第59話
「こういうのも案外いいもんだね! どう? 姉御も楽しいっしょ!」
その語尾を度々上げるようにして話す声を発すると共に顔を持ち上げるようにしているそっちは、首を見せながら何度も口から呼吸を繰り返していた。しかし、その一方で、世古島は口から咳き込むようにして体を小さくすることしか出来ずにいた。
そして、上空から少しずつ下がって来ているものの、鞭の勢いは一切衰える様子もないために周囲の砂煙は未だ開かれたままでいる。しかし、そんな中で世古島は頭の前で組み合わせていた腕が何度も北川の猛攻に晒されていたがために、ついには体を背中から飛ばされるようになってしまう上、それを追う様に更なる鞭の攻撃が迫り、今度は鉄の武器で覆われていない箇所にもそれがぶつかるせいで身体のいたるところから次から次へと血が噴き出して、その水滴が何度も床の上に落っことし続けていた。
そして、それのせいで足の裏で着地出来ずに尻から激突。その姿へとがれきの隙間からハリーが小走りで姉御の事を呼びながらやって来ていた。
その一方で、当の本人は口で激しく咳を数回繰り返しながら片方の足を延ばす一方でもう片方は曲げて肘を乗っけたままにしていたけれど、その次にはすぐに体を起こし、真横にいたハリーと共に、少し離れたところにあるわずかな砂しか残っていない床の上へと転がり込んでいた。
そして、元々2人がいた場所にはまた北川の鞭が薙ぎ払いを披露していて、地上へとやって来ていた持ち主がわずかに顎を持ち上げるような表情のままに鼻から息を吐く。それと共に目を皿のようにしたままにゆっくりと歩く。
「姉御、すんません……」
自分の両方の肩を抱きかかえるような形で床を滑った姉御の方を見ようとするハリーだが、それよりも早く向こうがすぐに立ち上がって敵の方に片方の肩と顔を向けるようにしているのに気付いてから自分もすぐに元居た場所に戻ろうと両方の手を使って四つん這いになるようにしてから立ち上がる。それから、わずかに前のめりになって歩いて行こうとしていた。
その時、自分の方を一切見ていない姉御の方から声が聞こえて、その足を止めてからそっちに体をまっすぐに立ったまま振り返ってた。でも、そっちにいる世古島の体から噴き出ている血の細い線たちを眺めていると息を飲み込むようになってしまっている。その上、背中側へと数歩下がってしまいながら、背中をさっき隠れ蓑に使ってたがれきに擦り付けるようになっていた。
それに対し、世古島はわずかな呼吸を繰り返しているだけで、それ以外には一切動こうとしない。
「……悪いハリー、さっきのは訂正だ」
抑揚がかなり少なくなっているその声を聞くと共に、また再び体に取り付けられているグローブやブーツがまた動き出しながら青い光を伴い始める。そして、それを見た途端、ハリーはすぐにまた同じがれきの中へと自身の体を戻すようにしていた。しかし、それに対して敵は、いまだもう片方の手を当てた肩を回すようにしながらそこに自身の鞭の持ち手を重ねるようにしながら歩く。そして、それを逆側でも同じようにしていた。
しかし、それも、数秒間で終わりを迎えたと思いきや、またさっきと同じように無数の鞭が世古島へと向けて発射され始め、それに対して本人はわずかに足を曲げてから、そのうちの片方を強く押し込むように。さらに、そこから握りしめた両手を振り、それで前のめりに進みだしたのである。
「姉御!」
その大きな声をハリーとコアラが出した次の瞬間には、もうがれきに次から次へと鞭の攻撃による衝撃と砂煙によって、2人とも屈むような姿勢になってしまう上に、そこから動けずにいた。
それに対して世古島は鋭い視線のまま低い姿勢にして最初にやってきた鞭をかわすと、バックパックのブーツへと繋がっている管が取り付けられている箇所が輝きと共に回転し、その音と同タイミングでかかとの辺りに動きを追うような青白い光がともると、よりスピードが上がったと思いきや、次の瞬間には飛び上がって2回目の鞭を回避して北川の骸骨が付いていない側から頭に回し蹴りを披露し、その直後に今度のけ反っている敵に着地と同時に腰を落とした拳を腹に押し付けた。
それに対して、受けた側はみぞおちに当てられたのもあり、呼吸できずに何度も苦しそうにそれを無理矢理通そうとしながら、そこを両方の手で押さえながら後退。ただ、その直後にそれを追うようにした世古島はグローブを付けたままになっている手を握りしめながらそっちへと早歩きで近づき、それを北川が見た瞬間にはもう頬へと叩き込み、その勢いで横の床へと頭を先頭にして滑り込まされていた。
「これで、勝ったつもりかよ」
その言葉と共に、また体を起こそうとする北川だが、その瞬間に、世古島は口を閉じて下のを上に押し付けるようにしながら、鼻も上へと持ち上げて、それと一緒に、目で周囲のわずかな光を反射させるように眉毛を平たくさせるようにしていた。そして、それ以外の体が一切動いていないその姿を見ていた側は、また歯を食いしばりながら大きな声を出してしまう。
「戦えよ!」
その声が周囲に響き渡ると共に、壁を反響しているような音がするも、その間も世古島は一切動こうとはしない。それどころか、ずっと同じ表情でその様子を眺めていた。その顔と自分の目を合わせるようにしている北川は、倒れた姿勢のまま、顔だけを持ち上げて両方の腕を地面につけたままにしている以外に何も出来ない。
それに対して、しばらくその光景を見ていた姉御は息を吐きながら体を持ち上げてゆっくりと息を吐く。その後に両方の膝に手を当てて立ち上がると、そのまま立ち上がって北川の体の横を通ってそれに背中を向けて歩き出していた。
「悪いな」
顔の向きを変えずに吐き捨てるようなわずかな声を出した物の、その場でまっすぐにコアラたちの方へと進もうとするその向きを一切変えようとはしなかった。しかし、北川はそんな光景に大きな声を出しながら口を大きく横に広げて歯を強く噛み締める。そして、両方の手を床へと何度もたたきつけ続けてた。
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