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Lunatic  作者: コンテナ店子
第一部中編
33/216

第33話

 リングの中へと放り込まれた妹の人は、尻もちをついた状態で、地面の上に手の平を付けている形で巨大なネズミと向き合うようになってしまっている。両方の肘を自分の体へと近づけるように曲げている上に、膝も体育座りのような形のまま、そこだけがくっつくようになっていて、唯一動いているのは、外周をゆっくりと回るようにしているネズミと視線を合わせるように首だけ。


 しかし、それに対してネズミは数歩歩いて妹の人のまっすぐ前に来ると、それからはその道を進んで行くだけになっていた。それに対して、私はスーツ姿の男の人の横へと来るような形で体を勢い良くそっち側にある手すりにぶつけるようにしながら、体の体重と両手の平をそこへと預ける。勢いが余り過ぎてバウンドするようになりながらも、その姿をしっかりとよく見える位置に来ると、息を強く呑み込んだ。


 その頃には、もうネズミは妹の人の元へとやって来ていて、息を何度も吹かれているのか髪の毛が動きながら、その体が接触しそうな距離にまで鼻を近づけられて匂いを嗅がれているようだった。それに対して、当の本人は首だけを動かしてそれから顔を遠ざけるようにしながら、目を限界まで力を込めて逃げようとしているよう。そして、それと共に喉が擦れるようなわずかな声を出してしまっている。


 それを数秒間眺めてから、東雲の方へとすぐに振り返る。しかし、その姿は依然変わらず、ただ真っ直ぐに立ち、ヘッドセットのマイクに自分の指を当てたままその様子を眺めているだけ。表情すらもそのまま。私は、口の中に冷たい空気が入り込んでくるのを感じながら、目を大きく開いてそっちの方を眺めていた。


 でも、そのままじゃいられなくて、唇と一緒に肩を持ち上げて、手すりに乗っけるように出来るだけ体を前のめりにして声を出した。


「東雲! こんなの、おかしいだろ!」


 喉が痛くなるくらい大きな声を限界まで早口で出したせいで、言い終わった後には両方の肘を立てるようにしながら顔をまっすぐ下に向けて何回も息を繰り返すことになる。それに合わせて、体を上下に何度も動かすようにしていたけど、その間にもそれから後に顔を持ち上げてまっすぐ前を見るようにした後にも、東雲はただただリングの方を見ているだけだった。


 それからも、何度もその名前を呼び続けるけど、その間もその体は動こうとしなくて。それから後ろに振り返って姉御の人の方を見ても、上の唇を下のに押し付けるようにしながら顎を自分の体の方へと向けるようにして、瞼もわずかに落としてて。よく見てようやくわかったくらいのわずかな動きで首を横に振っていた。それから、私の力が抜けた手が丸くなっている手すりを滑るように動く。


 そんな時だった。私が黙ったせいで静かになった建物の中に、大きな音が鳴り響いた。低いのに合わせて高いのが続いたそれは、ネズミがしっぽを振り回して妹の人にそれをぶつけた後、その反動で彼女の体が金網にたたきつけられた音だった。それを追ってすぐに息を飲みながら通路の反対側にある手すりに移動すると、灰色の金網に赤と黒が混じり合ったような色がついていて、それはそこにいる頭にも同じようになっていて。さらに咳き込むと共にそれと同じ液が妹の人の口から溢れていた。


「お姉さま……助けて……」


 何度も高い音を立て続ける呼吸の隙間から、わずかに聞こえるくらいの、やっと一文字ずつ言えているくらいのとぎれとぎれの声。金網に頭を押し付けるようにしながら、顔を姉の方へと向けているのに対して、見られた側はリングの中央当たりに視線を向けているようだった。そして、そこにはネズミが地面を嗅ぐように鼻を下に向けて前後運動を繰り返し、足を色々な方向に動かして歩いている。そして、妹の人はその間も血を吹きながら通りが悪そうな息を繰り返していた。


 それの数秒間続いたと思ったら、息が苦しくなってたのでようやく自分の意識を取り戻した私に続くように、一歩後ろにいた姉御の人の方を見ようとしたら、そこにハリーがやって来て、2人で何かを話し始めていて。それに対して私は視線を逆側に向けることしかできない。


 それでも、またリングの方から音がしたと思ったその時には、そっちに顔を勢いに任せて向けてしまった。そっちでは、金網に体を押し付けようとしている妹の人が、それの穴の1つを手で掴むようにしていて、でもそこからは何も音もしなくて。それを見てるだけで手すりを擦る音がどんどん強くなる。


 それに対して、妹の人は何度も東雲の事を呼び続けてて。そのさらに後ろからネズミの高い鳴き声が出てしまっていた。そっちにすぐに私も視線を寄せるようにするけど、それでも手すりに力を籠めることくらいしかできなくて、歯を強く噛み締めながら、目を何度か瞬きする。しかし、ネズミがだんだんペースを速めながらそっちに近づいていく様子は変わらなくて、その度に東雲の事を呼ぶ声はより高い音同士が混じり合うようになっていってしまってた。


 それから、もう一度東雲の名前を呼びながら振り返る。そうしたつもりだったけど、その瞬間にその口が動いていたせいでそれが喉の所で止まった。


「もういい、すぐに次のアンドロイドを寄越すであります」


 その言葉を聞いた瞬間、私もまた息を止めるようになってしまう。しかし、瞬きは全然止まらなくて、背筋が冷たくて芯がその中に一本入ったみたいになった気すらもしてしまう。でも、それでも東雲はヘッドセットのマイクを自分の口から遠ざけるようにしているだけで。目線はまたしても妹へとにじり寄っていく化け物の背中に向けているようだった。


