第109話
立ち漕ぎのままずっと足を上下に揺らすようにしてこぎ続けた結果、コンビニの前の通りに来た瞬間、ブレーキを強く締めた志太の自転車は後輪を一瞬だけ浮かすみたいにしていた。それと一緒に体のバランスを崩しそうになるも、足をすぐに地面へとつけてから、肩の辺りで体を曲げたままに下を向いて息を何度も繰り返す。
一度だけ息を強く吐いてから目を閉じそうになっているのに対して、一度持ち手に強く力を入れるのと同じく体重をそこへと乗せるように肩をそこへと近づけてから顔を上へと向ける。
辺りを見回す志太だが、歩道橋の裏側の塗装がはげ落ち始めている姿にも、緑色のマットがずれ始めている階段部分にも、車が行き来を繰り返している車道の向こう側、そして白い光で看板も店の窓の向こうも構成されているそれに対して、少しだけ目を細くする。
息を吸い込む音をさせると共に胸も動かしている志太は、喉から出るような大きな声を出していた。
「心愛さん!」
「だから、聞こえてるって」
ハリーがすぐ後ろにあったもうシャッターが閉まったままになっていた薬局とマッサージ店の間にあるわずかな隙間の前で両方の膝を立てたままに座っているハリーの姿があった。その塗装がされていない場所で様々な方角へと尖りを見せている手ごろな石を下へと向けた指同士の間で弄るように転がし続けている。しかし、彼女は視線をずっと言葉が終わった後も含めて、上へと視線を向けたままに見ていた。
それに対して、自転車を一度止めた彼はすぐに数歩そっちへと近づくと立ったままに視線を見下ろすような体勢でハリーのことを見ようとしたが、その後すぐに顔を数回叩いて小さく言葉を発してから座り込んだ。
そのまま唇同士を強く締め付けているそっちに対して、見られた側は視線を横へと向けるみたいにしてそれを見ないように。それに対して、志太の方はただただまっすぐにその様子を見つめ続けていた。
それから口を細くするみたいにしていたハリーは石を持っている方の手も、そっち側の腕の下敷きになっている膝を持つようにしている方の手もそのままに、ただただ同じ体勢のままいたと思っていたものの自分の方から、口を開き、その瞬間志太も少し目を開ける。
「思ったより、早かったな」
最初は少しだけ普段よりも早く大きめな声であったものの、それも一度止まった後はだんだんと小さくなっていくそれを志太はただただ聞いていたが、それが言い終わると共に向こうから下へと向けていた視線を横へと逸らしていて、それを見終えた後に顔をわずかに傾けながら息を吐く。
さらに、目を細くするようにしていたそっちをしばらくじっと見ていたのだが、それにハリーの方も気づいたようで、首も視線と同じ方向に向けながらわずかに悪態をつく。
「心愛さんのこと、ずっと探してた」
それから背筋をまっすぐにするために足も小さく数歩動かしながら整えて。それが終わってから言葉を続けているのに対して、言われた側は顔も視線と同じ方へと向けている物の、そっち側にはもうすでにシャッターが閉まったままになっている個人営業のお店がずっと並んでいるだけ。
それもだんだんと視界の都合で遠くに行けば行き程に細くなっているのが見えていたものの、丸くて白い街灯が等間隔で置かれてしまっているがゆえに、暗くて見えなくなっているということはなかった。
一方で、ハリーが背にしている店同士の間の小さな道にすらもなっていない隙間はデコボコと盛り上がったりへこんだりを繰り返している上に、雨水を通すための管が取り付けられていたりエアコンの室外機が取り付けられていたりしている。そして、そこの幅は人が1人ようやく通れるくらいの太さで、ハリーの体の横幅よりも明らかに狭くなってしまっていた。
「なんで、電話に出てくれたの?」
その声を出す志太はいつもよりもわずかに小さくしているみたいな形で出てきていて、それと共に膝の上に乗っけているのを両手だけにして手首を折り曲げるとそこから肘が落っこちるみたいな体勢に。さらにそこから前腕と太ももをくっつけているせいか、そこについている肉がどちらもつぶれるように横へと広がる。
