第39話
肩が重くて体が動かなくて、私へ斜めにかかったブランケットのしわを感じながら、両手を枕代わりにしている間に瞼を下ろすも、ハリーのベッドがある方へと目線を向けたままにしておく。でも、その上にはマットレスに乗っかって私のと同じのがかかっているけど、それ以外の場所は一切動くことがなくてその先端の一部を重力に従わせて落っことしているだけだった。相変わらず私たちの部屋には照明がなくて、窓から入って来る外側の廊下の灯りだけが2つのベッドの間の床を照らしているだけ。その斜めになっている個所はわずかに白色になっているけど、床やベッドも含めて影やコンクリートの色と混じり合っていた。
そうしている間も、お腹も背中もわずかな痛みをずっと心臓の動きに合わせて私自身に訴えかけて来るみたいで。たまに痛くなった時すらもあるけど、それとは全く違うタイミングで私は自分の体へと寄せるような形で自分の顔を体へと近づける。しかし、自分の意識が戻った時にはもう私の首から出て来る僅かな高い音以外に辺りから聞こえてくるものは何もない。
外からも未だ音は何も聞こえてこなくてそれはハリーのベッドがある方、広場がある方も一緒。そう思ったけど、その直後に足音が聞こえてきて、体を起こして上半身だけでもベッドから離した。でも、それは私の目の裏側に見えてた幻想で、まだ体はそのまま。それから起こそうとしたけど、でも、そう思った瞬間には私の部屋のドアノブが回る音がして、口の中を吸い込んで頬に靨を作るようにしつつ、肘をベッドに立てて起こす。
「よ。ごめんね、ハリーじゃなくて」
挨拶を大きく声でしながら顔の横に手の平を出すようにしている姉御の仲間の1人。それに続くように、すらすらとほとんど止まらずに話す言葉を進めながら、もう片方の手と同じように片方の手をチノパンのポケットの中にしまい込む。その後、私の頭にギリギリぶつからないくらいの位置で座り込むその人のお尻と背中の付け根くらいが私のすぐそばにまでやって来て、こっちの視界はかなり見えにくくなってしまう。それに対して、そっちの人はずっとそのままでいるせいで、こっちは体を隅にやるように動かすしかなかった。
「あっ……」
「北川。北川加奈」
ポケットに手を入れたまま、北川は語尾をほんの少しだけ伸ばすようにしながら体を一気に倒すと、その上半身だけベッドの上へと置くようにして寝転がる。でも、それから息をゆっくりと吐くと、数秒間天井を見つめてから目を閉じるようにしてた。それから、顎をそっちへと近づけるように、首の角度を変えて、鋭くした口から息を吐いていた。
それに対して、私は横向きに寝たまま視線をそっちから反らすように背筋を猫背にして、膝を自分の体へと近づけてる方へと視線を向ける。そして、向こうはただ両手をポケットから伸ばして自分の肩よりは少しだけ上へと向けるように左右に放り投げるようにして、首を曲げながら背筋を伸ばしていた。ただ、それから、下の瞼を下げるようにして目を瞑っている。そんな姿を、私は首を曲げてみてたけど、それからすぐに自分の手や体がある方へと視線を向ける。
「あの……」
「別に用があるってわけじゃないけど」
一定のトーンで抑揚もあんまり付けずに話していくの方からはマットレスも何も擦れる音はしなくて、それどころか、声が止まると周囲から何も聞こえなくなる。それのせいで、外からする照明が付いてるせいで聞こえる音だけが流れてる。
視線の向こう側にある手の先にある肘は自分の太ももに向かって限界まで鋭く曲がったままになっていて、それが足に付くかつかないかのギリギリの位置にいて左右の腕が重ならないまま綺麗に並んでいる。そして、それよりも自分の側にある髪の毛は、不規則に巻きを作りながら左右へと広がり続けている。でも、その部分は銀色と黒い影の色が混じり合っているままにずっと一定になってしまっていた。しかし、その先端の細さは私の体がすべて包まれている。そして、それらの一部は私の血がにじんでいるパーカーにも向かったままだった。
「ってか、もう終わったって感じ。せっかく来たし、ちょっとくらいダラダラしてっていい? なんかハリーみたいに肩っ苦しいの、苦手でさ」
