第5話
別の文章を更新していたので、久しぶりの更新になります
突如覚醒した魔法少女である流那と戦う羽目になった男たちは、部屋の外の階段を降りた後、すぐに同じ建物にある別の階段を我先にと登り始める。その足音を見分けるのは非常に難しく、大小高低様々な物があるくらいしかわからない。
それを登り終えた後も、ほとんどの足が奥側の壁に触れそうなほどに道取りが膨れて姿勢が低くなりながらその勢いのままに正面のドアに突撃したせいで、先頭にいた男がドアノブを捻ってから一度足を後ろの方へと戻していて、その後ろにいた連中もドミノのようになりかけていた。
彼らがその一室に全員入り終えたのを確認してから先ほどと同じ間取りとなっている廊下の奥で閉められた引き戸のガラスから溢れて来る光に全員の視線が集まるが、それが変化する様子は何一つない。しばらく誰もが喉くらいしか動かせない状態だったが、最年長の男が足を動かしたことでその後の連中も突き動かされる。
「……終わりました」
引き戸の先にあった世界は、カーテンが閉められたせいで備え付けの照明だけで明るくなっている部屋。たくさんあるモニターの向こうから降り注ぐもの以外はその白さから逃れることが出来なかった。
たくさんの画面に見られているようなデスクの前に置いてある黒い丸椅子はまだわずかに回転していて、その横で歩きながら三十近い女性に服を整えさせている中学生の少女は、倍以上も年が離れた男の小さな声を聞いても全く足を動かす速度を変えない。
だが、隊長である男の方はゼロであった状態からほんの少しだけ足を動かす速度を付けさせられる。しかし、その動きに対して彼の体に起こったことはあまりに甚大であった。
「ぼさっとするな。とっとと学校に連絡を入れろであります」
「ですが、その男は……」
「そいつの体はお前の時間よりも価値があるとでも」
臓器と血をプロペラで飛ばしている小型のドローンと彼女の間で傘を広げているスーツ姿の女性だけが、横で絶叫を繰り返している男やその部下たちの方を見ていて、そのせいでドローンの姿がなくなったことに気づけなかったようだ。
そのせいもあって、モニターから聞こえて来る大きな高笑いは誰の耳にも入らなくなっていた。
息が苦しくなってきたころ両手を膝の上に置きながら何度も深呼吸を繰り返す。最後に一回大きく吐いてから周囲の様子を確認しようとしたが、髪の毛の上を滑ったフードが邪魔だったから手で払わされて、もう一度目線を前へ向けると床にヒビが入っていたり家具の残骸が転がっていたりで私が目を覚ました時とは打って変わった姿に足を下げざる負えなくなった。その動きに気づいた瞬間、滑った音がした方に目が吸い込まれるとそこには硬くなった紙だったものや、大きな布がビリビリになったゴミが転がっているが、周囲が暗く影になっているためにどんな色をしているかまではわからなかった。
すぐ周囲に目を戻すと冷蔵庫や換気扇やエアコンなど、前は動いていた周囲にある家電も動きを止めていて、首を元の角度に戻す。
そんな中、視界の隅にある青色の夜の灯りが届いている辺りで他とは異彩を放っている場所があって、そこではドロドロとした液が山の頂点の辺りから出ているにも関わらず、もう床が見えているところくらいにまで垂れだしている。その真っ赤な物に一度私の手が触れると、擦れば擦るほどにそのドロドロした物が付いている部分が増えて既にあった部分も薄まる様子がない。それどころか、力を込めれば込めるほどに中に何かがあるかのように指を回転していく。そして左右同士がぶつかり合うとその重さで先の尖った水滴が床に向かって落っこちた。
「る……な……?」
「杏っ!」
声がした方へ振り向くが、そこにいたのはさっきと同じ丸みの一切ないゴミ山。それの隅に足が当たるが、動くどころか音すらしなかった。それに気づいてから駆け上がろうとするが、靴下だけで部屋に入ったせいで角にぶつかった足の裏を体が一瞬にして持ち上げて、状況が状況な上に一本の足ではバランスが取れなく、すぐに体のバランスを崩して転んだ。
