第52話
東雲、世古島、私とハリー、北川とマナとコアラ、そして倉敷さんの順番で進んで行く間、誰も言葉を発さずにいるせいか、ただただ通路や余興をやっていた場所では靴が地面を叩き続ける音だけが周囲を支配し、それぞれみな違うタイミングでいたので、それが聞こえないタイミングはない。そして、その間私は真っ直ぐ進行方向を向いたままにしていると、少しだけハリーが足を進めるペースを早めるようにしていたと思ってそっちを向いたと思っていたら、すぐにそのペースを落とすようにしている。
それでも、もうすぐに以前杏と戦ったリングがある部屋にまで到着すると、そこに出来上がっている戦いの残骸であるがれきの割れた姿がそのままになっていた。そして、下を見る形で眺めると、ただ顔の傾きが変わるようになってしまって。その間、喉を1回だけ飲み込むように動かしつつ、両方の手を握りしめて。わずかに歩こうとするも、それでハリーと重なりそうになって止まる。
その後、ずっとそっちの方を見たままにいようとするも、私たちのすぐ後ろまで世古島やマナやコアラが来ていた。後者2人が姉御の背中へとくっつくようにして下の唇を上に押すようにしているのに対して、世古島は肘をほとんど曲げないようにして鼠径部の横の所に手の平を重ねる。そして、表情も顔にわずかに下側の傾きを付けているだけだった。
そんな光景を私が見ていたら、体を3人の方へと向けながら目線だけを横へと向けるようにすると共に、口を数回開けたり戻したりを繰り返して。それから、そこからわずかな声を出そうとするけど、それと一緒に頭を前に出そうとしたら体を髪の毛が擦れたせいでそれを辞めることにした。
「なんか、ごめん……」
一旦最初に出した声は芯をしっかりと通すようにしたけど、それに対して、後半側は息と一緒に吐いていくことでだんだんと消していくようにしてしまった。しかし、それに対して世古島は両方の肩に手を重ねて来ると、その瞬間にぶつかった音がしたと思いきや、私の目線のほんの少しだけ上の辺りまで足を曲げて来た。
「しっかりしろ」
一瞬で言い終わるようなその声を聞いた途端、私は背筋もまっすぐに戻すようにして。それから世古島は目を普段と同じような形にしていて、さらに服の袖が乗っかった状態でこっちへと向けている両方の腕が筋肉を形作っているようであった。でも、私がリングへと飛び込むための通路の切れ目から見て前にいる位置関係をずらしてくることはない。
そして、それは世古島が近づいてきたことで私の方から距離を取ろうとしていたハリーもそうだし、その先にいるマナたちも一緒だった。それのせいか、私は視線をリングの方へと戻す。それから、背筋をそのままにしたまま腕で体を締め付けるようにしつつ、顔を下に向けたままただただまっすぐにそっちを見つめ続けた。しかし、私たち以外に今は誰も会場にいないせいか、その中で動くものは何もない。
「私らのは、生半可なところでやっていけるもんじゃねぇ」
その声を聞いて、もう一度、一瞬だけ振り返る。視線が合うタイミングで世古島が1回うなずくようにして来るのと、その奥でハリーが歯を見せて口を横に広げてるし、マナとコアラも目を細めて笑みを作るようにしていた。そして、北川はそのさらに後ろで倉敷さんと何かを話しているのに対して、東雲は私たちを通り過ぎて、また通路の脇に備えられているアームが付いたゴンドラの上へと乗って、こっちを見ながらそれが遠ざかっていく。
私はその姿を目で追っていくのをそうそうに辞めて、また視線をまっすぐに戻す。それから、上唇を下のに押し付けるようにしながら、周囲の暗がりの中で目立っているリングをもう一度視線で追う。そして、その2つはこっちが上から見ているせいか、混じり合うかのようにすらも見えて、そのせいで顎が引き締まるように動いたけれど、腕をそのままの位置にしつつパーカーの裾を手で握りしめて、それの力を抜いてから歯を噛み締めて走り出す。でも、その直後に、口からは息を吐き始めるのを感じて。すぐに力が抜けた。
そのあと、リングの下から低い音共に床が開いてまたそれで出来た穴の中からだんだんと杏もいる機械がせりあがって来るの地響きの揺れで感じる。でも、膝を強く踏みしめることで、一度しゃがんでから体を空中に飛ばし、その後膝を曲げた状態で両方の手も肩の少し下の辺りで前腕と一緒にそれと平行にする。それから、腕全体をまっすぐに頭の上へと伸ばすことで、そのままリングの中へと落っこちると、私の体が床へと落っこちて周囲に砂煙を起こしているタイミングで金属が大きくぶつかる高い音が上でしたのを聞く。そして、一旦砂煙の中で何度か呼吸を繰り返すことで、その中の冷たい空気を自分の体の中に取り入れつつ、瞼を軽くするように目を細くした。
