第22話
後ろを追いかけてくる妃美の方を全く見ないまま、東雲アニタは普段の背筋をまっすぐにしながら歩いている姿とは全く違う様子で歩いていた。それに対して前者は数回声をかけているのだが、その度に「あぁ」とか「そうであります」と全く抑揚のない早口で返事をするだけで、歩くスピードを変える訳でも顔が振り向く訳でもない。それからあとでは、ただ東雲の靴が廊下を叩いている高い音が聞こえるだけであった。
彼女らが人とすれ違いそうになると、相手の方から道を開けるように廊下の隅へと移動し、頭を下げている。しかし、東雲はそれに対しても何もしない。ただ体を前のめりにしながら前へと歩いていくだけ。その後を進んで行く妹も、一瞬そっちを見るだけですぐに姉の背中へと戻ってしまった。
それからさらに数分後、学園全体の様子を監視している部屋の中へと入っていくと、自動ドアが開きかけになっていたせいで、その体を横向きにしながら進むことになっている。その一方で、後ろから着いて来たのはドアが完全に開ききるのを待ってからその中へと進む。
部屋の中ではたくさんのモニターやボタンが光っていて、それの前にたくさんの人間が座り込んでいた。それらは彼女らが入ってきても一切動くことなく、ただただまっすぐに画面をじっと見ているだけ。部屋の中で多動的に動いているのは周囲をきょろきょろとしている妃美だけであった。しかし、それも東雲が体を止めているのに合わせて制止していた。
監視パネルの前に座っていた男と椅子を「どけ」と言いながらどかすと、自分でパソコンを操作し録画データがあることを確認してから監視カメラの映像の中でも、地下の牢屋の様子を捉えたものをアップにしてみた。
「あっ、こいつ……」
画面の前では、流那がこっちに向けて「今度こそ負けない」と言っている姿があった。それを見ている東雲の方へと妃美が上瞼を持ち上げるようにしながら首を動かしている。その一方で彼女は顎に小さく握った手を合わせながら眉を顰めるようにしていた。それから、ずっと見ているようで、その画面から聞こえてくる音以外は、周囲の機械たちのファンが回っている音以外は何もしない。それを突き破ったのは、東雲が持っているスマホの音。その無機質なバイブレーターに気づいて反応する。そこからは、中から少女の声がしていた。
「計画は問題なく進んでいるであります。発表会の準備を進めろであります」
東雲の表情ない瞳には、紫色の雷に包まれる姿が映る。一緒にいる妃美も周囲をきょろきょろ見るようにしながら小さく開けた口元と鼻の間に手を当てるようにしていた。
天上にぶら下がるように私が立ったせいで、髪の毛とフードが重力に従ってぶら下がる。それで、服が体に引っ掛かり、頭が髪の毛で重くなるけど、それのせいで胸元を一瞬だけ片手で抑える。それからあたりを見渡すと、姉御の人が両手を組みながら顎を僅かに引っ込めるようにしつつ顔をこっちに向けるような表情で、唇にしわを作るようにしていた。そして、周囲にいた女子たちはというと、互いに体を寄せ合うようにする人や、1人で足を内股気味にしてこっちを眺めている人、壁に背中を押し付けるようにしながら手の平もそっちに寄せている人など色々いるが、みんながみんなこっちの方を見ていた。
そして、それに気づくと、私の喉が一度何もない物を飲み込むように動いて、それから一度鼻から息を吐くように動かすと、数回瞬きをしながら顔から力を抜くように。そうすると、すぐに正面にいた、敵とその取り巻きの姿があった。
敵は少しだけ歯を見せて頬を持ち上げるように口を横に広げながら、その瞬間に両膝に手を突いて立ち上がる。それを見ていた周囲の人間がその行動を止めようとするが、それに対して右手を自分の肩と同じ角度になる場所まで振るうことで止めていた。そっちにいた取り巻きたちの方に軽い風が起きて、それから身を守るようにしていた。
「そうかいそうかい、まだ終わってないってことか」
両手を拡げながら自分の筋肉で出来上がった胸を見せつけるようにする敵。その瞬間、おでこと眉毛が後ろに押されるように引っ張られるけど、強く手を握りしめることでそれを抑え込む。その時、私の手元で音を立てながら雷が起こるけど、片目をつぶって抑えるだけにしておいた。
「私は、まだ、やるっ、……やるんだ」
