第122話
「もう、私のせいで死んだ杏のことを思うときだけ、強くなれる……」
上へと伸ばした左手の、手のひらだけを机に乗っけた状態で、それ以外は肩も含めて落っことしたままにわずかな声を出す私に対して、シャドもわずかな声を出しているみたいで。こっちも目を細くしたままに呼吸を繰り返しながらそっちの様子をまっすぐに見続けた。
一方で、シャドは歯を強く噛みしめながらずっと顔を斜め下に向けるままにしていて。その中で目を左右にずっと動かし続ける。ただ、そこ以外の場所はお腹の辺りで軽く両方の手を組むようにしている上に、手で反対側の前腕を撫でるように動かし続けているだけだった。
周囲ではただただ私の口で激しく繰り返し続ける呼吸の音が何度も繰り返されていて、それ以外の場所では何も音がしない。そして、辺りでずっと等間隔で並び続けていた机は私の後ろで転がり散らかしたように左右へと飛んで行ってしまっているのと、シャドが暴れたせいでその姿を中心にスペースが出来上がっていて。それのせいで向こうの体全身が窓の向こうから入りこむ夜の闇にただただ染まっている。
一方で私の方は、左肩の方に軽く山を作っている机があるせいでそれの影に体が隠れてしまっていて。青くなりそうなほどの白い肌も東雲や私の血がシミになっているうさ耳パーカーもすべてがより暗い色に染まりきっている。
教室では私たちが暴れまわったものの、ロッカーの上にあったプリントたちはほとんど床の上には移動してなくて元の高さを保っているし、黒板にも色とりどりのチョークで書かれた花や星やハートマークに囲われた終業式の大きな文字は全く乱れていない。
上へと視線を向けたままじっとしている私は口から小さな呼吸を繰り返しながら体と同じ方向の少し下の方をじっと見ながら呼吸を繰り返してて。肩をわずかに上へと上げたり下ろしたりの上下運動を繰り返していた。
目を閉じてから体を持ち上げようとするけど、その間周囲で感じられる空気の変化は、どこにもなくて。シャドはずっと同じ体勢の体を細くするみたいな体勢のままでいるのはこっちが腕を落っことして背筋を微妙に猫背にした形で右の肩をそっちへと向けたままでいる間も一緒だった。
そう思ったけれど、顔は同じ姿勢のままでいる一方で目線だけでこっちへとちらちら見ているのに気づいたら。私もわずかにそっちへと足を動かそうとして、一歩だけ足を動かしては手を前へと出す。そして、その指も少しだけ曲げたままに爪先をシャドの方へと向けるみたいにしていた。
「そうだよな、私たちは、何も違いなんかありゃしない」
最初は小さく出してそれをだんだんと小さくするみたいにしてたけど、それの音が消えた途端に顔を上へと向けながら次の声を出そうとしたら、その瞬間に先ほどシャドになぐられた後頭部の辺りが急に痛み出して、そこに指を触れるとわずかに血が出始めているのにその生暖かい感覚で気づく。
でも、目を強く瞑りながら頭を数回左右に振り、それからまたそっちの方を見たら、いつも半開きになってる口がいつも以上に開いてて、さらにかかとが持ち上がってるのに気づく。顔を一度前のところで回すみたいに下を向いてからもう一度そっちへと戻して、その動きをしている間にわずかに笑うみたいな声を出した。
それから、後ろにあった倒れたままになってる机の上にお尻を乗っけると、背筋を曲げて頭をほんの少しだけ前のめりになるみたいな体勢のままでいて。でも、その途端に後頭部以外の部分でもさっきやられた箇所が痛み始めると、お尻がちょこっとしか乗っかってなかったのもあって一気にそこから崩れ落ちてしまい、体が肩から床の上に落っこちたら、低い音がして。その衝撃も痛みになっている部分に浸透して歯と目を強く食いしばって。でも、それでも口の奥からあふれてくるわずかな音を止めることも出来ないまま、体全体を動かすことしかできなかった。
それに対して、遠くから高い音がしてきて、それがわずかに霞んでいる視界の中で頭を地面と平行にしているせいかそっちからこっちに近づいてきてるのがわずかに見えるけれど、それはほんのわずかなペースで、近づいているどころか離れていきそうになっている時もあって。そんな光景を見ながらいたかったものの、すぐに目を強く瞑ってしまった。
右手で後頭部の血の出ている場所を押さえようとして、そこからは指同士の隙間からそれがも溢れてしまっている上に、顎を自分の側にそれ以外の腕や足のところも触れると鈍い痛みがしみ込んでくるのであざになっているのに気づく。でも、それをじっと感じているうちにシャドが足をこっちへと近づけている音が2歩ほど続けているのを気づいた途端、そっちを顔を上へと向ける。
その、目を片目だけ開けたままに両方の腕で上半身を持ち上げようとしたこっちに対して向こうが曲げた指を手のひらを見せる角度で近づけているのを見たタイミングで。シャドの後ろからいきなりまぶしい真っ白な光が入り込んできて。その途端に私は開いてた方の目を閉じながら前側にいた左手の肘で自分の顔に入り込むそれを遮った。
「いました! こっちです!」
私の前で猫背になっているシャドがそのこっち以外に向けて発している声が聞こえた途端にそっちへと振り返っているのが匂いで感じとって。一度体のバランスを崩して両方の手で伏せるみたいな体勢になっていると、そっちに作業用のベストを身に着けた若い男の人がいて。シャドも立ったまま首を動かしてそっちを見ているせいか、こっちには目が小さくて幼く見える顔の半分と骨が見えてしまいそうな肩からサイズがあってないのか前の方が大きく広がっている病衣の姿が視界に入ってきてる。
