第26話
今回から第1部後編になります
搾り器についているペダルに足をかけてから数秒そのままでいて、それからそこを動かす。そうすると、無数の水滴がモップの先から次々とひねり出されて、水溜まりの中へと落っこちて行き、その度に次々と立っていく音。それを聞きながらだんだん持ち手を引っ張っていくと、その度にそれは大きくなっていった。モップが全部抜けきったところで足をペダルから外したら、わずかな水滴が替糸から落っこちて来てたけど、それも数滴だけですぐに消えてなくなる。それから、それをタイルに押し付けると、布がぶつかる柔らかい音の後に、金属の部品がぶつかる高い音がした。
軽く持ち上げてからタイルの上を滑らせて行こうとしたらすぐに替糸の根元の方にもそこが当たって。それからしばらく動かしていようとしたけど、何度力を込めてやってもそこについてた黒い汚れが取れなくて、それからも歯に力を籠めるようにしながら右側に唇を動かすようにするけど、それでもどうにもならない。仕方なくホースを取ってきて、蛇口にそれをくっつけてから水を流すとそれがどんどん消えて行った。
汚れだったものが水と一緒に排水溝の中へと流れ行くのを眺めていると、その中に空気が入り込んでいる音が聞こえて、それと一緒に私は舌を動かして口の中の空気を外側に押しだそうとしながら、目同士を近づけるように動かすけど、すぐにゆっくり目の先端同士を垂らしながら頬も降ろすようにする。
それから、自分にだけ聞こえるくらいの音でゆっくりとまっすぐに伸ばすように息を吐く。でも、それと一緒に自分の耳に聞こえて来た大きな機械同士がぶつかり合う音。それを聞いた瞬間、背筋が押し込まれるように若干エビぞりになるって立ち上がり、数回瞬きをしながら、口で小さな丸を作るように開く。目が大きく開きながらプルプルと震えるのを感じた。
でも、そのままでいようとしたけど、すぐに顔が下を向くように頭が動くと、髪の毛もそれに従うように重力に落っこちた。でも、それと一緒にフードも頭の上に乗っかって、そっちに手が伸びたと思ったけど、掴むような動きのまま、両手を耳の真横くらいで止める。それから一度ついたため息。それの音が聞こえなくなった瞬間、膝に両手を叩きつけながら指を若干立てるように太ももをもむ。その後数回そこを叩くようにすると、おでこに両掌を合わせるように。そうしているだけで、一度閉じてた目をゆっくりと開くようにした。
数歩歩いて入り口から入り込んでいる広場の灯りで出来上がった日向を見て、一旦息を飲む。両手を出しながら呼吸に合わせてそこを小さく上下させる。それから、足音を立てないようにしながら壁に体を張りつかせてゆっくりと目だけを出すようにしたが、そこで整列していた人たち全員と私の目線が合った瞬間、腰を落としてしまいそうになって、そのまま転びそうになったが、なんとか両手を使って踏みとどまった。
「やっと現れたでありますね」
私と同じく捉えられている人たちの塊の中には、ハリーもいて、そこから一部出るようになっている人たちの中に、姉御の人と東雲がいた。前者が顔を少しだけこっちに振り向かせるようにしながら右目だけ向けているのに対して、後者らは体全体がこっち側に向いていて、相変わらず両手をただ降ろしたまま目だけでこっちを見ていた。
それに対して私は、左右に目だけを動かしながら周囲の様子を確認するが、そこにいるのは私だけで。上唇を下唇に押しこむようにしつつ東雲に視線を向けながらまっすぐに歩いていく。でも、その間もあいては一切動かず、そうしながら進んで行くと、ハリーと目が合った。向こうは眉をひそめながらも小さくうなづいてて、それに合わせて私も同じようにする。
「お前が現れるまで待ってた」
姉御の人と東雲と合わせて三角形を作るような位置に立つ。背の高い2人をこっちが見上げるような姿勢で見ていると、肩を下ろしながら1回戻ったはずなのに上唇を下唇に押しこむような感じになる。それに対して、一度話す間だけこっちを見たけど、姉御の人はすぐに東雲の方へと向き直った。
それに対して、見られた側は周囲で並んでる人たちの方から目線から先に動かすように姉御の人の方へと移る。それと一緒にそっちは顔を僅かに後ろへと下げるように動かしているのが見えた。しかし、それもすぐに元に戻して前のめりに。そのまま両手を握りしめるように動かすと、そこに青色の凸凹した硬いグローブと、そこから出て体へと刺さるチューブが現れた。
