうございます。




