第34話
私がずっとそっちを見ないようにしているのに、ずっと動かない男の人。向きは一緒のまま少しだけ視線を上に向けると、姉御の人や彼女らの足元がそっちにあって、それを見ているとそっちの先に妹の人をリングへと投げ込んだ男たちのもそう。そっから先の通路が途切れていて、向こう側の壁が見ているだけになってしまっているのも見えて。また下に向ける破目になった。
でも、その瞬間に、また下の方から、またあの低い足音がして、嫌でもそっちの方を見させられると、そこではネズミがまた鼻を動かしながら上部をきょろきょろと見つめているようであった。しかも。そいつがいるリングの上部まで私たちがいる通路は続いているし、姉御の人やその仲間がいる場所の下は完全にあいつのテリトリーとなってしまっている。
ため息をつきながら顎を自分の側に近づけると、リングの外側となる下の様子が見えてきて。そっちでは新たに表れた方の妹の人がモップを動かしていて、その規則的な前後運動を見ていると、歯を下の唇に押し付けるような感じになりそうになる。でも、そのままの姿勢でいても周囲に変化が起きなくて。そっちを見ていたら目元が震えることしかなくて、両方の腕でもう片方の二の腕を掴むようにするけど、震える冷たさが止まろうとしなくて、でも、それと一緒に後ろにある金網が足音を鳴らすように音を聞こえさせてきて。前髪が擦れるのを感じながら後ろを振り向くと、まだ同じ姿勢のままその音がそこにいた。
「あなたからすれば出会ったばかりですが、私を信じて欲しい」
「さぁ、ここからが本番であります。次からは、天然で産まれた魔法使いが率いるチーム、お集まりただいた皆様、思う存分私の実験体の真価を見てください」
男の人が口を開いて文章を1つ1つ言うようにしながらその先頭を持ち上げるようにして話していくと、それを覆いかぶすように東雲のマイクに包まれた声が聞こえてきて、その瞬間に私もわずかに体を持ち上げながらそっちに振り返る。東雲は首を使ってこっちを見つめて来ていて、それと一緒に瞼を強く細めるように。それから私もその目線が向いている方を見つめると、そっちでは姉御の人やハリーたちがいて。前者以外は全員そこに視線が集中している。その一方で、当の本人は上の唇を下のに押し付けるようにしていて、両側の目の先端同士を近づけるようにしている。しかし、それと一緒に腕へ力を込めているのか、セーラー服の袖から出ているそれが角ばるようになっていた。それから、少し下に視線を向けるようにしていて。そのままそこに立ち尽くしていた。そう思ったけど、少しだけ視線の向きを変えて下にいる東雲と目線を合わせるようになっている。
それに気づいた瞬間、私はそっちに一歩近づいて。それに合わせて片手をそっちに向けるようにするけど、そのタイミングに合わせてまた向こうが顔を動かし口を一度だけ開けるけど、また元に戻していた。でも、その後息を吐くようにしていて。それを見てたら私も少しだけ口を開けるけど、それでもそこからは何も溢れてはこない。
でも、そっちの方を見てると、その後ろにいたハリーはこっちを見つめるようにしながら、顎を引いている。それから、私がそっちへ数歩近づこうとすると、それとほぼ同じタイミングで姉御の人たちの後ろにいる屈強な男の人が頬を使って目を細めるようにしながらこっちに近づいてきて。その瞬間に私の足もそっちから遠ざかるように一歩だけ動く。でも、向こうは全く止まらなくて、それに気づいたのかここにいる他の人たちも次々とそっちへと向いていく。
「姉御!」
その声をハリーが出したのは、姉御の人がリングへと飛び降りる通路の切れ目がある方へと視線だけを向けてしばらくした時だった。その歯切れよくすぐ消えるような声が消えてなくなると、姉御の人らが一塊でいる箇所から少し前になる位置で男たちが足を止めたせいで、周囲からは音が消える。そして、私を含めてそこにいる人たちの視線は向き合っている男たちと姉御の人の方へと吸い寄せられた。それに対して、こっち側にいる方は肩と一緒の向きのまま顔を床と垂直になるような角度をしていて、口を使って顎を上に持っていくようにしていた。