尻が床に激突してすぐ立ち上がろうとすると、足を踏み込もうとすると同時にぱっくりと開いた足の傷が何度も存在を主張し続けてきて、そこを押さえざるを負えない。
しゃがんだ状態で前を見ると、私の頭よりも高く積みあがった瓦礫たち。それだけでなく横の方にも広がっているし、それよりなによりその頂点よりもさらにその先の天井には赤黒く焼け焦げた跡がった。
「杏! 杏!」
手と足を使うようにして体を滑らせながら瓦礫の山に近づいて行くが、その目前にたどり着く寸前で膝がその先端と触れ合う。その尖りながらも側面は無造作に切り取られてるせいで手を使って押し引きしようにもその凹凸に指の肉がめり込んで骨にまで痛みを訴えてきた。だが、それから手を放して腕の上を滑らせたり体の上を前腕で触ってもただ擦れたくすぐったい感覚があるだけ。私の両腕は冷えた硬い物になっていて逆の手で簡単につかむことが出来た。
だが、そこに力を込めようとした瞬間。私の後ろの方から音が質量を持って突撃してきて、すべての指を床に押し付けようと思ったしそれに成功したけど、何の意味もなく空中へと投げ出されていく。自分の体は空中で周りに何も感じることはなかった。
窓にぶつかると体の脂肪がそこに張り付いたような気がしたが、それはただの勘違いでくっついたのは棘となって突き刺さったガラス。そこから体と一緒に血が外に飛び出して飛んでいった。まるで体の中の体温が一気にそれの冷たさに持って行かれるような感覚。反対の手で腕を抑えようとするとそこからも血が溢れてきて、どんどん体温を奪われた。両手と尻を使って逃げようとしたが、すぐに硬く広がっていたベランダの壁が立ちふさがってきた。
「奴を捉えておけであります」
その声が聞こえた瞬間に一気に吸い込んだ息の音が聞こえてきて手でそこを抑えるけど、部屋から聞こえて来る足音は止まらない。頬でその手の震えと濡れた姿を確認すると同時に、引っ張ろうとしたら変な方向に行ってしまい肩よりも上まで飛んで行っていた。それに気づいた時、もう片方の手でそれを掴んで地面に叩きつけようとしたが、その手の平が赤く染まっているのが視界に入ったせいで硬かった右手も地面の方へ落っこちて行った。
敵が目の前に迫ってきたが、体が動いた後ろの方には相も変わらず硬く広がっていたベランダの壁が立ちふさがってきた。
連中に付けられた手首の肉に食い込むような手錠とそれと同じくらいごつい手。それが私の片腕を掴むとそのままの勢いに体を持ち上げられて体が空中へと飛ばされる。そのままの姿勢のまま床に落ちたら、背中を前に押し出されたせいで体が前の方によろけた。
「東雲さん。外から苦情が来ています」
「あなたの銃は自殺用でありますか? それとも、こいつらがいいでありますか?」
運ばれてた私の体が部屋の中に戻って、つま先立ちで歩かされながら靴下の上からでも床に散らかってるガラスが痛みを訴えてくるのを感じていると、あの人の声が聞こえて来た。そして、その姿は周囲にいた女性が持っていた懐中電灯に照らされていたが天井が壊れていたためにそこから降っている赤いネオン管の光がより増さっている。そのせいで形は一緒のように見えるが、先ほど入口で見た時と色まで一緒かはわからなくなっていた。と思ったが、それは単なる勘違いで彼女の後ろに無数の魔法陣が出てきた瞬間、それは間違いなく同じ人だと目を瞑っても知らしめさせられた。一つ出て来たと思ったらまた一つ、それからさらにもう一つと次から次へとそれが増え、それは縦長のこの部屋の一片を支配するかの程の数だった。だが、それの数を数えられたのも短い間。円陣から出て来た無数の四角いドローンが次々と放ち始めるおびただしい数の爆音とそれが放つ黄色い光が私の方にも迫って来てて、腕で耳と目を防ごうとしたがそれが出来ずに体を縮こめる。その中で私への攻撃が来るたびに体が大きく跳ね上がるように反応し、腕も手錠の内周に何度もぶつけていた。
