第28話
顎を少しだけ前に出すようにしながら両腕の上に乗っけて。そのまま薄目で広場にいる姉御の人やハリーたちの様子を眺める。そうしていたいけど、体の重さに従うように目がだんだん下がっていきそうになって、その度に頬を数回叩くけど、手の冷たさに頬の方を遠ざけた。その後は、すぐに元々あった場所である腕を体育座りした膝の上、頭をさらにその上に戻した。
広場の中央へと向かうすり鉢状に出来た階段の端っこに座ってる私の遥か斜め前で集まっている姉御の人やハリーは数を数えながら腕立て伏せをしていて、数を数える大きな声がこっちにも聞こえてくる。それを聞いてると、少し下を見るとそこには私の腕と膝の間が見える。黒いうさ耳パーカーとスカートの間から見える真っ白な肌。唇を前に出すように力を籠めると、鼻から息を吐き出す。それと一緒に背中を曲げるようにした。
そして、私が息を吐き終えた数秒後に、みんなが腕立てを終えたみたいで息を吐きながら体を地面の上に落っことすと、そのままほとんど数を数えてた時と変わらないくらいの大きさで「疲れた」という話や「キツイ」という話をしていて、その中にもちろんハリーと姉御の人もまじりあってて。その目も口も大きく開いてた。それらは、部屋の中心近くにいるのせいか、汗が光っている一方で影がよく見えて、肌が上下している姿までわかる。
それを顔を正面に向けながらまっすぐに向けている私。反対側を見ると、東雲が乗ってきたエレベーターがあって、その銀の塗装が剥げて茶色だったり赤色だったり黄色だったりが見え隠れしてて、その位置はこっちが視線を少しづつ動かしていくことで変わっていってる。
さらに、それだけじゃなくて、近くを人が歩いてて小石が飛んで行ったせいか、そこで高い音が小刻みに聞こえ始めて。それと一緒に私が背筋を伸ばして顔を上げながらそっちに向けると、歩いてた2人も足を止めて体ごとそっちを見てたけど、しばらくしてまた元に戻ってた。
でも、私はそうはいかなくて、そのまましばらくそっちの方を眺めてる。外側には金網が交差しているのに覆われてて、私が見ているのに対して、向こうは全く動こうとしない。
それに対して、天井に向けると真っ黒な穴が大きく広がってて、その辺りはただひたすらにコンクリートに塗装されてるだけで、陰に隠れていく以外はただただ一部の場所に染みがあるだけで同じ色をしていた。
私が見ている間も、姉御の人たちはまた違う筋トレを始めてるみたいで、大きな声で数字を数えながらお互いを見て体を動かしてた。
照明がなくなったせいで暗くなって誰もいなくなった広場で、1人で座り込んでいると、辺りからは何も音は聞こえなくて。唯一映っているのは壁の辺りに取り付けられた灯りのうちの一つ、私の背中の先にある物が光っているくらいだった。それのせいで、自分の小さく降ろした視線の先に自分の影が出来上がってて、そのフードで覆われた丸い頭や降りた方の姿が自分の目にも映る。でも、それもほんの手を伸ばせば届きそうな距離にまでしか伸びてなくて、そこから先にあるのはただ暗い闇だけ。一回ため息をついてから、上の方を向くと私たちが暮らしてる部屋もある廊下とひとつながりになってる天井があった。
でも、その上を見ているのもつらくなってすぐに下を向いて膝の上に乗っけた腕の上におでこを乗せる。でも、膝が素肌なのに対して、腕はうさ耳パーカーの中にいるし、そこから出てるのはわずかな指の先端だけで、手もほとんどゴムの中に隠れてた。その体制のまま、太ももに二の腕を沿わせるようにしつつ、鼻をすすって音を立てると、その音が広場の中を反響するように聞こえる。でも、それも数秒間で終わった。
そのままずっと同じ姿勢でいると、なんだか肩の中の骨が出っ張ってるような感覚があって、両手の平でも肘が同じような感覚があるのを感じる。でも、周囲の風も吹いてないのに寒く感じる感覚が苦しくて、余計に体を骨側に押し付けるように腕に力を込めた。
しばらく縮こまった後、昼の時に姉御の人たちがいたあたりにまで移動しようとしたけどその時、出来るだけピンと伸ばそうとするも肘は軽く曲がったままで、両手は平を正面に出すようにしながらも指は少しだけ曲がってるようになってて、膝も少しだけ腰を落とすように曲がってた。そのまま、両手を手探りするように上や下、そして左右にも勝手に動かすようにする。それに対して、その手は何も掴むことはなくて、床につまずきそうになった瞬間に思った以上に体が目のめりになって。そのまま両手を突けそうなくらいの勢いで落っこちた。
腕が思った以上に痛みを訴えてきて、目を閉じる。それから数秒後に落っこちるようにそこを曲げたら胸から落っこちるような感じになって、顎をそこに立てるようにするけど触れはしない。
その体制で膝だけが触れてる状態でいると、その冷たさで唇をかみしめるようにする。またすぐに脇を締めるように動いちゃって。眉も一緒に下がった。
次の日の朝、目が覚めたらもうハリーがいなくて1人で髪の毛を溶かしてから食堂にやってくると、また以前取り巻きをやってた人たちが集まっているグループが私の立ってる入り口側に近い所で密集している。しかし、食器が動くたびにしている音が聞こえるだけで、彼女らは何も話していない。その人たちが座ってて私が立ってるせいで見下ろすような形になってるけど、その中でも一番近い人がいきなりこっちを見て来た時その視線がぶつかりそうになった瞬間、すぐに私の方から視線を逸らすように斜め上の角を見た。