その後、両方の手を下に向けて軽くだけど握りながら足だけを使って一度肩膝立ちにしてから立ち上がると、そのまま肩で息を繰り返すようにする。しかし、そっち側に出来ている黒い影を見た途端、心臓が締めつめられるような感覚がして、体を伸ばすように。でも、目に力を込めて閉じないように細めつつ。その中の脈拍が動くのを感じ取り、両方の手に力を込めて。そこが熱くなりながら私の方に少しだけど痛みを訴えかけて来るのを感じる。
それから、上を見ると、体を出すようにしてハリーやマナとコアラ、そして世古島がこっちを見て来ていた。そして、少し離れたところでも、北川が私の方を見てきて、そのうちの前者3人が手すりを持ちながら顎を引くような表情をしていた。
そっちから視線を戻し、何度か呼吸を繰り返す。しかし、それに対して、向こうに出来上がっている影は動かないまま。心拍数で時間を数えようにも、それに対してあたりの煙が動いていくペースがあまりにも遅くて。その後すぐにやめる。それから、私がじっと見ている間に、辺りがだんだん明るくなってきて。ついにその時がやってきた。
「杏……杏!」
1回声に出したけど、それは周囲でわずかにしている音に消えてしまいそうで。その直後に喉を動かすようにするけれど、それも周囲の音に消えてしまいそうであった。しかしそれに気づいた途端に、息を吸い込むようにして口を1回だけ閉じてから、もう一度呼吸を吸い込みなおす。そして、もう1回杏の名前を呼んだ。それに対して、向こうにいる杏は何もしないで。ただただ機械で出来上がった片方の腕で光を反射しているのをこっちに見せつけているだけ。それに、髪の毛も依然と同じように坊主のままでいて、それのせいもあって一切動くことなくただただこっちの方をじっと見つめているだけであった。
それに対して、私は声を出した後に肩で息をする様にしながら目を大きく開いて、それに合わせて力を入れずに口を戻す。それから、パーカーに出来ているしわを戻すために、もう1回引っ張っておく。ただ、それでも、向こうは砂煙がほぼほぼ全部取れた後も、一切動かない。
「杏……」
僅かに口を開けた状態で出た声。しかし、それに対して、向こうはただただまっすぐに、床と垂直になるように立っているだけ。私はそれに対してシューズを平行に並べるようにしたまま、それを肩幅くらいに広げて、フードも降ろしてあるパーカーが引っかかっている肩ごと喉を飲み込むように動かして。その後もう一度杏へと視線を戻した。
それからも、呼吸に合わせるように喉を動かし続けてることになるけど、でも、杏はその間も一切動かなくて。目線を合わせるけど、その大きく開かれた動向に光はない。天井に取り付けられている無数のライトに照らされているこの場所の中で、唯一暗いのがそこだった。でも、そこに私の姿が反転して映り込むようになっているせいか、それに対して、心臓が締め付けられるようになる。
「杏……私は……」
目線を左右へと少しだけ動かしたけど、そこに転がっているわずかな砂の姿だけを数回眺めるようにしてから、もう一度視線を杏へと戻した。
「私は、やっと、戻ってこれた……でも、それは……」
部屋全体というよりも、杏だけに投げかけるように出した声。それを最初に強く出したせいか、少しだけのどの痛みを感じて。その瞬間に少しだけ苦しくなるけど、でも、その続きになるように出した声は、抑揚を頑張ってつけるだけにして音は控えめに。その後、周囲からは音が聞こえなくなって。それに気づいてからいつのも話声くらいの物に戻す。
それから自分の胸の辺りに片手を当てるようにしながらもう片方のお腹よりも少し上の辺りに添える。それから、視線もそっちへと変えたが、それでも、誰も話していない間、周囲からは何も音がしなかった。
「ハリーや世古島、マナとコアラ……北川がいたおかげなんだ」
1人1人の名前を呼んでいく間、私は両方の肩を落としながら、そこを握りしめて、でも口と目をしっかりと開けるようにしている。そして、北川の名前まで言い終わったところで、一度だけ口を止めるけど、それもほんの数秒だけにして、呼吸を一度吸い込み終えてそれを吐くよりも先に口を動かし始めた。
「いや、それだけじゃない。私のスマホを届けてくれたメアリー、ずっと一緒にバカなことしてくれてたクラリッサ、セレニア……」
私が声を動かしている間、辺りからは何も音がしなくて、それを気にしながらも、腕を落っことしたままの話し方を辞めずにまっすぐ杏の方を見つめ続ける。そして、言葉を発していく間にだんだん顔に力がこもり続けて、それのせいで、頬が上に戻って来るのを感じるけど、でも、そこに力を込めて元に戻そうとする。でも、一回だけそうした一方で、すぐにそれを元に戻した。
それが落ち着いた後、体全体から力を抜くようにしてから体を足の位置を整えて正面を向く。その間、少しだけ息を吸って言葉を止めているけど、その時も周囲の冷たい空気を感じ取って。それのせいでしばらくの間動きが止まりそうになるけど、でも、それに対して何もしないで時間が過ぎるのを待ってから声を出した。
「そして、杏、杏がいたから、やっと私はここに立てた。だから」
「帰ろう」
読了ありがとうございます




