第35話
金網から滑り落ちて、床の上に倒れ込むネズミの方へと数歩で近づいてから片腕を大きく振りかぶってそのままゲンコツを落とそうとする姉御の人に対して、相手は体勢を立て直すのに必死みたいで、よけられずにそのまま直撃させられる。その体がえぐれる音共に、さっきのとはまた違う形で甲高い声が聞こえてきて、私は肩を自分の体に押し付けるようにしながらも、その直後にそこをゆっくりと落とすようにしながらゆっくりと息を吐いた。そして、私の前にいた少女たちも、お互いに目を合わせながら口元を少しだけ開いているようで。それを見させられた私は口元を緩めるようにしていた。
それから、また化け物の鳴き声が聞こえてそっちに視線を向けると、体の中で気泡が出来上がるかのように、急に膨れ上がり始めてて、姉御の人も歯を軽く噛み締めながら肩を後ろにやるようにジャンプして距離を取っていた。そのまま両膝をしゃがむようにしつつ片手を地面について滑ると、顔を下に向けながら目線だけそっちに向けるようにする。それから口元で息をしているようで、その間に機械の中に取り付けられたファンが急回転する音が辺りに響いていた。さらに、その両手にはめたごついグローブのくぼみからもわずかな光がこぼれ始めていて、それがその顔を始めとした内側を照らしているよう。
その一方で、ねずみはどんどんと膨れ上がるのを続けていて、それに合わせてそのボコボコと低い音が何度も聞こえていて。それに対して姉御の人も歯を噛み締めるようにしている。
一方で、ちらりと東雲の方を見ると、その表情は一切変化していないようで。ただただ顎に手を当てながらそっちを見ているだけ。ネズミの体がどんどん変形していても変わりはなかった。
それに対して、私は手すりから手を離して周囲を見渡すようにするけれど、それのせいで前にいるハリーたちの背中で正面が埋め尽くされたかと思ったら、次の瞬間、それが一気に離れて視界が開けてしまった。
それからすぐに駆け足気味でそっちに近づき、体を前のめりにしてそっちを見ると、辺り一面から真っ赤に染まったネズミたちがその奥から黒い輝きを持つ目を姉御の人へと向けていて。そっちへ向けて突進を始め、元々ネズミがいた場所は血の海とまだびくびくと動いている臓器の数々だけになっていた。それらは、もちろん後ろの金網の辺りも例外ではなく、そこへと細長い物が垂れ下がり、まだ飛び出した時の勢いが残っているのかわずかに揺れる。
無数のネズミのうちの一匹が地面から姉御の人に向けて飛び上がるけど、それに対して目線だけを向けたその人は、そっち側の手でその胴体を掴むと、群れの中に一気に投げ飛ばして。でも、その時にはもうまた別のやつが足から彼女の体へと登ろうとしていた。
「こんなの、ありかよ……!」
ハリーが声を出したのに気付いて、そっちに振り返るけど、向こうは未だリングの方に視線を向けているだけだった。でも、それを見てられたのも一瞬の事で、すぐにまたネズミの高い鳴き声がしてそっちへと視線を戻す。片足だけを曲げて立ってる姉御の人を見ると、私も息を飲みそうになり、その後すぐに数匹の敵が金網にたたきつけられて大きな鳴き声を上げてしまっていた。
しかし、姉御の人がその姿勢でいられたのもほんの数秒の間で、また残した足からネズミたちがあがって来ようとしていた。しかし、それらに対して上唇を下唇に押し付けるようにしながら顔だけを下に向けた状態で目線を前に向けると、先頭にいるのが自分の太ももに差し掛かろうとした瞬間に目を開いたままにしながら一気にその周りへとしわを作り、それとともに一気に片足を持ち上げた。
その時、あまりの速さで風が切り割かれるような音がして。それに私は体を片足だけとはいえ後ろに下げそうになってしまった。でも、その次の瞬間に地面を叩く低い音がして。それに合わせて私の心臓がビクンと跳ねるような感覚がする。
数秒間自分の顔の前を肘の裏側で覆うような形でいたけど、それから少しだけ顔を出したら、リングの中に小さなクレーターが出来上がってて、そこに数体のネズミの死体、体がえぐれてそこから血が噴き出してしまっている物が打ち捨てられてしまっていた。それのせいもあってか、周囲にいるネズミたちも姉御の人方へと体を向けてはいる物の、体を低くするようにしてがる物の、そこから前へと進もうとはしない。
それに対して、姉御の人は右側を曲げた状態で肩膝立ちをしている姿から顔を前へと向けて、それから片方の肩を持ち上げるような姿勢になりながら立ち上がる。そして、おでこを上へと向けるようにしながら周囲にいるネズミたちを見下ろすようにする。
ただ、その次の瞬間、リングの中だけだが地面が揺れ出して、それに姉御の人も気づいたみたいで視線を上へと向けている。それから、唇と目線を上へと向けるようにしてから、歯を噛み締めてた。でも、その次の瞬間、床中央から斜め下に傾いて、どんどんそこに出来た穴が大きくなっていっていた。