さらに、薄目にしているその顔をハリーは上瞼を下ろしながらただただ見つめるようにしている物の、それが終わったタイミング、向こうが話が止まったのがわかるほどに時間が経ったときに彼女自身から口を開く。
「なんで出ないんだよ」
一瞬にして消えるくらいの早口で出た言葉はずっとじと目ぎみに相手のことを見つめたままにしていた。最初を一番強めにしたようなその声が言い終わると共にまたずっと同じ姿勢でいるハリーは、ずっと動かし続けていた指も一切止めていて。それでいながらもその下にある石と同じ形の土のヘコミにそれを落っことすわけでもなく、ただただ首の後ろ側を撫でるように片方の手を動かしながらそれと共に下を見ている相手の様子を眺めていた。
一方志太は相手がさっき見ていたのとは反対側の道を見るみたいにして横を眺めていて。そっち側には陸橋の上を1人の人が歩いていて、その足音をずっと立て続けていた。その光景を志太自身も見つめながら小さく息を吐くみたいにしていて、そっちにも反対側と同じ形の街灯がただただ並んでいるだけの光景があって。それを数秒間眺めた後に自転車へともう一度乗ってそれから持ち手に両方の腕を乗せてから自分の頬を潰すように自分の顔を押し付けた。
「僕のこと、嫌いなのかと思ってた」
「あたしはもう花笠心愛じゃねぇってだけだ」
それは、自分の地の声であるかのようであるものの、それと一緒にわずかな呼吸もまじっているようであって。同じ体勢のままにその言葉を発していたせいか、いつも以上に声が低くなってしまっていた。
一方でそれを聞いたハリーは目を細くしながら自分の肘を膝の上について、さらにその上に自身の頬を乗っけるものの、志太と同じように顔の向きを相手からそらすことや頬の膨らみ方を変えるようにはせず、ただただ目線だけで上を見ている形だけであった。
しかし、周囲には冷たい空気が流れているだけで、そのままハリーが地面にお尻をつけないままにしゃがんでいる姿勢と志田が親にもらった自転車にまたがってただただいる姿勢がそこにある。その2人をわずかな瞬間だけ照らすように近くの道路をトラックが走るけれど、それで前者の方だけ少し目線を反らす。
「そっか……」
息と一緒にわずかに出すその声が出たのと同じタイミングで視線を落っことす。そして、それのせいで瞼がまた下に降りて目の見えている個所がだんだんと狭くなっていっている物の、その中の一部が白い街灯の光を反射しているようで。それが両方の目に反映されていた。
その一方で、近くを走り続けている車はただただ行ったり来たりを繰り返しているだけで、2人の横を通り過ぎるタイミングでもそれに対してそっち側は何もせずにただただまっすぐに進んで行っているだけで。
一方で彼らは風で髪の毛が揺れているが、それが大きくなっているのは志太の方のみ。ハリーの方は今も後頭部で花の形を作るみたいに結ばれているせいで揺れるところがほぼないものの、そうなっていない箇所も同じようであった。
「でも、僕は志太陽にしかやっぱりなれないよ」
顎を自分の腕に乗っけたままのポーズでいたものの、その抑揚をつけるタイミングで急に高くなったみたいにしているそれを出しながら、だんだんと話し方がゆっくりになっていた。しかも、しばらく続けていた体勢をその言葉が終わるタイミングで腕に付ける位置を顎から鼻に変えていた。
「そうかよ」
その声はゆっくりとだるそうな形で話していて、その言葉を出すと共に、両方の肘を両手に押し付けるみたいにして一気に立ち上がるハリー。それを見ていた志太は自分の腕でその位置が隠れてしまっている物の、そっちへと向けてわずかに口を開ける。
それから、立ち上がった後に両側のポケットに手を入れて闇に溶けたままになっている鼠色のパーカーとチャックを下の方だけ止めているままにその中の白いシャツと下を1枚だけで覆っている黒いジャージの姿をあらわにしている。
その光景のまま今度は首の角度を変えることでただただ顔と同じ角度で視線を志太の顔のある場所へと向け続けていた。一方で、向けられている側は目尻を落っことしたままにした様子から動こうとしないで。それのせいでお互いにじっとしているままになっていた。
「だからだ、電話を出た理由を聞くなら。姉御ならきっとそうすると思った」
