第156話
東雲が用意したゲートを通ってから出た先になる場所、そこで顔を少しだけ上へと向けるようにしたまま、口を小さく開けて目の前にあった建物の様子を数秒間見つめ続ける。
たぶん水色っぽい塗装が剥げてもうほとんど見えなくなっている階段も、そこにも私たちと同じようにずっと水滴が落っこち続けているようになっているのを一切隠さないままになっている。それはわずかにまだ残っている塗装のとがった先端にも当たっているようだが、その不規則に並んでるとげとげした見た目に変化は一切ないようだった。
一方で、アパートになっている2階部分の外壁は元々はオレンジ色をしていたのだろうが、その部分のほとんどが下からだんだん上へと侵食していっているかのように剥げて内側の白色が見えてしまっていて。そこにわずかな色を残すように塗られてた色の点々が出来上がっていた。
そして、カーテンがされていてほとんどその中が見えなくなっている窓は少しだけ横側の面が伸びている物が2つ並んでいて、それが雨がぶつかるたび、ほとんどのタイミングでずっと揺れる音を立て続けている。さらに、それはそこだけでなく、薄い半透明で出来上がったアパートの入り口の屋根も同じでずっと雨がぶつかり続ける音を鳴らしているようで。さらには、私たちのいる道路と面している1階の入り口から聞こえて来る音も全く同じで。しかし、そっちは風に従うように左右に揺れているのもあり、道路の方へは入ってこないようだった。
ただただ立ってその様子を見ている私に対して、東雲はすぐにサビて黒と赤が混じり合ったような階段をのぼりはじめ、そのたびに高い音をずっと立て続けているが、私はそれを視界に入れた途端にすぐに喉を鳴らしながら顔を勢いよくそこからそらすようにして横を見る。顎を自分の体に近づけて、歯を強く噛みしめるままにしている間、相手の様子はほとんど見えなくなっているが、だんだんとその音が数回小さくなっているのを感じた後に、数秒間音を聞いていない隙間があって。そしたら、また足早になっているのが聞こえたと思った次の瞬間に、私の胸倉をつかまれて、両方の握りこぶしがそうなっていたせいで、こっちの顎をほとんど無理やり持ち上げられて視線を合わせさせられた。
「来い」
互いにじっと見合っているのにもかかわらず、東雲はおでこをぐっと近づけてこっちの方へと近づけてきてて、影になっている方から私のことを見てるようで。一方で私は口を閉じたまま背中を使って顔をそっちから遠ざけて。さらに、目線を横へと逸らすままにすることしか出来ない。
その状態でほんの一瞬だけ小さく聞こえたそれの後に、向こうはすぐ力強く私を押し倒すように両方のこぶしを押し込むみたいにしてて。それに対してこっちは何もできずに、近くの水溜まりへと落っこちる。
でも、もうすでにうさ耳パーカーもその中の制服も、下着も含めて全部びしょぬれだったから、変化は周囲に水が跳ねる音が聞こえたくらいだった。そのままお尻と一緒に両方の手を地面に付いている物の、そっちから感じられるのは水の冷たい感覚がほんのわずかに感じるくらいで。顔事視線を向けてみるけど、そこはずっと水が落っこち続けることで波を作り続けているのもあり、それで光が湾曲している様子しかない。
一方で、私の正面にいる東雲の方を一瞬だけ見るようにするけれど、それに対して向こうはただ両方の腕を一切曲げないまま落っことしてこっちを見下ろしているだけで。当然ながらその体も雨に濡れているのか、髪の毛やスカートも含めた制服がその体へとくっつけているだけ。それから、もう一度その顔を見ると、暗くて見えにくくなっているその中でも、目同士の間と鼻の上を通って頬の方へと伸びて行っている火傷の跡が今も残っていて。その線が一切変化なくそこに残ったままになっていた。
「……お前が杏にしたこと、まだ忘れてないぞ」
視線を東雲からそらして、未だ水溜まりの中へと落っこちたままになっている手のひらをじっと見つめるままにしているまま周囲の雨に音が消えそうな感じで話している私の声。でも、それに対して東雲はわずかな声を出すだけで。それが舌打ちの音だと気づいたタイミングで両方の肩を自分に近づけるように。それから、もう一度空を眺めるままにしている向こうは一度両方の手を握りなおす。
しかし、そのまま私に対して何をするでもなく、体も顔も一切こっちに向けることなく顔をそっちへと向けたままにしているようで。脇を強く締めているままにしていた。
辺りから聞こえている音は雨が建物や植物にぶつかる音がしているだけで。私の下にある水たまりにすら何も音がしないまま。それのせいで余計に私たちの沈黙を強く感じていた。
「薫子の部下がもうじき来る、1人で死にたければ勝手に死ね、ただ、私たちを巻き込むなであります」
わずかな声を、ゆっくりと、止まるまでの言葉を私にもしっかりと聞かせてくる感じで話している。向こうの体は今も家の影の中にいるし街灯も近くのどこにもないし、それはアパートの中の様子も同じであるせいもあって、全身が黒くなってしまっている。
