第36話
リングの中でネズミの化け物を倒した後に現れた、ただただ静止しているだけの片腕が機械になっている坊主頭の人間。目の色も相変わらず黒色の瞳孔とそれを覆う白色。そんな光景を東雲は顎を引きながらお腹の辺りで両手をもう片方の手首に合わせるようにして見つめている。しかし、その一方で、上の瞼を少しだけ降ろすようにしていて。その様子を見てたら、私は手すりに両手を置きながら、眉毛を少しだけ降ろしてリングの方を見つける。
そっちにいる姉御の人は目を大きく開きながら両手を握りしめて目の前にいる敵と見つめ合うようにしている。ある程度の距離が取られている物の、そこには何もなくて、それのせいもあって周囲からは何も音がしない。その間も、姉御の人は呼吸を体現するように体を上下に動かしている一方で、敵は相変わらずただただずっとまっすぐに立っているだけで、鼠色のタンクトップと緑色のズボンも片方のポケットがわずかに膨らんでいるだけで、それ以外はしわを作りながら重力に従っているだけだった。
そして、それがそうじゃなくなったのは、姉御の人の方から体を前のめりにするようにしながら走り出した時で、そう思った次の瞬間には、体を相手の腰のあたりまで落とした状態で手を下からアッパーで突きあげるようにした時だった。そのぶつかる瞬間まで、私はそれを目を凝らしてた見たけど、相手の方は一切動こうとしなくて、最初にこのリングが到着した時と全く同じ方向を見て立っているだけ。それに気づいた姉御の人も、眉をひそめながらジャンプしつつ距離を取って元いた位置に戻ろうとしていた。それからリングの上でグローブとブーツを滑らせている間も、相手はただただそこで立っているだけ。それに対して姉御の人は息を1回吐くようにしていた。
「こいつ……」
その頭だけ持ち上げながらもだんだん消え入るようにしている声に対して、ハリーの方を見ると、そっちでは生唾を飲む動きをしている一方で、それが終わるとただ顔に影を作るようにしながら下にあるリングを見ているだけで、体に沿わせるようにおろした右手の手首に左手を重ねている。
そっちを数秒間体を手すりに押し付けるようにしている私が下から見るようにしてから、もう一度リングの方へと視線を戻す。そっちでは、姉御の人が小さく息を繰り返し吐きながら、肩を落としていた。唇を中へと僅かに入れるようにしているようで、体を呼吸と共に動かしていけれど、相手は未だ一切動かないまま。それのせいで数秒間辺りから沈黙が続いた後、こっちから地面を叩くようにして言葉にならない声を上げてしまっていた。
「別に耐久性だけ優れている訳ではないでありません。それでは、次はその攻撃性を見せるとしましょうか」
そしてさらに、姉御の人の声がした1秒するかしないかのタイミングで、東雲がマイクを自分の側に向けながら、単語を1つ発するごとに抑揚を出すようにすることで、辺りにいる私たち以外の人の視線も集まる様だったけど、それを見た次の瞬間には私は姉御の人らがいる方へと視線を戻して。でも、その時にはもう私の口から息と一緒に声が漏れてた。
姉御の人が片方の目にしわを集めながらそこだけを瞑ってて、その上、歯も見せながら食いしばってて。そして、相手の金属でできた手首を両方の手で掴んでいる物の、その拳は自分のお腹に当たってしまってて。ほとんどまっすぐだらけで最低限だけ曲がっているそれを抑え込みながらも、その次の瞬間には、姉御の人が唾液を吐きながら思い切り咳き込んでしまっている。
その言葉を追うようにハリーたちが前のめりになってそっちに体を寄せるようにしてて、そっちを見た後にすぐまたリングの方へと戻すも、私の口と目が大きく開いてるのはほとんど変わらなくて、姉御の人もお腹を抱えたまましゃがみこんでるのが固まったまま。両腕を膝と上半身で挟んだようにして目を瞑ったままそこを震わせるようにしている。そして、敵はそれをただただ見下ろしているだけ。首より下はここに現れた時と同じようなポーズで、顔だけを姉御の人の方を見下ろしているようだった。
乱れてる髪の毛を落としているせいでほとんど見えなくなってしまっている姉御の人の顔は上下に激しく動かしてて、それを肩も合わせてしまっていた。その一方で私の正面にいる姉御の人の仲間達は、ずっと喉からわずかにこぼれてしまうかのような声を出しているだけ。そっちの方もしゃがんで上へと伸ばした手を手すりの上に乗っけたままにしている私は、そこを強く握りしめるようにしながら下の唇を何度も小刻みに動かす。
それから、姉御の人は一度咳き込みながら歯を食いしばって上半身だけを持ち上げて地面に片手を突きながら足を滑らせると全く動かない相手に対して後ろに回り込んでからもう一度しゃがみこんで、その勢いのまま一気に跳躍。それで遠くまで距離を取っていた。
それから、両腕に付いているアーマーの形を少しずつ音を立てながら自動で組み立てていき、伸ばした両方の腕に乗っけたバズーカにさせて行った。でも、それで顔が半分隠れてしまっている物の、唯一見えている目元はそこを細めるようにしていて、それに合わせておでこにしわを大きく作っていく。その一方で、額の辺りが光を反射していることから汗ばんでいるのを感じるけど、そのすぐ横に水滴を垂らしているのが見えた。
そして、それらが浴びている水色の光をどんどん増やしていき、それから私が視線を逸らすと、敵に向けてるバズーカがさらに魔力を溜めていて、それに気づいたすぐ後には空中にいたままになっているそこから、光と同じ色のビームが放たれる。
