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遺骨拾いの少女

作者: 曇咲胡桃

リハビリとして書いたものです。

続きを書く予定は今のところありません。

 ボロボロに剥がされ散乱した小石のようなアスファルトを避けながら、坂道を無心で登る。

靴底が剥がれかけているせいで、踏むととても痛い。

小指から垂れる血が、私の居場所を動物達に知らせてしまわないか少し心配ではあるが、そんなことよりも、この星に置いていかれてしまう方が遥かに心配だ。


 最後の船が出星するまでの期限は後三年くらいだろうか。

時計も何もないので正確にはわからないが、ゆっくりとしていられるだけの暇はない。

私が生き残る為には、元素を集めるしかないのだから。


 現在この滅びゆく星……地球に残っている人間がそうしている理由は、大きく分けて3つだ。

1つは、この星でまだ人間が生きられると信じこんでいる狂信者。

2つは、この星を終わりの地にしたいお年寄り。

そして、3つが、私のような戸籍も家族も何もないせいで船に普通に乗ることが許されなかった、『持たざるもの』。


 けれども、一応の救済策はある。資材となる元素を集めることだ。


 人類が宇宙へと……惑星系外へと飛び立つ時、多数の宇宙ステーションも、国も、都市も、町も、ダムも、大きな山も、川も、海も、今後も必要になるであろう殆どのものが、解体され、分解され、圧縮されて次々に船へと積まれていった。


 片手に強く握った袋の中、改造スタンガンの姿を確認する。

残りカスのようになったこの星の中で、今取り合いが熱いのはカルシウム類だ。

資源を持っていくと分解機に入れられるのだが、その貰えるポイントが比較的高い。

今は2500ポイントくらいあれば船に乗る権利が買えた筈だ。

因みに私が持っているポイントはその半分くらいだ。

他にも、ポイントで食品が買えたりするので、資源の取り合いは熾烈を極めている。

都市部跡の遺骨粉は全滅していたし、何より野性動物だけでなく、『人からも取れる』。

場所によっては先程まで生きていた人間と悟られないように、人を組織的に加工している集団もいるようだ。


 そんな訳で、私は今一人、名前も知らない山を登っている。

山の上の集落のお墓の中ならば、納骨室に中身があると信じたい。

無論、なかったら私が死ぬだけだ。




 大昔の山岳信仰の名残なのか、所々に小さな祠のようなものを見つける。

1円玉等の高得点物質があるかな~と上から見たり這いつくばったりしてみたが、どうやら取り尽くされた後のようだ。残念。


 成る程、硬貨なんて高価なものが山の中でも拾えるのか。


 こういうことを即座に思い付けるような優秀な人間は、今はもう船で宇宙へと飛び立っているんだろうなぁ、と自分への諦めのような感情に苛まれる。

実際問題、今この星に残っている人間など殆どがロクデナシだ、私も含めて。


 だから、身を守るために、このスタンガンがいる。電池式の、後どれくらい保つかわからない、私の相棒。

こいつとも、いずれお別れする日が来るのだろうか。




 真っ暗なトンネルを抜けると、景色が開けて、幾つかの家が見えた。

周囲の気配に気を配りながら、足音を立てないように指の付け根から地面に足を下ろす、を繰り返す。

暫く村の跡地を歩いてみて、特に人の気配がしないことを確認し、肺に溜まった淀んだ空気を吐き出す。

人がいないというのは、落ち着けると同時に、食料を得られる機会が無いことも意味する。

出来ればポイントを使わずに食料を得て、ポイントを節約したいところだった。


「少し、休憩しようかな。」


 近くの家に入って、灼熱の眼差しから身を隠す。太陽は年々大きくなっていて、防護服無しで直接日差しにあたり続けるのは命に関わる。少し村を散策しただけで目眩がする。汗は殆ど蒸発して、気持ち悪さだけが肌に残る。