もう一度言葉が終わってからこっちに振り返って、今度は私の髪を握りつぶすかのような動きをしてきた。それのせいで、またそっちを無理に顔を向けさせられるけれど、私はそっちをただただ見たまま何もせず、唯一したのは目線をもう一度同じ方向へと戻すだけ。
「お前たちこそ、私を巻き込むな……」
数秒間目線を落っことしている間に溢れてきた声をそのまま出そうとしている私に対して、東雲はじっとただただこっちを見ているだけで。私は向こうの力のせいで髪の毛が不規則な方向を向く感じのままになってたし、そこから離れた後も肩を落っことすままになって下唇を上のに押し付けるみたいにしてる姿勢のままでいようとするけど、でも、その力はほとんど入らなくて。それのせいで私はただただ顔を下に向けたままただただ雨に濡れているだけだった。
その中で自分のほんのわずかな心臓の音を感じているだけになっているのに対して、目の力をほとんど力を入れないままにわずかにだけ開けるようになっているままにしてたら、近くからいきなり私の耳を貫きそうなほどの、私たち2人の元のとは全然異なる高い笑い声が聞こえて。それに顔を一気に動かす感じで額を上へと向けるようにして。
一方で、東雲の方も見えたけど、そっちもそっちで私が聞いた声と同じ方を一瞬だけ見るようにしていた物の、すぐにそれを顎を斜め反対側へと向ける。しかし、それからすぐに最初に顔を向ける方へと肩を前のめりにする勢いで歩き出すと、そのままわずかに頬を膨らます動きをして、それを元に戻していた。
「でさ、そん時ヒロトのやつ、まだ入れてないのに射精してんの、あんなイキってた癖に、超ダサくね?」
そっちから角を曲がって進んできた女子はまだ曲がってきてない人に向かって体ごと向けながら軽くお腹を押す感じのまま背筋を反対側へと向けながら軽く手を伸ばす感じで話してて。両方の手をポケットの中で何度も体を叩く音を立てている上に、体を軽くひねるように動かしていた。当然のように雨ざらしになってる長くて太ももの辺りまで伸びてるくたびれたパーカーと先端の方だけ赤くなってる茶髪をそのままにしている。
その人が、私や未だ歩いている東雲の方を見るなりなんなりポケットに入れてた方の手のうち片方を上へと向けて伸ばしている物の、袖がわずかなしわを肘のところに作っているのにかかわらず、未だ服の方が長すぎるせいで、手の平の様子が見えるようになるわけでもない。
「東雲、おっす。久しぶりに戻ったね。そうだ、この人紹介するね、実家のお手伝いさんの良子さん。さっきそこで会ったんだ」
そのままの体勢で両方の手で袖から出ないまま甲側と平側を交互に見せるように手首をひねっている。さらに小さく「いえーい」と行って数歩後ろに下がっている物の。その小さな水たまりをクロックスではじくみたいになっているのに対して、私の耳ではずっと草が風で揺れていたり、建物の上に雨がおっこちる音を聞かせているだけだった。
一方で、私はじっとそっちを見ていたのに、東雲はその人が話している間も体を前のめりにしながら進んでいて。一切ペースを変えないままその手を力強く引っ張ると、片足を上げるようにしていたその人の、肩よりも少しだけ下の辺りで両方の手のひらを地面と平行にする感じで重ねた体勢でこっちへと体の側面を向けるようにしていたその体勢を崩す羽目になっていた。
東雲のせいで体のバランスを崩したその人は待つように何度もそっちに文句を言い続けている物の、引っ張っている側は一切その様子を見ようとしない。それどころかさっきよりも足を大股にしているようで、その腕も角度をつけるように曲げていて。後ろから引っ張られている少女が力強く引っ張って無理やり振り払うまでそれは続いたままになっていた。
「あのさ、東雲。もうあの糞つまらない家は捨てたって言ったけど、良子さんに対してちょっと失礼過ぎない?」
私は、その人がさっきの少し高めに出した声よりも小さめに低くしているそれを聞いた途端に、今まで細くしていた目を一気に開きながら、何度も2人の様子を繰り返し見るみたいにして。それからもう一度新しく来た少女の方の少し後ろの方、ブロック塀で四つの角すべてを覆うようになっていた十字路の様子を見ることになる。
体を横へと伸ばすみたいにしている私に対して、いつの間にか東雲は足を水をはじくような形で滑らせながらこっちの元にまで戻ってきてて。それから足を曲げてわずかに腰を落とし、さらに両方の腕も同じようにしながら手を握り締めていて。
一方で、その視線の先にいた少女も辺りを絡めるようにしてまとっていた光を開放すると、頭に人骨を乗っけた上に、丸い円から鋭く尖った刺をたくさんつけている真っ黒な半袖ジャケットと、たくさんのダメージが入ったジーパン姿に、それを止めるためにべルトに金色の鞭をぶら下げていた。
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