第13話
食堂から出てすぐに相部屋の人に手の平を見せつけながら私に肩を組んできた人はどっかに歩いて行ってしまった。それから数歩歩くとすぐ外と繋がるエレベーターもあるロータリーに着くからそっちの方を見ると、いまだ同じように赤と黒が混じり合ったような色の金網がバッテンを無数に構成していて、重い金属で出来上がったゴンドラは一切動きそうにない。そこからずっと続く天井を見上げるけど、さっきの食堂なんかよりも全然高いそれは、外周に取り付けられている電気が届かないせいでとても見えそうにない。
そっちを見てたら相部屋の人が早くしろって言いながらこっちを見ているのに気付く。そっちの方を見て、最短距離になる階段でへこみになっている広場の端を小走りで歩いていくと、それと一緒にコンクリと私の靴がぶつかり合う音がして、それが反響してく。でも、そっちを見た瞬間、私の爪先がそっちとぶつかって、目や口を大きく開けた時には、もう数個上の段が私の顔に近づいてて、慌てて自分の腕をそっちにつき出したら、肘を痛めてしまった。
「何やってんだよ、お前は、誰かに追われてるわけでもないだぞ」
その声を聴いて自分の足を見る。そっちでは骨の形が前へと出るように弧を描いてて、そこから相部屋の人のの方に移すと、そっちでは長ズボンを履いたそれからほんの少しだけ伸びているのがあった。私のパーカーの袖の中には、風が入り込んでくるみたいで、寒気を僅かに感じて歯を小さく動かす。そうしてる間に、自分の視界がかすんでるのに気付いて慌てて目を何度か瞬きを繰り返した。
それから、自分の肘に手を当てるようにして、鼻から息をするようにしながら立ち上がって、フードの上から頭を抑えながら顔を前に向けると、足を一歩も動かしてなかった相部屋の人が私の方を見て目を丸くしながら、玉子を乗っけるかのように平に凹みを作るような形でこっちに向けてた。
「なんだよ、せっかく人が親切にしてやってんのによ」
数秒こっちが背筋を曲げるようなポーズのまま動きを制止してると、軽く息を吐きながら口を中くらいの、いつもよりは大きく開けるような感じで話を初め、それから頬を持ち上げるような感じで目を細くする。
その姿を見て、私は喉から出そうになった言葉を抑え込むように口を閉じて、それから下唇を前へと出すようにしながら、膝の方を見ようとすると、髪の毛やフードがそっちを邪魔してきて、手で整えようとすると、「行くぞ」と最初と最後を上げるように話しながら背中を向けるように体を回し、それから首をこっちに向けて来る。それに対してそのままにしてたら、向こうもずっとそのままだった。
「はっ、ハリー、なのか……?」
「あ?」
その声を聴いて、私の目が開いて、前へちょっとだけ早いペースで歩いた足の動きが止まると、数歩前へ行ったところで相部屋の人の足が止まる。それから背筋がまっすぐに伸びて、そっちの方を見ようとしたけど、すぐに首が曲がるように下をむいてしまう。自分の手の指同士を噛ませるようにすると、視界が体だけで支配される。周囲からは私たち以外の音はしないようだった。
「あぁ、そうだよ。姉御からもらった名前」
今度はあんまり抑揚を付けずに話したその声。その体の向きを見るようにすると、こっちは首を僅かに上へと向けるような姿勢になる。でも、それから歩きながらも口を開けなくなるし、その足取りも食堂を出た時より明らかに遅くなる。ふと正面の方を向くと、もう数歩で私たちが使ってる部屋へとつながる道へと入りそうになってるけど、そっちの方は照明がまばらなせいで、暗い場所と明るい場所が交互にあるようになってた。
そっちを私が見てたら、相部屋の人はボリュームのある癖毛を動かすようにこっちを見て来ると、その表情を歯と目を使ってにっこりしたと思ったら、そのまま髪の毛をひっぱっておでこを見せつけて来た。
「見ろ、ハリーポッターだよ、知らねぇの?」
そこにはまっすぐの傷跡があって、赤色と白色が混じり合うような色をしていた。それを見てるだけで言葉にならない声が何度も喉から出てきて、手をだそうとしても途中で指の動きが止まりそうになってそのままに。瞼も下がりながら顎もちょっとだけ下げて目線を違う方に向けた。
「あだ名……?」
「ハリーがあたしの本名だよ。親なんかキャバばっか行ってて週に1回くらいしか返ってこなかったし。あたしはハリーだよ。誰が何と言おうとな」
表情をそのまま、私の体を見ると、アマゾンの通販で買ったフードとその奥でちょっとだけ出てる指の白さに目が行く。でも、その瞬間にハリーが歩き出したのに気付いて、私も肩を揃えるようにするためにちょっとバタバタしながら歩き出した。そのまま通路の中へと入っていくと、その上にある丸く床を照らす電球の下を頂点で別れるように2人で歩いた。
日課になってる朝起きてやり忘れてた壁のしるし。それをより鮮明にするように強く擦り付け続けると、その白さは変わらない一方で、そこからこぼれてくる粉はどんどん増えていくみたいで、私の手にも降ってくると数秒間続いたところで手を払う。それと一緒に、私の視線と平行になるようにその石を持った手の甲も傾く。そして、下唇を上へと小さく押し込むようにして眉を顰めると、しまったドアの向こうからハリーたちの声が聞こえてきて、ベッドの上へと体を投げることでバウンドさせた。
私のショートヘアがベッドの上で散らばって、それがあっちやこっちに向かっているのが、上にある小さな穴から入って来る光を背にしているせいか、薄暗い影の中で目に入る。それに触れると、ベッドの上でその形を感じるようにその硬さを訴えて来る。数秒間そうしてると、爪を立てるようにしたら、小さく音を立てながらそれが動いた。