その間は私は、喉を押し込むようにしているだけで、息が止まってしまいそうで。音を立てないようにしながら鼻を僅かに動かす。そうしてる間に、姉御の人は両手を強く握りしめて、足を黙って動かしていった。そして、それは2人の男の横を通り過ぎても一切変わることはない。それどころか、数秒間それを続けた後、だんだん早くなり、通路の切れ目に到達する瞬間にはもうほとんど走ってる状態だった。
そのまま飛び出して空中へと体が投げ出されると、数秒間だけ体が前へと進みだしたかと思ったけど、その直後には体が重力に従う様に落っこち始めて、その次の瞬間には両腕を少しだけ曲げながらリングの上部へと僅かに開いていた穴の中へと入っていき、その直後にさっきの妹の人の時と同じように金網同士がぶつかり合う大きな音と一緒に入り口が閉じられてしまった。
それと一緒に、ハリーらが切れ目の方へと小走りで進んで行くのを見て、私も目を大きくするように動かしながら腕を下に向けたポーズのまま立ち上がって、手すりを頼りにしながらそっちに向かって行った。その間に東雲の部下の横を通り過ぎたけど、それに対して向こうが何をしてくるわけでもない。しかし、切れ目の近くに行っても、姉御の仲間のメンバーがそこを埋め尽くしているせいで、こっちからではあまりよく見えなくて。体を手すりに寄り掛からせるみたいにして横へと伸ばすことでそっちを見た。
「いつでも始めてくれていいでありますよ。オーディエンスはまちくたびれてるであります」
リングの方へと下を見るようにして視線を投げている東雲は相変わらずの表情をしていたと思ったけど、その次の瞬間に口元に力を入れるようにしているのか、そこにわずかなしわが出来上がっている。しかし、その一方で、姉御の人は目の前でうごめているネズミに対して顎を自分の側に寄せながら目を前に出すような形をしていた。ただ、相手はそっちに対してお尻を向けて未だに妹の人の肉に貪りついているようだった。
「こいつをぶっ倒せば、みんな解放するんだな」
東雲の方を顔だけで振り返ってみている姉御の人に対して、東雲は相変わらずの様子。その最初は上がっていたのに対してだんだん下がっていく声がなくなると、また周囲は静寂に包まれて、それと共にスポットライトがリングの中へと集められると、赤紫色をした部屋全体の中でそこだけが唯一白く、リングの砂の色がはっきりとする様になっていった。
「タイマンなんて、お前らでもやらないでありましょう」
相変わらずの抑揚のない声を出した東雲に対して、姉御の人は何も言わずにネズミの方へと視線を戻す。それから、もう一度手を握り直すと、肩を上へと持ち上げるようにしながら脇を締めている。その体の倍はありそうなほどの敵は夢中で上下に動きながら地面へと顔を向けたままにしていた。
それに対して、私は手すりに込める力を強くしながら口の中の空気を一度飲み込むようにするけど、少しのどが痛くなるだけだった。それから、わずかに口を開けたまま同じ姿勢のままでいると、すぐに姉御の人が一歩ずつゆっくりと歩いて行く。交互に体の前に腕を出していくような進み方をしているが、こっちにはその足音は聞こえてくることもなくて、数秒間それが続くと、私の持ち上がってた肘がだんだん下がっていくのを感じて。歯を上に押し付けるようにする。
でも、その間に姉御の人はリングの中央当たりにまで来てて、その瞬間に体を一気に前のめりにしたと思ったら、その瞬間に体を深い水色の光が包んで。その眩しさに目を背けた後には、様々な色の光を点滅させているバックパック型の機械を背負った青色の長いスカート姿に変身していて。片足で立ったままわずかにもう片方の足を浮かせるように肘を曲げているポーズをしていると思ったら、相手はいつの間にか壁代わりになっている金網に押し付けられてしまっていた。
「いつまでも遊んでられると思うんじゃねぇぞ」
金網が非常に大きな音を立てて、私はもちろんのこと、周囲にいた仲間の人たちも、下で見ていた観客たちも体をかがめるみたいにしていて、腕を前に出しているだけ。その一方で、そこへとたたきつけられたネズミは、頭を地面に向けたままそっちへとずり落ちていくみたいに少しずつ重力に従って下がっていくが、そのポーズはずっと口を大きく開けたまま両手を前へと伸ばしているだけだった。そして、最初にそれがたたきつけられた場所にはクレーターが出来上がっていて。その形をかたどる。
読了ありがとうございます。