最初はさっきと同じように出した声であったが、それに続いて出てきたのはわりとゆっくり目の物で。しかし、体勢はそのままでいたと思っていたら、それに対して志太の方は自転車の持ち手に両方の手の力を籠めながら顔をわずかに浮かせてそっちを見上げているみたいにしていた。
しかし、そのままわずかに口を開けるような体勢でいるそっちを見ているハリーは唇へとほとんど力を入れないままにそこを閉じていて。顎が自身の体へと向くような角度になっているせいか、その影で顔が暗くなっている物の、それを見ている間その顔が変化することはどちらにもなかった。
「おら、腰抜け助けに行くだろ、あたしは自分のケツくらいは自分で拭かなきゃなんねんだよ」
先にハリーの方から動き出したと思いきや、軽快に自転車の荷台に乗り、それから足を自転車の骨組みに乗っけたままに両方の手を組んで視線をまっすぐその背中へと向けていた。
一方で志太の方はその重みで自転車が揺れたのに気づいてからそっちへと振り返っていて、わずかに目を開けながらその光景を眺めている物の、口も同じようにしているのかそのわずかな息で唇が動く。
それによってお互いに目が合うが、彼女は自身の胸の前に二の腕を持ってくるままにおろしていて、それから荷台を掴むみたいに。さらには鼻からわずかな息を少しだけ吐き出しながらも、口を噛みなおすように一度開けてから口をわずかに傾けたまま目をいつもと同じ大きさのままにそっちへと向けるように。
その様子を見た志太の方は、すぐに右手を自転車の持ち手に乗っけたままそれで体を支えて、もう片方で籠からスマホを取ると、もう一度ラインを開いたせいか、その途端にその顔を緑色のバックライトが照らしている物の、それはすぐに白色に代わることで影を強調するようなものに変わった。
「これ、見て」
自分の体の前にスマホを持ってくるようにしてその画面を見せつけてくる志太に対して、ハリーはそれからわずかにお尻を動かすことで体を遠ざけながら目を細くしてその様子を見つめる。
そこの画面にはシャドが図書館のトイレで動画を撮影していた時のアーカイブが流れていて、そこでまた流那のことを「うんこ野郎」と繰り返し罵倒し続けている様子が映っていて。それを見たハリーも口を一度噛みなおすような表情をしながら瞼を上から下に落っことすように。
さらに、その表情もずっと続けるようにしていたけれど、動画を志田が自分の指で止めた辺りでそっちの顔へと向きを変えることで変化している。それから腰を使って荷台側に振り返っていた表情をもう一度作り直し、しわを増やすかのように目元に力を込めながら口も小さくする。それをみたハリーもそのままの表情のまま相手のことをじっと見続けていた。
「僕は、志太陽として、こいつに挑みたい、でも……」
胸元に自分のわずかに開いた手を重ねたままそっちに近い位置に視線を持っていく形にしている息と一緒に声を出す。視線もだんだんと下へと向いていきながら顔にこもっていた力も少しずつ抜けていくみたいに。
一方でそれをまっすぐに見ているハリーは全く表情を変えることもなく、言葉の途中で止まった相手の口元をまっすぐにじっと見つめているようだった。そして、それは周囲から聞こえて来る音が車の走るそれだけになったタイミングでも同じ。
しかし、志太の方から口を閉じて顔を下に向けたままに相手を見つめるような目を見たお途端、一度舌打ちするような反応を見せたハリーは荷台の上を一度叩くと一緒に足を浮かすように動かしていた。
「言ったろ、自分のケツは自分で拭く。足引っ張んじゃねぇぞ」
それから、その言葉を発する直前に顔を一気に近づけたハリーに対して、志太は息を吸い込みながら下唇を上のに押し込むような表情をして、それと共に目を丸くする。ただ、前者の方は顔をそのままの位置で喉を引っ込ませたままにその表情を見せていた。
後者の方は一度背筋をまっすぐにしていたのをだんだんと曲げながら肩も落っことしていて。それから視線を細くした目の中で視線を横へと向けるだけにしていたものの、そっちには車が走っている姿しかない。
その後、ハリーの方が「とっとと行くぞ」とまっすぐに言ったのに対して志太もわずかに返事をしていた。
読了ありがとうございます。