周囲が砂煙に包まれてわずかに見える周囲の大人たちも体を小さくしたり顔を両腕で守ったりしているのがわかったころ、音だけでも消えてくれたのもあって肩をわざと激しく上下させて一回止まりかけてた呼吸を手助けさせる。でも、目の方は開こうとしても余計に時間がかかった。ようやく視界が保たれたと思ったが、それは私の勘違いだった。と思ったがそれこそが勘違いで、今私の目の前に広がっている部屋にあった瓦礫も残ってた家具もすべてが、非常に細かい粉になった世界こそが現実なんだと連中に背中を押されることで気付かされる。その後、前へと進もうと視線を下から正面に戻す瞬間にドローンとぶつかりそうになって姿勢を低くした。
「そいつを外に出すなであります!」
私の真上にいるドローンからさっきも聞いた爆音が声と共に出たと思ったら、それよりも大きな大声が私の後ろの方から聞こえてきて視線は円を描くように回転する羽目になり、そうなると自分でも思ってはいたが、実際は半円にもなる前に体の動きが止まってしまった。目の前で起きてる力なく倒れていく姿に押し込まれるみたいな形で私の体が後ろに向かって下がっていくと、私よりも窓側にいたせいでそっちから来る明かりに照らされてて、その色すらもこっちに来るまでわからなかった返り血が冷たく突き刺さってくる。
周囲の視界が戻ってくるまでどれだけ時間が経ったのかわからないが、そことピントが合った瞬間、初めに映ったのは無数のドローンの大群だった。そいつらの動きに押されるように尻餅をついて後ろに下がったが、そうするとすぐに頭の上を目の前のと似た影が私の視界を暗くする。
やつらが浮遊する音だけで周囲が支配されていると思った瞬間、激しい咳が何度も繰り返される音が私の耳の中に突っ込まれてすぐに首を回転させてくる。ドローンが作り上げた塵の山を何度も等間隔で吹き上げ続けたと思いきや、すぐに止まってその後盛大に大きく中央から空気を吐き出すと、その直後に出て来る一本の右手。さらにそれは砂の坂を何度も触って跡を作り続けていた。何度も砂同士が擦れ合う音を聞きながら、そっちと私の左足にぶつかってくる冷たい血がだんだん広がっていく姿を交互に見ていたが、だんだん光をほとんど受けない白い山の方に固まっていく。
肩の方から曲がっていった腕のほとんどが外へと露出し始めた頃、私の足も一歩前へと動いたが、すぐにお互いに反対側の壁へと叩きつけられて、隣の儀式をしてた部屋の壁にまで飛ばされてから手錠の痛みが腕だけじゃなくて腹にも襲い掛かった。それは例のドローンのうちから三体がこっちに向かってて、衝撃波の様な物をずっと発していたから体が壁に押し込められていたせいだった。
「お前たちはそいつでも見張っていろであります。あいつは私の獲物。指一本でも触れたら命はないと思え」
敵の末端たちから何度も発せられる音のせいで擦れながら聞こえて来る声に、腕と足を壁に押し込むようにするが僅かに動いたのは首だけで、それも体力の限界で頭ごとより硬い場所にぶつけられる。
「あっ、杏!」
向こうの壁に空いた穴に向けて大声で叫ぶが、そこへ続く道にはドローンがいっぱいいる上に、さらにリビングの方に伸ばした直線の先には例の敵たちのリーダーもいた。指の爪を立てるように関節を曲げてそれを動かないなりに後ろや下へと色んな方向に力を込めて、それから勢いよく両腕を広げようとするがチェーンの音すらしない。向こうの方にいるドローンたちが次々と向きを一個ずつ変えている姿、そしてそれを進めながらもハッチを開いてその中の武器が取り出されているにも関わらず、こっちの体は握りこぶしを強く作ろうとすると、それに連動するように目の前のやつらの妨害も激しくなって全く進展しなかった。
崩れ落ちそうになるような形で体から芯がなくなって、伏せがちな視線で周囲を見つめるが、儀式に使ってた道具を勝手に閉まってた押し入れも障子が破壊されてるし、見えるのは敵たちの影になってこっちには届いてない月明かりくらい。