そこは広場ほどではないけどけっこう高めに設定されてるせいで、見てるだけで私の首が痛くなりそうで。その直角に切り取られている個所ばかりの様子を眺めているだけで首が痛くなりそう。でも、目線だけをさっきの所に戻そうとしたら、向こうは目尻を垂れながら肘まで両腕を自分の体を合わせるようにして食事を進めていた。そして、私が両腕を抱えるようにしながらほんの少しだけ背筋を前のめりにしつつトレイを取りに行く間、前後以外には一切動いてなかった。
食事が配膳される列に並んでいる間も同じような姿勢で私はいて、一歩ずつ横にずれていると、後ろから話し声が聞こえて来てて、その中にはもちろんすぐにハリーや姉御の人の声もあって、それがこっちに聞こえてくるたびに、曲がってた背筋が元に戻りそうになるけど、ゆっくりと鼻から息を吐きながら元に戻していく。
その一方で、両手の指がレールとの間へ入るようにちょっとだけ持ち上げてたお盆を見てると、調理室側の天井にある光を少しだけ反射しているのが丸く見えて、それは最初のほうれん草の浸しが置かれてもそれはそのまま。それがわずかな線をこっちに向けているようで眩しくなりそうで、瞼を小さく降ろす。
配膳が全部終わって、ご飯とみそ汁の湯気が出ているの見ながら次の人が近づくのを感じつつ数歩だけたくさん並ぶテーブルの方へと進む。入り口がある左側から最初だけ弧を描くようにしながら視線を平行にしていって辺りを見渡すと、すぐに反対側の柱の近くにやっぱり姉御の人たちのグループがいた。上はシャツ1枚だったりジャージだったいといつも以上にラフな格好をした全員は食事のペースがさっきの人たちよりも明らかにゆっくりで、食べてない時も口を動かしているし、食べる時も1切1切箸でつまんでいるよう。そして、前スマブラの話をした時にしていたように肩を組んだり手を大きく伸ばして体を伸ばすようにしている大きな動きもたまに見せたりしている。
そんな姿を私は体を斜めにしながら眺めていると、自然に視線がまた食事の方を向いて、でも、もう湯気は出なくなってて、そこにいる豚の生姜焼きやお浸しをただただ眺めていると、食器が置かれていない所に私のフードに覆われた顔が映ってた。
鼻を何度もすすりながらまた肩を前に出すように食堂から出て、広場へと続く通路を歩いていくと、そっちに近づくたびにだんだん周囲が明るくなっていくのを感じてそのせいで手をおでこに当てるようにする。そのまま下を向くようにして歩いていくと、私が追い越していく2人は何やらここに来る前にテレビで出てた芸能人の話をたぶんしてて、それを聞いてからより足を大股にしていこうとすると、その話し声も向こうの足音も止まったみたいだった。
そして、ほんの数秒後に広場に到着すると、少し体のバランスを崩すように肩を強く前に出して、中央へとつながるくぼみへとつながる階段の方に行こうとすると、また姉御の人たちが大きな声で数を数えようとしてる声が聞こえてきて、そっちに視線を向けると、軽く爪を右目の上あたりのおでこに立てるようにしながら手の平を頬に当てて顔をそっち側に傾けながらその姿を見ていた。
そうしてる時、いきなり広場の端にあるゴンドラが大きく動いて、上から降りてくる音がしたのに、手を顔から放してそっちを見ると床の背面が見えて、小さく手を握りしめる。その後すぐに目をつぶって、顔を避けそうになるけど、それと一緒に頬を膨らませてから息をゆっくりと吐いていくと、それからも肩を動かしながら息をゆっくりと吸ったり吐いたりを繰り返した。
ゴンドラの足元が私の背と同じくらいの高さに来た時、手から力が抜けて開くけど、それと一緒に足も滑りそうになって一旦踏みしめる。口を閉じてるだけで喉が苦しくなったけど、そこにいる男の人たちの姿を何回見ても変らなくて、正面を見ているだけなのに私の視界にもだんだん黒くて硬そうなビジネスシューズを履いた足から真っ黒で折り目のないスーツが入ってきて、それからサングラスで顔の大半を覆った姿が目に入ってきた。
それがばねの上に乗って動きが止まるとそれと一緒に踏切が開けるのと同じタイミングで歩いてくるのとほぼ同タイミングで足を動かして瞼を少しだけ落として自分部屋もあるの通路の方へと歩いて行こうとすると、さっきの2人とぶつかりそうになってしまった。
「おい、また面会の時間だ」
いきなり私の肩を掴まれて、その力で服のしわが出来上がるのを感じた瞬間、おでこを一気に持ち上げて背中がまっすぐに伸びる。それのせいで体の冷たさにまた気づいて。それから背中を曲げて頭を下ろす。それから口を一緒に開くけど、それでも出て来たのは言葉にならない声が喉から出て来るだけ。
でも、口は小さく動いてるのを感じて、出来るだけ頭を動かさないように広場の方を見ると、姉御の人は少しだけおでこを前にするようにしながら両手を下ろしてこっちを見てて、ハリーは服を引っ張って顔を何回も拭いているようで、そこから顔を放して息を吐いているのは、元は私たちが一緒に使ってた部屋の方だった。
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