「わざわざ私と戦わなくても、言う事さえ聞いてくれたら出してやるであります」
その言葉が終わるよりも早く周囲では一気にうるさくなったせいで、語尾の辺りは聞こえにくくなくなっていた。しかし、東雲は一切ペースを落とすことなくただただ口を動かしているだけ。その間はそこに合わせてわずかに肩も動いていたけれど、周囲が静かになるまでは静止したままだった。
一方で、口が開いてしまいながらも手を僅かに広げつつこっちに視線を送るようにしている姉御の人。気づけば私もそっちを見てて、一回瞬きするとそれと同じような表情をしてしまう。それに、その間も周囲のざわめきは収まらなくて、私がそっちを見てみると、顔を合わせたりしてたり、話したりしている人たちの様子が目に見えた。その一方で、間を見るように体の傾きを変えたら、ハリーは下唇で上のを持ち上げるようにしつつ目は同じような形でいて、瞼が小さく動いているようだった。
「ほら、録音もしたであります」
周囲が静まったのを感じて、東雲の最初の一言が聞こえた瞬間、腕から回すようにそっちへと振り返ると、ポケットからこっちに出て来た太めの黒いボールペンが突き出されている。目を拡げながらそっちへと顔を近づけるように体を前かがみにすると、フックの下の所で青色の光が数秒間に1回点滅しているよう。その側面では白い光が反射しているようで、こっちが顔を動かすたびにその位置が変わっていた。でも、それが動いても銀色のフックの位置は私の顔を映してるだけで、その光が入り込む隙はない。
元に顔の位置を戻そうとしても、東雲はそれを出しっぱなしにしているどころか、手すらもそのままの位置で。私がそれに人差し指と中指を近づけるようにしながら寄せていくと、触れそうになった瞬間で一瞬浮かぶように持ち上がって。それから東雲の手がない位置でつかんだ。
「私が用意した化け物とお前らが戦って勝ったら、それで解放してやります」
私が手を引っ張るのと一緒に視線を別の場所に移す東雲。私はポケットの中に受け取った録音機を手に取ると、2回そのノブをノックした。それから、上唇と上の歯を下のに押し付けるような表情をして、穴から息を飲む。それに対して、姉御の人は数回瞬きしながら一度後ろにいる仲間たちの方を見る。その表情は浮き上がった髪の毛のせいで隠れてて、私の側からは見えなくなっていた。その一方で、見られた人たちは、一歩足を後ろにしている人や顔を伏せがちにしている。その中にいるハリーは私の方を見ながら瞼を少しだけ降ろすようにしていて、さらにおでこを間に出すようにしてるせいで目が合ったと思ったら私の方から明後日の方を見てしまった。
「……お前でも勝てないってことか」
「いや、チーズでお前らに滑車を速く回させてるだけであります」
小さく最初の一文字だけは話そうとしたが、それと一緒に辺りから足が動く音がした瞬間、その声が一気に大きくなる。それに対して一瞬だけ空白を開けて答えた東雲は、全く空間を開けることもなくまっすぐに話していた。しかし、それを聞いた姉御の人は、口を僅かに開けて歯に力を込めている様子をこっちにもわかるようにしていて、目線も相手から下におろしている。そっちの方を見ると、手が強く握られているせいか、指のしわが大きくなっていた。
「3日後、私がもう一度くるでありますから、その時までに準備しておけ。もちろん参加は誰でもいいし、1人でも勝てれば全員解放してやるであります」
全部言い終わると、すぐに東雲は振り返って髪の毛をたなびかせながら歩いて行ってしまった上に、その持ち上がった動きもすぐに止まってしまう。そのままエレベーターに乗ると、私や姉御の人の方を見ながらただただまっすぐに立ったまま上へと上がっていき、その姿が見えなくなるまでずっとそのままだった。
その直後に、私は自然と口元に右手を当ててその指辺りに手を当てながらゆっくりと下に目を向けながら歩いて行こうとする。それに対して姉御の人は体を回して仲間の方へと振り返りながらまっすぐに進もうとしている。
「おい! ……腰抜け、お前も、来い」