それは真っ直ぐに敵の方へと飛んで行き、数秒もしないうちにはその体へとぶつかりそうになっていた。その間、姉御の人はさっきまでと同じ表情でいるけども、目線を鋭くそっちに向けているだけで。その一方で、その仲間たちは手すりだったりもう片方の手だったり、自分が持っている方の物を強く握りしめるようにしていた。
ただ、それに対して敵はただただまっすぐに立っているだけかと思い、そのまま攻撃が直撃。それと一緒に光が空中へと霧散した。と思ったけど、それは、ただ敵が手を下げた状態から上へと払うことで、姉御の人の攻撃を空中へと吹き飛ばしただけ。向きが変わったそれは全然関係ない天井へとぶつかって、そこにクレーターを作っている上にそこから砂を落っことしているほどなのに、それに対して敵は涼しい風どころか、全く表情一つ変えずに払った腕をそのまま後ろへと戻すようにしている。それを見ていたハリーらは喉を鳴らすような言葉になっていない声を出すだけで、他に何も出来ずにいた。
肘を姉御の人の方へと向けて曲げ、手の平を後ろへと向けたままにしている敵は、そのまま一切動こうとしないと思ったけど、その次の瞬間に、重い音がそっちからしたと思いきや、私は息が喉を通らなくなるような気持ちがして。でも、その直後に敵の背中に前腕と手が落っこちているのと、その切れ目から血がどんどん流れ始めていて、その裸足のままの足元にも入り込んでいた。
それに対して、元々腕があった場所には、二の腕から銃が飛び出ていて。そこに限らず銀色の鉄で出来た骨が見えていた。それから、血が垂れ続けているのを数回見ると、その次にはそこが上下に何度も激しく動き出して、それのせいで銃が何度も繰り返し動いているのに気付いた。でも、次の瞬間には私は頭を下に向けながら耳をふさいで、限界まで両手に力を込めてしゃがみこんでしまった。
それから両目にも力を込めてふさぎ込んだけれど、でも、それでも銃の音と姉御の人が叫んでる音は一切止まらなくて、その度に何度も目から溢れて来る涙が冷たくて体が震える。そして、正面から何度も姉御の名前を呼ぶ声が何度も聞こえて来てて。私の口から出ているはずのわずかなうめき声が聞こえなくなるほど。
歯同士を重ね合わせながらいるとその衝撃が自分の体にも伝わってくる気がするけど、でも音はやっぱり聞こえてこなくて。でも、それでも一切そこに込める力は緩めようとしなかった。
「東雲! もういいだろ! このままじゃ、本当に死んじまう!」
未だ聞こえ続ける銃が発射される爆発音と姉御の人が叫び続ける声。それを突き破るようなくらいの大きさで、ハリーが体を大きく前のめりに出しながらそっちに向かって叫んでたから私もそっちを向いてから、その視線を追いかけて東雲の方を見るけど、そっちはただ真っ直ぐに前を向いているだけ。さらにその視線を追ってリングの方を見ても、何度も赤色の血と火花が姉御の人の体から吹き飛ばされ続けて、それだけで私の曲がってる両方の腕が自分の体に押し付けられるような感じになって。そのままでいるけど、顎も自分の体に近づけるように。
その間も、銃声と姉御の人の声は一切止まらずに聞こえてきて。それと一緒にハリーやその仲間が何度も東雲に向けて繰り返し叫び続けているのも聞こえて来ていた。
「魔法の武器で人は死なないであります」
一度ため息をつきながら後ろの方を強調するようにゆっくりと出した声がスピーカーを通してこっちにも聞こえてきて。それと共に一瞬だけこっちの方を見たと思った直後に、すぐに視線を元の位置へと戻してしまっていた。
顔に大きなしわを作って、それで込めた力を少しずつ開放するように。でも、それでも鼻が小さく動くのを止められなくて、その中をすすった時、その音が自分でも聞こえてきて、その瞬間に目を大きく開いて。ずっと止まらなかった涙も目の先端辺りで溜まっていくだけになる。でもそれと一緒に息を口から音もしないように出す。でも、その間も向こうからリングの音はちゃんと聞こえて来てた。
「杏……」
相変わらず歯に力を込めながら両方の手を握りしめて、そこが熱くなるのを感じながら目を閉じるけど、その瞬間に私の爪の辺りで熱く鋭い痛みを感じ取って、それのせいで溜めてた息が口から洩れるのを感じて。でも、もっと力を込めて、自分の耳の辺りにもそれと同じとばりを集めていく。
「私に、力、貸して、くれ……!」
それから頭がそれを気にするよりも早く、大きな声を出しながら目を瞑って両手を無我夢中で振る。さらに体を前のめりにして髪の毛を前にして走って行ったら、ハリーたちが道を開けようとしているのを感じたけど、でも、その直後にその体と自分のが擦れるような感覚がして。その次の瞬間には私の足が空中に投げ出されて、そのままそっちへと駆け出して、数回落っこちながら腕を回すように前へと出してたら、口を開けてしまっていた。
「ルール無用、妹はそう言ってた! いいんだよな!」
金網を突き破って落っこちた私がすぐに展開した魔法陣。それへと弾丸がぶつかり続ける高い音に負けないように喉が痛くなるような感覚を感じながらまっすぐに敵の方を見ながら大声を上げて、両方の腕を曲げた状態で押しこもうとする。でも、その間も何度も飛んでくる銃の音が私の耳に何度もぶつかり続けて。その反動が腕の中にも浸透してくるみたいだった。
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