汗ばんで少し油を纏った髪を雑に手で解す。

あぁ、水が綺麗なら水浴びもしたいな、なんて思うけれど、それはやることをやってからだ。


 入った家を見渡すと、どうやら民家というよりは小さな商店のような場所だったのではないか、と思う作りをしていた。

ここではいったい商品がどう置かれ、何が売られていたのだろうか。

この狭さ、この小ささ。

入り口のドアが無いということはガラスの引き戸か何かがあって、けれど道路と面しているため、外に商品を陳列することは出来ない。

八百屋ならもっと違う立地を選ぶ気がする。

建物が他の民家と比べても遥かに老朽化している。


「う~む。わからん。」


 頭を使って無駄にエネルギーを消費してしまった。

仕方ないので、腹ごしらえに僅かに甘いだけのブロックを齧る。

パサパサのレーションは水分を多く持っていかれるため余り食べたくないが、これが一番低ポイントで買えるのだ。

まだ生きることを諦めていない私にとっては、仕方のない選択だ。

木製の水筒に入った貴重な水を一口だけ飲み、レーションを胃へと流し込む。


「水って必要不可欠なのに……何でこんなに重たいのさ……。」


 そんなことを呟き、思う。

私には、何もない。家族も、友達も、愚痴を聞いてくれる誰かも。

それでも、生きたいと思うのは、何故なのだろう。

船に乗って、宇宙の、銀河系の外、新たな銀河のその内で、私は何を得るのだろう。

そしてその時の私は、この答えを見つけられているのだろうか。


「在るかどうかもわからない未来について考えるのは、それこそ、無駄だな。」


 水筒を袋に戻し、握り締め、立ち上がる。

村を散策する間に、墓の位置は大体把握した。


「さて、お宝を拾いに行きますかね。」


 墓荒らしという禁忌を咎める人間など、もう誰もいない。

それならいっそ、かつて生きた、今に繋がる道を作った彼等の残した想いの残片を、私が船に乗せてやるのも、悪くは無いのかもしれない、なんて。


「くだらない正当化は止めようか。」


うん、ただの墓荒らしだ。

それでいい。きっと、生きるっていうのは、そういうことなのだろう。





 「案外集まるもんだな。」


 想像以上に成果はホクホクだった。

不純物はあるかもしれないけれど、これならかなりのポイントになりそうだ。


「ふふ、重たいのって幸せだなぁ!」


 袋の半分以上を充たす骨粉の上に水筒とスタンガンが入っているため、両手でないと持ち上がらない。

けれどその重さはポイントへと変わり、食べ物になり、水になり、未来へのチケットとなる。

あまりに嬉しくてクルクルと回る。

ふと空を見上げると、陽はもう沈みかけていた。


「今から下山は……無理そうだ。」


 どこか民家にでも入って夜を越そう。

出来れば布団なんかあると嬉しいけれど、それは流石に高望みし過ぎだし、そんなに幸運が続いたら、逆に大きな不幸が待っていそうで怖い。

それこそ即死やら凌辱のち死ぬレベルだ。

幸運なんて程々でいいのだ。

大量に流れ込んでしまっては、許容量を大きく越えた弱くヒビだらけの私の心はいともたやすく決壊してしまう。

そう、程々で良いのだ、幸福なんて。



「…………いやいやいや。」


そんなに幸運が続いたら……。


「…………いやいやいやいや、嘘でしょう!?」


何で、こんな田舎の山の村の中に……自立式駆動機械……それも、超高価な人形タイプが……。


 偶々入った小さな民家の床下に、埃や砂を被ってはいるが、傷一つ無い自立式駆動機械人形が眠っていた。


いや、いやいやいや。

ポイントゲットどころの話ではない。

こんなもの売るだけで質素になら一生暮らせるレベルだ。

ただ、このまま運ぶのは厳しいし、分解して、内部のレアそうなパーツだけ持ち帰って売っても十分ポイントは足りる。


「ど、どうしようかな。」


 そんなこんなでどうにか地下倉庫?らしき場所から引きずり出してみる。

女性型のアンドロイドだ。多分、一番高いタイプの高性能なやつ。

あまりに違う世界の産物過ぎて全然わからないが、多分凄いやつだ。


「ん……。」


 喋った!?何で!??

電池が入ってたの?いや、だとしたら今まで動いて無かったのはおかしいし、引っ張り出す時にどこかスイッチでも押してしまったのだろうか。


「コモンコンピュータにアクセス……出来ません。臨時データベース……参照不能。機能が大幅に制限されます。」


 ペチャクチャと独り言を呟いたかと思うと、すくりと立ち上がり、外へと出ていく。


「位置情報……アクセス不能。……地形情報、読み取り完了。周囲に他の人間の反応無し。状況がわかりません。説明を求めます。」


くるりとこちらに反転して、いきなり説明を求められる。

説明が欲しいのはこちらの方だ。


「いや、……何で、動いてるの……?」

「我々は光をエネルギーに変換して活動出来ます。……今は私、と表現するべきなのでしょうか?」

「光を……。」


僅かに玄関から入った夕日で動いたのか……凄い……。


「それよりも、説明を求めます。我々の共同ネットワークはおろか、衛星や、そもそもインターネットにアクセス出来ないのは対処マニュアルも存在し得ない製作者の想定外です。」