もう一度息を飲む。そして、敵の位置じゃなくてそこから少しずれた地面の場所を見る。数回深呼吸をしてから、目をつぶって足を曲げてしゃがんでから、一気に伸ばすと、その瞬間に足が天井から離れる感覚があって、それと共に体の中の熱さを下の方へと持って行くのを脳内でイメージするのと一緒に、体が風を吹き飛ばすほどの勢いを感じ取って、口の中に入ってた唾液が一気に喉の奥へと押し付けられたかのような感覚を味合わされて、でも、その直後には地面がもうすでに近づいてるのが見えたから、ほんの少しだけ間を開けてから体を回転させると、それのせいで素肌が晒された足が痛みを感じたと思った瞬間には、周囲に砂埃を起こしながら上履きから足が激突した。そして、それはさっきの風の時よりも全然足の痛みが大きくて、私は顎を引きながら歯を強く締め付けて、それから数回目を拭う。
顔をあげると、目の前にいる敵。私よりも一回りも大きいその体は、見てるだけで顔が小さく震えるのを感じて、さらにその上を汗が一滴垂れる。鼻の奥へと息を押しこむように動くと、歯と唇も同じように動いて、でも、足をその場で地面へと押し込むように、片足の爪先を何度か動かす。
それに対して、向こうは相変わらずの表情のまま、ただただ立っているだけ。顔をまっすぐにしたままこっちを見下ろすようにしているその姿は、胸筋を見せつけるようにしている。その厚みを見ながら喉を飲み込むと、私のそこも一度動いて。その瞬間に向こうの腕が動いたのを見たから、私も振り下ろされるのに合わせて両手を握りしめてる状態から軽く空気を野球ボールに見立てて軽く握るくらいにすると、それを左の腰の辺りで重ねて一気に熱くなったのを向こうに放つと、それで起こった力で私の足が数歩後ずさる。
「そいつがお前の力ってわけか」
手の平を払う様に動かす相手が顔をそっちに向けながら目だけを私の方に向けると、わずかに視線が横の方へと行こうとするけど、すぐに体全身を使ってそこから元に戻す。そうすると、向こうの手から白い蒸気が出ているのを目でしっかりと見た。それから、おでこを僅かにそっちに向けて出すような姿勢になって、目線を敵の方へと向けるようにする。
「私だけのじゃない」
そう言いながら両方の手の平を正面に向けながら右上と左下に向けて伸ばすことで、自分の体の前に音を立てながら現れる電気の一本の線。そして、両腕の限界まで拡げてから反時計回りに回すことでそれを平たく広げていった。
その一方で、敵は筋肉隆々の両腕を掴みながら後ろに振りかぶり、そのまま振り下ろすようにしてきたと思った次の瞬間には、私の前に出来上がった魔法陣の前にぶつかって、高い音を立てた。そして、それと一緒に巻き起こる高い音と激しい光に目を背けようとするけど、そこから来る火花が熱くて、それがおでこにもぶつかって来る。それから、自分の顔を後ろの地面側に向けながら両腕を正面へと向けるようにまっすぐに伸ばすけど、それでも体が小さく震えながら熱いのが飛び散り続けるのが止まらなくて、歯をむき出しにしながら目に力を籠めつつ顔の向きを戻して肩を前へと出した。
「私、だけじゃない!」
そうすると、骨の凸凹とした形がむき出しになっている様にすらも感じる私の顔よりも大きそうな手が、紫色のそれを挟んで見える。そして、それだけじゃなく、私の体全体がその勢いで押しつぶされそうで、気づけば横に大きく広がった顎が自分の体の方へと押し込まれてた。右足を持ち上げようとした瞬間、左足が曲がってすぐあげた足を元に戻そうとしたけど、その時にはもう体に熱湯を浴びせられたみたいな鋭い痛みが無造作に何カ所もぶつけられたと思った。なのに、1秒もしない瞬間に、左半分を重い痛みが襲って、でもその次には右側が地面の上を滑って細かい石が私の体に何度も突きつけられた。
勢いが止まっても、3つの痛みが身体中を覆い、両腕で上半身を抱えながら膝をそこに合わせるようにするけど、それと一緒に息を吸い込んだと思ったら目の前が影で暗くなったのに気付いて、目を開けると同時に歯を強く噛み締めて、地面と接してる右手をそのままの方向に突こうとした。でも、瞼を上に伸ばすようにしながらそのまま手に思い切り力を込めて押し込んでから飛び上がった空中で体制をまっすぐに伸ばそうとすると、また体が訴える激痛。それで視界がぼやけたと思っ後には髪の毛とフードが遅れながらも地面に向かって落っこちた。そっちでは、敵の大きな手が元々私がいた場所をえぐって小さなクレーターを作り上げている。
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