それから、わずかに猫背にするようにして自分の体の方を見ると、上がわずかに鼠色になった白いシャツと同じ色のラインが入った青いジャージ姿が目に入る。通ってた学校のそれを見てると、目を少しだけ開きながら歯を何回か嚙合わせる。それと一緒に親指と人差し指の爪同士をこすり合わせるようにしてたのを、前者の腹に後者のを押し付けるようにすると、眉間に少しだけ力がこもった。
「おい! 腰抜け! 早く来い!」
ドアが壁とぶつかる音と一緒に、それ以上に大きく聞こえてた来たハリーの声。私もそれに振り返ってから瞬きをしながら目を丸くするような表情に変えつつ、両手をベッドについて上半身だけ起こすような姿勢にする。そうしてたら、向こうは何かわからない声を上げながら足を大きく鳴らすようにして歩き出す。こっちに来ると、そのまま私の腕を掴んで元に戻ろうとした。
その動きのせいで、私は髪の毛を前に引っ張られながら体が前のめりになって、そのままベッドから落っこちそうになるけど、なんとか足の体勢を直して着地。そのまま引っ張られるままに部屋の外へと出ていく。その間ハリーはこっちの方を一切見ようとはしなかった。そのせいで、その様子をこっちは上目遣いに見ることになって、上瞼を少しひそめる。
「姉御がやられたんだよ! 喧嘩だ! 早くいくぞ!」
外に出ると、以前見たことある何人かが箒や竹の棒を持ってやってきてて、それぞれに目線を合わせ合うと、そのまま駆け足で進み始める。歯を食いしばるような表情をしてから、それらと一緒にハリーも歩き出そうとして、私の方にモップとヘルメットを渡してきた。でも、こっちの手がそれと合わせて肩と平行になるようになるように前へと平を見せるようなポーズになって、それと一緒に数歩下がったせいで、ただ体にぶつかっただけになる。
「えっと、あの……」
小さな声を出したと思ったけど、それは2つの物がぶつかる音がしただけだった。
「何してんだよ! 早くしろ!」
喉を1回動かすようにしてから、上唇を押しこむようにしつつ目を横に反らしてから手をそれに合わせると、こっちが掴み終わるよりも前に向こうが離して走って行ったから、地面に向かって落っこちそうになってから拾い上げる。一旦視界から離れたハリーの姿は、もう私がいる通路からは消えてて、中央の広場の方からこっちに向かって何度も反響している音を感じながら背筋を曲げるような姿勢でそっちの方を眺め続けてた。
中央の部屋に入ると、砂煙を起こしながら、見たこともない私より二回りも大きそうな女子同士が向き合ってたり、馬乗りになって別の女子の顔を殴り続けてたり、走っている別の人を転ばせて頭から階段に突っ込ませてたり、血が出ている傷に対して靴の上から足を押しこんでいる女子の姿があった。
周囲を見渡すよりも先に、膝に手を突きながら口で勢いよく呼吸を繰り返す。視線をそっちに向けておでこの辺りを汗が滴るくすぐったさを感じながら目を大きく開くけど、それでも周囲から聞こえてくる音は消えることはない。歯を噛み締めながら目を閉じると、それと一緒にその周囲に大きなしわが出来上がる。そして、強く握りしめてたはずなのに、両手が膝小僧の上を滑っていくような気がして、まっすぐに戻した。
そうしたら、私の目の前に、1人の女子が現れたのを影で地面が暗くなったので感じて、そっちの方を向くと、給食を乗せてたお盆の角が飛んできたと思ったら、それがもう私の頭にたたきつけられて、そこを抑えながらしゃがんでた。そう思ったのに、それよりも早く腕のない所にまたもう一回同じ痛みが飛んできて、その振動で頭が重くなるのと一緒に押し出されるように唾液が飛び出す。
でも、上を見たらまた同じ相手がお盆を振り回してたから腰が床に落っこちて、そのまま背中側の床に両手をつくと、お尻を引こうとしたけど力が全然入らなくて、全く進まないまま顔の横から思い切りぶっ叩かれた。
「辞めて、ください……!」
私の喉の先端から出たようなその言葉。でも、その途中でまた縦で落っこちて来たお盆の音がかき消した。そして、それは私の手も間に合わなくて、また最初と同じ場所を叩いてきて、言葉にならないような声にならない声を出して。その場で低いうめき声を上げながら背中を丸くするようにして四肢を体にしまう様に頭を抱えた。
「逃げんじゃねぇよ!」
そう言いながら私の両端を何度も行ったり来たりを繰り返すように叩き続ける。何回かやったと思ったら上を跨いで反対側に回ったと思ったらまたそっちから数回叩かれて。そう思ったら今度は背中を何度も足で踏みつけられて、その度にまた喉が切れるような声になってない声を吐き出しながら体をもっと小さくしていった。
ずっと私をいじめて来た相手がいなくなったのは、攻撃がなくなってから数十秒くらいしてからで、それから頭を抱えていた手をゆっくりと話しながらそれ等同士の間にある空気を掴むような形のまま頭を上げつつ左右に動かすと、息を殺しながら少しずつ体の重さを下の方へと向けていく。それから、眉毛を下ろしながらだんだん目じりが熱くなって、でも、何も出来なくて、そのまましゃっくりするみたいに顎が動くと、鼻をすすり始める。私の頬を滑っていく涙はずっとそのままで、その温かみを感じたと思ったらまた同じものが落っこちてきて。目を閉じてもそのままだった。でも、自分の体が発している音すらすぐに周囲の音に掻き消えて、頭のおでこよりも先端寄りの方を地面に擦り付けるようにした。
読了ありがとうございます。