北川の髪の毛が擦れる音がしたことで、向こうがこっちを見て来てるのに気付いて、でも、私はそのままでいながら目を強く閉じて顔にしわを作る。それからは、向こうは何もしてこなくて音も何も感じ取れなくなった。しばらくそのままでいて、それから目を少しだけ開けるけど、自分の体以外に見えている個所は、足の向こう側にあるわずかな壁だけで、そっちにはベッドの縁以外には何もなかった。そう思ったけど、足がわずかに揺れた瞬間に、そこがつるつるして冷たい感覚とぶつかるのを感じて、それを蹴飛ばすようにすると、低くも高くもない音でベッドと壁の間を通ってベッドの下へと落っこちて地面にぶつかる音がした。
「ハリーは、こういう時に限って……」
「私に言われても困るよ」
すぐに言い終わった北川の声が聞こえなくなると、周囲からはまた灯りの音だけになる。私の視線が向いている側にあるドアの方へと意識を向けるけど、それはずっと同じままで。頭の中で聞こえたと思ったそれはただの勘違いで、ただ脳内で自分が音を鳴らしたと思い込んだだけだった。背筋が床にたたきつけられた時の感覚がするのと一緒に、そこが相当に冷たくなるのを感じて、空気の流れで撫でられるような感覚すらもあった。
それをずっとそのままにして小刻みに震わせてた時、そっちから音がして、それと一緒に、引っ張られるみたいに体が持ち上がって、上半身だけだけど両方の腕を立ててベッドから離して持ち上げる。でも、その上で曲がってる足はそのままになってた。向こうから聞こえてきた音は、ドアに何かぶつかったのだと思ったけど、それがノックだったのが分かったのは、ドアノブが回された後だった。そこがわずかに開けられた瞬間、まだ相手の姿も見えないどころか、外の暗闇と完全に混じり合っている様にすらも見えた。
でも、それも一旦止まったままになっているのはほんの数秒で。その直後にはドアが完全に近い状態で開けられて、そこに大人の女性、スーツに身を包んだ姿をしている人が入ってきた。それと一緒に高い靴の音が部屋中に響いてて、しわ一つないそれを強調するようにまっすぐに立ったままになっているその人が私と北川がいるベッドの方へと体ごと向けて来た。
「木月流那さんですね」
東雲と同じようにほとんど抑揚のないその声を聞いて、そのままそっちを首だけを向けて見つめてると、後ろからも音がして北川も両方の手をテントの骨組みみたいにして体だけを立ち上がらせているのを感じ取る。でも、その間も目の前にいる女性は全く動こうとしなくて、私たちの方を僅かに見下ろしたままでいた。
そのせいか黒色のショートヘアも頭を覆うようにしているだけで、全くそれに関しても何も起きようとしない。しかし、そこも目も服装もほぼほぼ黒一色なせいか、真赤なマニキュアが塗られた爪や真っ白なワイシャツが灰色の風景の中で相当に目立っていた。それに対して、私は喉を自分の体の内側へと押し込むようにしながら顎をそっちへと近づけるようにしたまま、歯同士に力を込めている。
「倉敷さんがあなたとお話ししたいとおっしゃられています」
透き通って聞き取りやすい声で発せられたその言葉と一緒に、体を半周させてから後ろに数歩下がることで、私とドアまでの道のりを開けるようにしていた。その動きが終わった後も、数秒間そっちを見つめ続けてた私は、それから後ろへと振り返って北川の方を見る。そっちでは、胸を上に向けて張るように両手をベッドに付いていた体勢でいたその体が、一回反動を付けるようにして持ち上がると、少しだけ声を出すようにして肩を前に出すような姿勢で立ち上がった。
わずかに猫背になっているその姿勢のままいる北川は、わずかに口元を緩めるようにしている一方で、そこが開いている訳でもなくて、目は特に一切動こうとはしない。
しかし、それを数秒間眺めていると、私の方からそっちへと向けて両手に力を籠めようとしたけど、その瞬間にやってくるまた強いお腹の痛み。杏に刺された時と同じくらいのそれがまたやってきて、そこを片手で抑えるようにすると共に、脇を強く締め付けて、口元にも同じように当てる。それから、何度も片手で息をする様にそのままのわずかな前のめりの姿勢で座り込んだままでいた。
「私は、あぁならなかった、じゃなくて、なれなかった……」
そのままの姿勢でそれを言っていくと、口から一緒に吐かれた息でだんだんそこに湿気が溜まっていくのを感じ取り、最初は冷たかったのにだんだん温かくなる。しかも、それはしばらくずっとそのままで。それは北川が床に向かって降ろしてた足を使って立ち上がってからこっちに体を向けるようにしているタイミングでもそうだった。
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