一旦グループで少し話してた姉御の人たち。そっちの方から最初にこっちに呼びかけられてそれと一緒に振り返ると、姉御の人が少し小さな声を出してから私の事を呼びかけて来た。それに対して私は、小さな声をだしながら息を飲むように。それから横を見ると、明後日の方を見てたハリーが顔をそっちに向けたまま視線をこっちに向けて顎だけを使って来るように指示してきた。
それから一度止まって視線を顎ごとほんの少しだけ下に向けてから短く声をだすように返事をしてからそっちに歩き出すが、その数秒後にだんだん足を早めていくようにする。そうしたら私の足元から床を叩く音がして、その高いのが天井の方まで響いているのを感じながらそっちに近づいて行った。でも、それもほんの数秒ですぐに姉御の人の所まで行くと、その背中側にいるハリーも含めて目が合った。
「私は……」
それから元に戻そうとすると、天井から斜めに降り注いで来る光が眩しくてわずかに目を閉じながら、気づけば腕でそこを覆うようにしてて、眉を持ち上げながらそれをもとの位置に戻した。しかし、その瞬間に持ち上がった腕がない位置から姉御の人たちの方を見ると、向こうと目が合った瞬間、わずかにそこを細めるようにする。
「やりたくないのか」
その声を聞いて、上の歯に力を籠めるようにして顎を引いて向こうの方を見るけど、それと一緒に喉の中を押し出すように小さく音がしたと思うと、眉を寄せるような表情をいつの間にかしてしまう。それに対して私は鼻から息を音がしないように吐き、右手で左腕の肘を持つようにして体を自分の側に寄せながら姉御の人の様子を見た。
そうしてると周囲から音がほとんどしなくなって、かすかにどこかからか聞こえてくる話し声とかくらいになった。でも、それも私がわずかに顔の向きをそっちに向けようとすると、それと一緒に向こうも口が止まったみたいで何も聞こえない。
「……それは」
口を小さく開けるようにしてほんの少しだけ声を出すようにすると、それは自分の息の中に消えてしまいそうで。それも1秒経ったのかすらもわからないようなタイミングで消えてしまった。でも、姉御の人やハリーの顔は間違いなく動いてて。前者は下唇を上に少しだけ押すようにしながら鼻を一度だけ動かしてて、ほんの少しだけ組んだ両腕同士を押しこむようにする。一方ハリーは瞼を上にあげるようにしながら、鼻の下をちょっとだけ伸ばすようにしてる。
それに気づいて私の表情も歯の左側同士だけを押しこむようにして、それに合わせるように目も引っ張られるように動く。
「だったらあたしらだけでやりましょう、腰抜けは自分が守る物があたしらの他にあるんすよ」
ほんの1秒経ったかくらいで私の言葉が終わった後に続くように、ハリーが自分から進んで声を出してこっちと姉御の人の方へと話を進めて来る。それを聞いたのと一緒に気づいたら声が出るけど、向こうはこっちに向かって歯を見せるように口を開く。でも、こっちは顎を引くようにしながら目をそっちに向けると、姉御の人は私と目を合わせるようにしてきた。
でも、そのまま向こうは全然動く様子がなくて。私とじっとお互いを見合うようになってると、それも数秒間続いたと思った時、向こうから口が開いた。
「そうだな」
その言葉と共に、私の背中側の方へと向かって歩き出していくと、その仲間たちもそれを追う様に進んで行く。それに対して、私も同じように体の向きを変えようとしたけど、足は一切動かなくて、手だけがそっちに平を向けたら、爪がまっすぐ伸びたけど、すぐにそれが重力に従って落っこちて行った。
そのままメンバーは全員姉御の人の部屋がある通路へと進んで行くと、足が床の上を叩く音がして。その響きは私の元へも同じように届けられてる。でも、それもだんだん小さくなり始めて行くせいで結果的には消えて聞こえなくなった。
それから、天井を眺めてると、それだけで首をまっすぐに上へと向けているのに対して、瞼は薄く開くみたいにして、両手をゆったりと降ろすようになる。それはどこにも力が入らなくて。指もフックみたいな形になるように曲がってはいる物の、本当にそれだけの形となって。膨らんだ関節が地面へと向かったままに。部屋に誰もいないせいで、周囲からは話している人たちの声すらもしない。そのままにしてると、だんだん体が冷たくなるのを感じて、脇を締めて肘を体に押し付けるようにした。
読了ありがとうございました