上の方からサーチライトのようなレーザーポイントで床に座り込むこっちを照らしてくるドローンたち。機械特有の高い音と一緒に見下ろす様子と目が合うと、その音はより大きくなって、体を縮めるようにしながら背中のフードに手を合わせて顔がその陰の中に入り込もうとした瞬間、床に落っこちていたエアコンに向かって崩れかけてる天井が砂のようになって落っこちて来た音がした。そしてそれはカバーの上を綺麗に流れていた水と混じり合っていて、それに気づいた瞬間に私の髪の毛から垂れていた汗が私の立った鳥肌の上に落っこちた。そして、そこを壊れたカーテンによって出来た窓の隙から外の壊れかけてる街灯が白い光を付けようと努力を続けている。そっちの方から自分の体へと視線を戻そうとしていくと、私の腕に熱くなった息が当たって、その瞬間に私のそれと敵の赤いレーザーが交差した。
指と膝を擦り合わせようとしたその瞬間、体育座りだったはずの足同士が勢いよくぶつかり合ったせいで低めの音がして、足の裏が擦れた場所はコンクリートの砂が残りながらも畳の姿が現れる。そして、それを見ると同時に冷たい粉たちの中に熱く燃え滾る痛みを感じ取った。
こちらが立ち上がると想像通り、ドローンたちが赤いサイレンを鳴らしながらこっちの方に一斉にパラボラを向けてきてそこに赤色のエネルギーを充填し始める。それを見て、目を見開きそうになるが、逆に顔に思い切り力を込めて瞑った。耳でも確認できるほどの息。それに合わせて動かすことで両腕を中途半端に曲げて冷たい空気を塊のようにイメージして掴む。もちろんその動きと同じように首も、中の空気を押し出すように動かすと、だんだん体温が上がってきて。数回それを繰り返したところで、全力で握りこぶしを作って曲げたままの腕を一気に振り上げると、周囲にいるドローンたちが一斉に放ってくるビームの音と私の体がら放たれた電撃が大きな音を立てる。
慌てて周囲の様子を確認しようと思ったのは、両手を膝に付きながら息を切らしていた時。重力に従って私の前にいた髪の毛とその奥にいる汗が光ってるおでこに向かって片手を動かしてふき取ってから前を見ると、敵が赤い小さな火花を散らして地面に落っこち続けていたと思ったら、すぐに円陣が現れて光の粒子となる。それを見て、私の腕も力なく地球の重力に従った。
崩れた天井から落ちて来た屑以外に何もない部屋の中。足を動かそうとするとドローンが邪魔をしてくる。だが、もう一度目を凝らしながら粉たちの隙間を見つめて、すぐ壁に空いた穴へ向かって全力疾走し、膝をぶつけて転がりながらも隣の部屋にたどり着いた。
「中々やるでありますね」
「お前を殺しに来たんだぞ」
足元からすぐに滑るようにして離れながら立ち上がる私を見下ろしているあいつ。完全に立ち上がってこっちが睨みつけると少し後に首を動かしながら瞼を一回閉じてこっちに向き直る。少しふくらみを作るようにした手の指に力を入れると、その黒に近い赤色の光がほとばしって敵の白一色の肌や白や黒や青で出来た布っぽく見える服にも映っては消えてを繰り返していた。
私が体を一歩前に出して首を突き出すようにすると、敵は鼻で吐く勢いと同調するように音を鋭く飛ばして笑った。
「どうやら元気そうでありますね。きっとこいつも喜んでいると思いますよ」
右の手をひらりと音がするように動かした次の瞬間、山の上でそれと同じ色に染まった腹を突きあげるようにしながらも四肢をすべて外へと投げ出していた杏がいた。腕たちと同じくしている頭に付いた目が首と平行に動くが、勢いは明らかに目の方が速かったし、それは赤く光っていた白目の部分だけの話だった。私の足が音を鳴らしたせいで、そこに顔が映り込んだ瞬間、山が崩れて杏砂と全く同じようにこっちの方まで滑り落ちて来る。それだけではなく、たくさんの砂までもやって来て彼女の体の上にもかかり続けていた。
その体の傍に着くと同時に砂を払おうとしたがその肌どころか砂の頂点に触れようとした瞬間、気付けば手は反射的に風を切るような音と共に持ち上がってて、それに引かれるみたいに視線も動かすと、そこにいたのはその指の間で何度も垂れてる赤い期待。それを見てから親指が他の指の上になるように強く握りこぶしを作ってから地面に叩きつける。その音の後に聞こえて来たのは、ただ私の体の中からだけから出て来る息の音だけだった。
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