「まぁ、うん、そうだよね。」


 人と、いや、正確には人ではないが、こうして『会話』をするのはいつぶりだろうか。

不思議な感覚のまま、私はこの世界で起きた、起きていることを、可能な限り話した。





「……では、私は廃棄されることもなく忘れ去られた個体、ということでしょうか。そして貴女の良いポイント源。」

「そんなことは言ってないでしょう!?」

「しかし、私にはとても貴重なレアメタルが多く使用されていて……。」

「わかったから、もういいわよ!一旦黙って!」

「……。」

「……素直ね。」


 普通に、いや、結構二次元チックではあるが人の見た目をしていて、普通に思考し、話せる存在。

解体なんて……出来るわけないでしょう!?


「……話して良いわよ。ポイントの話以外なら。」

「では、お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 名前か……そういえば、そんなものもあったっけなぁ……。


「名前……なんて、無いわ。」

「私もありません。デフォルトの命名表ならデータベースに存在しますが。」

「お揃いね。」

「……では、お互いに名前を付け合うというのはどうでしょう?」

「別に良いけど?」


 便宜上、何かしら名前を名乗った機会はあった。けれど適当に付けた名前だったし、呼ばれることもないので忘れてしまった。


「では、貴女の名前は『ポイント』でどうでしょう?」

「馬鹿にしてんのか!?」


何なんだコイツ、不良品なんじゃないか?だから地下に眠って……。


「残念ながら、思考回路に関しましては極めて良好です。それと、終了個体の可能性があるため、パーツの無料交換保証は期待出来ません……良好だけに。」

「お前やっぱりポンコツだろ、絶対。」


 口ではそう言うが、ここまで自立思考が出来るのは、間違いなく本物だろう。

だとすると、


「名前は兎も角、あなたは貴重品だから、色んなやつらから狙われるよ。わかってる?だから……。」

「目覚めた瞬間からモテ期とは、私も罪な女です。」

「マジメな話してんだよ!?」


 何でこんなにも面倒臭い性格をしているのだろうか。いや、自立式駆動機械人形は皆こんな感じなのかな?


「貴女がコミュニケーションに不慣れなことを察知し、話しやすいように振る舞っているまでです。キリッ( ・`д・´)」

「あ、そう。」


 いや、まぁ、助かるし、優秀なのはわかった。うん。

けど、ウザい。マジで解体してポイントにしてやろうか。


「ふっふっふ、そう簡単に解体されるとでも?セキュリティモードとして戦闘能力も有しているこの!優秀な!?私に!??」

「ウザウザモードはもういいよ。というかこれ以上思考をよむの止めて。」

「了解しました。多分。」

「あんたボケるの好きだね!??……ふふっ。」


 人と話すのって、こんな感じだったっけ?

もう昔会話をした記憶が朧気で覚えていないけれど、悪くは感じない。


「セキュリティモードって言ったよね?何それ。」

「主様の身の安全を保証する戦闘モードです。」

「……相手が銃やナイフを持った複数人でも?」

「その程度であれば全く問題はありません。」

「成る程。」


 どちらにせよ、袋いっぱいの骨粉、間違いなく狙われる。それなら。


「じゃあ、ポイント変換場まで、着いてきてくれる?」

「了解しました。あ、あ……主さ……ま……。」

「?……どうしたの?」

「いや、こんなちんちくりんを主様と呼ぶのは気が引けて……。」

「夜が明け次第出発するぞ『ポイント』!」

「では、略してポトとお呼び下さい。」

「お前はそれで良いのか……。」





 そんなこんなで始まった、私と機械人形の骨粉探しの旅のお話。

いずれまたどこかで、お話する機会があるかもしれません。


「こんな所にいたのですか、ノア。今度ははぐれないよう手を繋ぎましょう。」

「私は祭りで迷子になった子供か!?……ポト、あんたとの出会いを、思い出してただけ。」

「あぁ、社交界のダンスパーティでノアに熱烈なアピールを受けて……。」

「捏造すんなし!」


 コホン、……それでは、また、宇宙のどこかでお会いしましょう。

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