それを数秒間見た後に、こっちも床から机へと縁にするものを変えていきながら体を何とか立てると、それから足のバランスをずらして一歩前へと出す。しかし、それで体が崩してしまったら、そっちにおでこを付けて数回呼吸を繰り返した。それから顔だけを教室の引き戸へと視線を向けたら、ベストの男の人の後ろからひょっこりと星田さんが出てきてるのに気づいてすぐに体に魔力を込めてバランスを取って一気にそっちへと近づこうとした。
「大変です! 木月さんが変質者に襲われてます! 早く、来てください!」
その大きな声に驚いたせいで、周囲の壁や窓にわずかな紫色の光を込めながら床を魔力で滑らせてた足も一気に止まってしまい、そのままの勢いで尻もちをついてしまい、そこから衝撃が加わると、それのせいで、またさっきシャドに椅子で叩かれた場所が次々に痛みを訴え続けてきて。廊下の方へと向けて上へと伸ばした手を振りながら大きな声を出している星田さんの声へと反応するのが遅れてしまう。
痛みを味わいながらもなんとか腰と両手に力を込めて立ち上がりその名前を大きく呼ぶけれど、それに対して向こうは一切止まろうとしなくて。一度言葉を終えた後も、額に汗を流しながら何度も体を動かして喉から大きな声を出し続けているし、その間からいくつもの足跡が聞こえてきていた。
「木月さん!」
その声を出しながら入ってきたのは、倉敷さんの部下の女性の姿で、いつも通りの黒いショートカットとサングラスではあるものの、顔にできているしわの動きでその感情を読み取ると、近くにいた数人の男たちにシャドを指さしながら大きな声を出して指示を出していて。そっちを見たら、わずかに腰を落としながら銃を構えている2人の様子を見て、私も目を大きくしながら上半身だけでも一気に持ち上げて口を開く。
「あいつ! あいつです! さっき言った、承認欲求満たすためだけにネットに迷惑行為を上げて注目浴びてるYoutuberですよ! 今度は木月さんを無理やりあんなこと……! お願いします! 木月さんを助けてください!」
「星田さん! 違う! 違うんだ! シャドは……!」
こっちが先に言おうとしたのに、それよりも先に星田さんが部下の女性へと近づいてその体へとぶつかりそうなほどの距離になった途端、首を大きくその顔へと向けながら続けて話し出す。さらに、まだ話が終わってないのにも関わらず、首を曲げてこっちに話し始めてきたタイミングで、私もその眼を警備員の人を挟んで合わせる。
それでようやく星田さんの声が止まったと思ったタイミングで私もまた言葉をつづけようとするけれど、それを出そうとするたびに脳がちゃんと働かなくて、頭を抱えながら何度も下を向くみたいになってしまう。
膝を曲げて頭を抱えている状態からそれを元に戻してまたシャドの方を見ようとした途端、すぐに私の体が太いものに抱きかかえられた感覚がして、すぐにそっちへと視線の向きを変えたら男の人が私を後ろへと運ぼうとしていた。
その体を押してその腕から逃げようとするけど、とても大人の力にはかないそうもなくて。そっちへと向けて目を開けながら体をシャドの方へと出そうとしたら、口を開けてその名前を呼ぶけど、でも、それに対してもう片方の男の人から発せられた細い針のようなものを刺された途端、その膝を曲げてその場に座り込んでしまってた。
「木月さん、今は落ち着いて、001のことも、全部私たちに任せて大丈夫ですから」
シャドの名前を呼びながらそっちに行こうとする私に対して部下の女性がこっちに近づいてきてるのに気づいて。そっちへと口を強く紡ぎながら眉をひそめて視線を向けるけど、その途端に私の頭の後ろを撫でられたら、そのまま女性は自分の顔の前に2本の指を持ってくるみたいにしてて。その間で私の血が糸を引いているようであった。
それから、「保健室を借りましょう」というまっすぐに表情が変化しないままに運ばれて行き始めてしまう。それへと抵抗するために手の平をそっちへと立てながら体を伸ばそうとするけど、でも、筋肉もすごくてガタイのいいその人はびくともしなくて。足のペースが変わることもないままに星田さんの横を通り過ぎる。
「彼女が花笠さんを通じて私に連絡してくれなかったら、あなた大けがですよ」
その声を部下の女性が発した途端にわずかに上を見上げるみたいな感じでこっち側に近い位置にある口を少しだけ開けてその中にある白い歯を見せてくるけど、その様子もすぐにシャドを運んでいる姿に隠れてしまって。そっちを見るけど力なく目を閉じたまま運ばれている揺れ以外では一切体を動かさないでいた。
「悪いね、こっちは大人たちが大好きな優等生だから」
そのわずかな声が聞こえた瞬間、私は限界まで歯を噛みしめるけれど、それだけじゃなくて、目も強く瞑って限界までその周囲にしわを多く作る。でも、体の熱くなっている個所は一切変化することはなくて。それのせいもあって喉が何度もしゃっくりするみたいに動くし、それと同じタイミングで高い音がどうしてもそこから出てしまった。
「こいつはどうしましょう?」
シャドを引きずりながら運んでいる男がその首根っこを掴みながらいるのに対して、私の方へと振り返りながら話を進めている部下の女性は、歩き出してからは一度も止まろうとはしない。それどころか、私のことも通り過ぎて、すぐ近くにあった下り階段の元へと向かって行っていた。
「そっちは私たちで保護する必要はありませんので」
その言葉だけを言い残すと、等間隔のペースで足音が聞こえて来るだけになってしまい、そのまま姿が見えなくなってしまった。それのせいで、1秒したかしてないかくらいで終わった男の人の返事もそっちには届いてなさそうだった。
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