 しかし、それもほんの数秒間の間だけで、その後にはもうネズミの鼻が妹の人の体へと到着し、また体をそこで擦られるように動かされて。ゆっくりと顔の向きを横に変えることでそこから頭を放そうとしていた。その後も、そこをゆっくりと左右に動かしながら一滴ずつ涙を両方の目から落として行く。そして、体は上にのしかかるようにしているネズミのせいで影になっている上に、特に目の辺りに黒い影が出来上がってしまっていた。


 そして、ネズミがもう一度大きな鳴き声を上げた瞬間、妹の人の動かない頭のうえで前歯を持ち上げるようにしたと思ったその次の瞬間には、頭を貫いてそこから血管や中身が一気に吹き飛び、金網はもちろんその外にまでそれが吹き飛ばされる。それと共に液が混ぜられる音がしたと思った瞬間、私は喉を一気に押し込むようにしながら口元に手を当てつつ、視線をそっちへと近づけて。でも、それでもネズミが頭以外の部分にも次々と死体に歯を突きつけ続けていた。


 そんな光景を見ているだけで、私のお尻が一気に床までたたきつけられて、肘もそっちに向かった状態のままになってしまう。でも、それを意識しようとした瞬間、目が大きく開いて、それから意識をすぐに反らしながら喉に一気に力を籠める。でも、それでも口の中が一気に膨れ上がるのを抑えられなくて。でも、それも数秒の事で終わってしまって。気づいたら、口の左右の隙間から溢れるのが抑えられずに一気にゲロが吐き出てしまった。手の隙間から出たと思った後に、それを地面について。何度も体を上下に動かしながら体の中身がどんどん出ていく。それが止まった後も息を何度も繰り返してしまって、肩よりも上が何度もそれに合わせて動き続けていた。


 もう出ていくのがもう終わってるのに口の中がすっぱいままで。小さい穴がたくさんできてる床は当然のように次から次へと下に向かって吐き出したものが落っこちて行ってて。誰もいない床の上で跳ねていた。しかし、そこへ向けて何度も咳き込むのを繰り返してもそれらが動くことはなかった。


 顔を上へと向けて、両腕を曲げたまま膝を震わせるようにしながらそこも少しだけ腰を落とすようにする。それでなんとか体を持ち上げると、頬を目元に近づけるような表情をして数歩そっちに近づく。リングの中では金網の上を滑ってお尻が少しだけ中央へと近づいていた死体にネズミがかぶりついていて。それを見ているだけで口元を小さくするようになる。


「お姉さま! お待たせしました! お腹を壊してしまって、遅くなってすみません!」


 その声の方へと振り向くと、さっきネズミに食べられたはずの少女が下の階層にあったドアから観客の横をまっすぐに通り抜けて東雲の方へと近づいていた。それに対して、東雲自身は見下ろすような位置のまま、足は一切動かそうとしていない。


 そんな光景を私は目を丸くして何度も繰り返し見続ける。でも、そこにいる妹の人は部屋に入って来た時に文を1つ1つはっきりと伝えるようにしているような声を出しているだけで。それから歩いていく先にいるネズミと髪の毛がまだ残っている死体を見てもそのペースは一切変わろうとしなかった。


 それを見ているだけで足が数歩下がっていきそうになるけど、そっちにはただただ手すりがあるだけで、それから私たちが来た方を見るけど、そっちには黒い頑丈な壁とそれに取り付けられた鎖の南京錠。それを数秒間見てからおでこに手の平の付け根辺りをぶつけるように。そのまま背中と手すりを滑らせるようにしてしまった。しかし、それでもネズミが死骸を食べている音は私の耳から消えることはない。


「伊予、早速そこの掃除をするであります」


 東雲の声が聞こえた次の瞬間、妹の人の足音がだんだんこっちに近づいてくるのを音で感じ取る。でも、私にできるのは、髪の毛に触れている両手を擦るように動かすことくらいで。それからため息を吐きながらそこに力を籠めるようにするだけ。瞼が降りて来るのを感じながら、息を吐いて口を横に伸ばすようにするけど、それで何かが起きる訳でもなくて。瞼が同じ位置で小刻みに震えるのをその場で感じた。


 モップが前後に擦られている音や氷がグラスとぶつかり合う音、そして女性があからさまにオーバーなリアクションをするような声を出しているの。そのすべてが私の元にも届けられていた。しかし、息を強く吸い込むような音を立ててもそれらが変わることは何もなくて。今度は女性が手を叩きながらは笑い声を出しているのが伝わって来ていた。


「あなたはあぁならない」


 そんな時だった。しゃがんでいるけど背が高いのかこっちを見下ろすような体勢になっている眼鏡をかけている男の人が、聞き取りやすい割とゆっくりとした速さで話し始めると、首をほんの少しだけ上下に動かすようにしている。それに対して、私は横から見ているその人とは目線を反らしながら反対側の下を眺めるようにしていた。しかし、そうしていても、私の側にも来ているその人の影が動くことは一切ない。


 その間は、ただ口元をこすり合わせるように動かしているだけで、見ている方向は同じだし、鼻を少しだけ吸い込むように動かすと、私が吐いたもの滴り続けている様子が視界に入った。

読了ありがとうございます。

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