「姉御!」
ハリーを始めとして、私たちの側にいるメンバーがその名前を次々と呼びながら体を前のめりにして顔を下に向け出す。でも、私もそっちに近づこうとしたけど、そこにいる人たちの体のせいで全く近寄れそうにない。一度さっきと同じ方から体を斜めにしてそっちを見ようとするけど、それでも上手く行かなくて、今度は逆の方から見た。
その一方で、姉御の人はどんどん斜めになっていく床の上で片手をそこに付きながらゆっくりと下に向かって行っている。そして、その次の瞬間に顔を一気に上へと向けてるけど、その頃にはもうほぼほぼ足元が垂直になりそうになってて。体も鋼鉄のグローブ以外つかなくって髪の毛と足が空中でぶらぶらしてしまっていた。高い音を立てながらだんだんと下へと落っこちて行くけど、でも、その次の瞬間には後ろに背負ったバックパック装置から炎が噴射されて、腕を大きく前に出した状態で金網を掴んでた。
今度はゆっくりと彼女の名前を呼ぶメンバーの声を聞きながら私も肩をゆっくりと降ろすようにする。それに合わせるように息を僅かに吐くと、一度横を見るようにしていた体を正面へと戻す。そっちでは東雲がまっすぐにリングの様子を眺めていて。両手もまっすぐに地面の方へと向かったままに。さらにその下ではモップを持った新しく入ってきた妹の人がいた。
そのままいようと思った矢先、私たちがいる上部の足場も含めて部屋全体が揺れるのを感じ取って、私はすぐに手すりに摑まるようにする。それから、そっちに視線を向けようとすると、当然のように正面にいる姉御の人の仲間達も次々に視線をそっちへと向けていく。しかし、それに対して姉御の人は視線だけは向けながらも、体はその場でじっとしているだけ。
大きく空いた穴の下からは陰に隠れながらうっすらとさっきのと同じ色の床が近づいてきているのが見えてけど、そう思った次の瞬間には、そこにそれだけでなく、丸く小さな円のような、より黒い物が出来ているのに気付く。それに対して私が上瞼を持ち上げるようにしていると、周囲で声を上げてたハリーらもそれらを小さくしていくようだった。
それに対し、私は顎を使って顔のパーツを上へと持ち上げるようにしながらも、それだけじゃなくて、目線をそっちから遠ざけようとしたけど、いつの間にか私たちの後ろには妹の人を投げ込んだ男が頬を横に広げるようにしながら両手を組んでこっちを見ていた。
額に汗を一滴たらしながら、私はもう一度姉御の人がいるリングの方へと振り返って。一回息を飲むと瞼で数回瞬きを繰り返す。でも、だんだんとこっちに近づいてくる床に出来ている黒い丸は少しずつ大きくなっていくだけで、それ以外には何も変化がないどころかほとんど見えないままだった。
「やっと本体のお出ましってわけか」
その声はどんどん大きくなる機械の音に消えそうになっていて、最後の方は本当にギリギリ聞こえてくるくらいだった。そして、音だけでなく、風もだんだん強くなってきて、そっちに手をやるけど、それと一緒に髪の毛とフードが飛ばされそうになる。
それに対して、姉御の人はずっと近づいてくるだけで何も形を変えようとしない黒い丸を眺めているだけで。風でスカートが持ち上がりながらも膝のあたりまで傷が出来た肌をあらわにしているだけだった。そして、東雲や新しい妹の人も同じで。ただ風に吹かれて経っている。
「本気でやれ、そいつを倒したら解放してやるであります」
その言葉が聞こえた途端。機械が止まったのか、周囲から風と音が止まる。それから、私が体を少し前のめりにするようにしながらそっちを見ると、眉を持ち上げるようにしながら、その姉御の人よりもわずかに背が低いくらいの、人が視界の中心に来るようになった。しかし、それは東雲と同じように、ただただ両手を体に沿わせるようにおろしているだけ。ただ、その片方が銀色の機械が丸出しになった左腕と、肌の色のと混じり合うような青色になってしまっている坊主頭。そしてそれ以上にその真っ黒で他に一切色が混じり合わない瞳孔に目が引かれてしまった。
それが現れて、私は顔を傾けながらそっちを見るけど、その間も含めて、周囲からはもう何も音がなくなってて。たまに私たちがいる足場で誰かが動いたのか、小さく高い音が周囲に響き渡るくらい。でも、それに対しても、敵も姉御の人も、一切動こうとはしなかった。
その静寂を崩したのは後者の方で、体を金網から落っことすようにして、わずかに砂煙を立てながらその場に立つ。でも、それから、拳をもう片方の手の平にたたきつけるようにしながら近づいていく姉御の人に対して、敵はただただ立っているだけ。それは前者がいったん足を止めて、腰を少しだけ引くようにしてからも同じだった。そんな光景を見ている私やハリーらは歯同士を押し付けるような表情をして、その様子をただ見ていることしかできなかった。
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